この記事はここがポイント
- Appleの最新決算は増収増益だが、利益率の改善には関税還付という一時要因が含まれている
- サービス事業の成長は著しいものの、その根本はiPhoneのハードウェア普及に依存している
- 先進国でのiPhone普及率はすでに高く、今後の成長ドライバーは「高機能化による単価アップ」が鍵となる
米国株式市場において時価総額トップクラスを誇り、S&P500を牽引する存在であるApple。直近1年の株価推移を見ても、市場平均を上回る力強いパフォーマンスを見せてきました。しかし、最新の決算発表直後、同社の株価は大きく窓を開けて下落しました。「窓を開けた下落」とは、前日の終値と当日の始値の間に価格の空白ができるほど、売り注文が一気に膨らんだ状態を指します。売上も利益も伸びている「好決算」に見えるにもかかわらず、株価はこうした反応を示したのです。
株価がその日どう反応したかを一つの理由で説明することはできません。そこで本記事では、元機関投資家の泉田良輔氏の解説にもとづき、まず決算の中身そのものを米国式の決算書の並びに沿って読み解き、次に株価を長期的に左右する「今後の成長ドライバー」がどこにあるのかを確認していきます。
米国基準の決算書から読み解くAppleの現在地
株式市場において、Appleは多くの投資家が注目する銘柄です。直近1年の株価推移を見ると、基本的にはS&P500を上回る良好なパフォーマンスを示してきました。しかし、決算発表後に株価が大きく窓を開けて下落したことについて、泉田氏は「過去にない窓の開け方なんで、この辺はちょっとやっぱ気になるね」と指摘し、その背景を探るために決算書の中身を詳しく読み解いていきます。
Apple Inc. AAPL 日足チャート(S&P500と比較)
まず、Appleが発表したFY2026 第3四半期(2026年6月27日締め)の決算書を見てみましょう。米国企業であるAppleの財務データは、米国会計基準(US GAAP)に基づいて作成されています。日本の決算短信を見慣れている方にとっては少し構造が異なるため、上から順に確認していくことが重要です。
今期の売上高(Net sales)は109,417百万米ドルでした。そこから売上原価を差し引いた粗利(Gross margin)が54,770百万米ドルとなります。さらに、研究開発費や販売費及び一般管理費などの営業費用(Operating expenses)19,075百万米ドルを差し引き、営業利益(Operating income)は35,695百万米ドルとなりました。
ここで日本の決算書との大きな違いがあります。米国会計基準には「経常利益」という概念が存在しません。営業利益の次に、その他収益などを加減算して、直接「税引前利益(Income before provision for income taxes)」が36,267百万米ドルとして計上されます。そこから法人税等を差し引いた純利益(Net income)が29,789百万米ドルとなり、1株当たりの利益を示す希薄化後EPSは$2.02という結果になりました。
Appleの損益計算書フロー(FY2026 第3四半期)
増収を牽引したiPhoneとサービス事業の実態
今期の売上高は前年同期比で+16.4%と、一見すると非常に好調な数字が並んでいます。では、何がこの増収を牽引したのでしょうか。
製品・サービス別の売上高を見ると、やはり主役はiPhoneです。iPhoneの売上高は54,252百万米ドル(前年同期比+21.7%)となり、全社の増収額のうち実に62.9%をiPhoneの伸びが占めました。次いで、サービス事業が30,739百万米ドル(同+12.1%)で増収額の21.6%を寄与し、Macも10,352百万米ドル(同+28.7%)と増収額の15.0%を占めています。一方で、iPadのみが6,191百万米ドル(同−5.9%)と減収に終わりました。
カテゴリ別の増収額への寄与(FY2026 第3四半期)
利益面でも大きな改善が見られます。全社の粗利率は前年同期の46.49%から50.06%へと上昇しました。しかし、ここで投資家が注意すべき重要なポイントがあります。
決算プレスリリースには、この粗利率50.1%の中には、関税還付による約2ポイントの押し上げ効果が含まれていることが明記されています。同様に、希薄化後EPSの$2.02にも、$0.11の一時的な押し上げが含まれています。これらの一時要因を除いて実力値を試算すると、粗利率は約48.1%、EPSは約$1.91となります。
見出しの数字だけを見れば「6月四半期として過去最高」ですが、その一部が一時的な追い風によるものである点は、決算を評価するうえで押さえておきたいところです。
サービス事業の成長とアナリストの推計手法
Appleのビジネスを語る上で欠かせないのが「サービス事業」の存在です。売上構成比を見ると、iPhoneが約半分(49.6%)を占め、次いでサービスが28.1%となっています。長期的な推移を見ると、サービス事業の売上構成比は2010年9月四半期の9.4%から現在の28.1%へと明確な上昇トレンドを描いています。
サービス事業が伸びていけば、iPhone頼みの収益構造は変わっていくのでしょうか。この点について泉田氏は、ビジネスモデルの根本的な構造を指摘します。
「ハードが売れないと、そのサービスってついてこないんで」
実際、Appleの公式文書(10-K)における事業定義でも、サービスは自社製品に「付随するもの(related services)」と定義されています。AppleCare(保証)、iCloud(ストレージ)、App Store、Apple Payなど、主要なサービスはいずれもApple製のハードウェアを所有していることが前提となっています。つまり、サービス事業が成長するためには、その入り口となるiPhoneなどのハードウェアが売れ続ける必要があるのです。
では、機関投資家やアナリストは、このハードウェアの普及状況をどのように予測しているのでしょうか。実は、Appleは2018年11月の決算発表を最後に、iPhoneなどの具体的な販売台数を開示していません。そのため、投資家は独自の推計を行う必要があります。泉田氏は、プロがどのように「インストールベース(実際に稼働している端末数)」を推計しているかを解説します。
「何年に1回か買い替えサイクルあるでしょ。買い替えサイクルがどれぐらいっていう前提を置いて、その売れたもので買い替えサイクルをどんどん引いていくんですよ。また売れたものを足していくわけですよ」
このようにして推計したインストールベースの台数に対し、サービス収益がどれくらいの比率で発生しているかを掛け合わせることで、将来のサービス売上を予想していくのがプロの分析手法です。
「イズミダイズム」はモニクルグループが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命出身の元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点から経済ニュースの裏側や資産形成のトピックを論理的に解説します。
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。東京科学大学大学院非常勤講師。
