2027年3月期1Qの増収増益と、会社が挙げた集客の中身
直近の2027年3月期1Qは、売上高561億円で前期比+3.9%、営業利益178億円で+5.7%、経常利益178億円で+7.4%、純利益118億円で+4.6%。増収増益で立ち上がった。
通期予想は売上高2,419億円で+5.9%、営業利益744億円で+7.3%、純利益497億円で+3.7%。1Q時点の営業利益の進捗率は24.0%で、直線ペースの25%をわずかに下回る。
売上の伸びが1桁前半にとどまる一方で利益の伸びがそれを上回った以上、費用の効率は前年同期より改善している。
では会社は何をやったと言っているのか。短信によると、ZOZOTOWNではユニークユーザー数の拡大と購買率の向上を狙い、2026年5月14日から24日までのセールイベントと6月17日に始めた夏の本セールに、TVCMとWEB広告を投下して集客を強化した。
そのうえで2026年4月27日にLINE公式アカウントを開設し、AIによるコーディネート提案を通じてLINEを新たな顧客接点にするとしている。ZOZOTOWNへの新規トラフィックの創出を見込むという。
ここで資本関係が事業の実体に顔を出す。LINEは親会社が運営するサービスであり、その導線を自社サイトへの集客に使っている。
さかのぼると、2026年3月期の短信では、Yahoo!ショッピングとヤフオクの合算であるLINEヤフーコマースが、モールを運営する親会社側の集客と販促施策によって売上を伸ばしたという。ZOZOはこの2つのモールに出店する立場でもある。
自社サイトとグループのモール。この両輪が同時に回っているのが今の姿だ。もっとも、親会社の集客に乗る部分が厚くなれば、成長の手綱の一部は自分の手の外に出る。
海外はもう一つの軸だ。2025年4月にファッションショッピングプラットフォーム「Lyst」を運営するLYST LTDを完全子会社化し、のれんは6億円から218億円へ膨らんだ。2026年3月期の投資キャッシュフローは▲288億円で、前期の▲62億円から大きく振れている。
会社は2026年4月に公表した中期経営計画で、2030年3月期に調整後EBITA900億円を目指すとしている。
増収増益が続くなかで、株価は昨秋から水準を切り下げた
株価はこの1年、業績とは逆の方向を向いていた。
2025年9月末の終値は1,300円台で、2025年9月末以降の月末終値ではこれが最も高い水準にあたる。10月末、11月末も1,300円台を保ったが、12月末には1,200円台へ下がった。
2026年に入ると下げが続く。1月末は1,200円台、2月末に1,100円台、3月末も1,100円台で、4月末には1,000円台まで下押しした。5月末には1,000円を割り込んでいる。
転機は6月だ。6月末は1,100円台へ戻し、7月末、そして2026年8月時点も1,100円台にとどまっている。それでも起点の1,300円台からは1割半ほど低い。
増収増益が続き、通期予想も増収増益で、還元も手厚い。それでも株価は水準を切り下げた。このズレをどう受け止めるか。
ひとつには、バリュエーションの調整という説明がありうる。高いROEと高い利益率を持つ会社には、それを前提とした株価水準がついてまわる。成長率が1桁前半に落ち着けば、修正されるのは前提のほうだ。
もうひとつは成長率そのものへの見方だ。会社は2026年3月期上期について、2025年9月の気温の高止まりでユーザー需要が低下し、商品取扱高の成長率が計画を下回ったとしている。天候要因は一時的でも、成長率の絶対水準を意識させるきっかけにはなる。
議決権の過半が固定されている構造も、株価の背景として無視はできないだろう。もっとも、株価がどの要素をどれだけ織り込んでいるかを外から特定するのは難しい。6月以降の戻りが評価の落ち着きなのかどうかは、2027年3月期上期の決算の中身を見てから捉えたい局面だ。
なぜこの構造は、投資家のイメージに残りにくいのか。
理由のひとつは、資本の所有者が読者の目に触れない場所にあることだろう。私たちが触るのはサイトとアプリで、そこに親会社の名前は出てこない。ブランドの手触りと株主構成は、別の層にある。
もうひとつは、創業者の存在感が長く語られてきたことだ。会社の物語が個人と結びついていた時期の印象は、資本構成が入れ替わっても更新されにくい。
そのうえで気になるのは、この会社が「使うもの」としては圧倒的に個人のものなのに、「持つもの」としては機関投資家とグループ会社のものだという非対称だ。本文で触れた個人株主の持ち分の薄さは、その非対称をひとつの数字に凝縮している。
決算を追うときは、売上や利益の伸び率だけでなく、その伸びがどの導線から来ているのかに目を向けることをおすすめしたい。自社サイトなのか、グループのモールなのか。ここを分けて見る癖をつけると、この会社の姿はかなり違って見えてくる。
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オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
