三菱電機、純利益は3期連続で過去最高。好調FA・パワー半導体の中身と、ROEを分解して見えた「本当の課題」
Alexander Tolstykh/Shutterstock.com
執筆者泉田良輔LIMO&ファイナンス編集部 編集長
04:53
三菱電機、純利益は3期連続で過去最高。好調FA・パワー半導体の中身と、ROEを分解して見えた「本当の課題」
Alexander Tolstykh/Shutterstock.com

この記事はここがポイント

  • 3期連続最高益を更新もROE約9.7%で10%未満と、低い財務レバレッジが主要課題。
  • 資金効率CCCは141日に長期化し、在庫増と仕入債務早期化がその主な要因。
  • 好調な業績はFA、半導体、空調、防衛といった複数の稼ぎ頭の貢献。

三菱電機(6503)が好調です。2026年3月期は増収増益で、当期純利益は過去最高を更新しました。翌期もさらなる更新を計画しています。ただ、業績の絶好調とは裏腹に、投資家がこの会社に問い続けているテーマがあります。それが「稼ぐ効率」です。本記事は株価やバリュエーションではなく、業績の中身と、ROE(株主資本利益率)やキャッシュフローといった「稼ぐ力の質」に焦点を当て、数字を分解して読み解きます。

4期連続の最高益

2026年3月期は、売上高が前期比6.8%増の5兆8,947億円、営業利益が同10.5%増の4,330億円、当期純利益が同25.8%増の4,077億円でした。増収に加え、利益がそれを上回るペースで伸びており、当期純利益はこれで3期連続の過去最高、かつ5期連続の増益となりました。収益性が着実に改善していることがうかがえます。年間配当は55円としました。

会社が示す2027年3月期の計画は、売上高6兆2,000億円(前期比5.2%増)、当期純利益4,750億円(同16.5%増)と、達成すれば4期連続の過去最高となる計画です。なお、この計画の初戦となる2026年度第1四半期の決算は、2026年7月31日に発表される予定です。好調が続いているかを確認する直近の注目点になります。

何が稼いでいるのか——FA・パワー半導体・空調・防衛

三菱電機の強みは、稼ぎ頭が複数ある点にあります。中核のひとつが、工場を自動化するFA(ファクトリーオートメーション)機器です。世界の製造業の省人化・自動化ニーズを取り込み、同社の看板事業となっています。次に、EV(電気自動車)や省エネ機器に欠かせないパワー半導体。電力を効率よく制御する部品で、脱炭素の流れが追い風です。加えて、業務用を中心に世界で伸びる空調(冷熱システム)、電力・鉄道・ビル(エレベーター)などの社会インフラ、そして防衛費増額を背景に注目される宇宙・防衛事業も収益を支えています。利益率の高い事業の比重が高まってきたことが、収益性の改善につながっています。

ROEを分解する——日立との差は「レバレッジ」にある

三菱電機の長年の課題が資本効率です。2026年3月期のROEは約9.7%。改善傾向にはあるものの、大台の10%には届いていません。ここで、ROEを3つの要素に分解する「デュポン分解」を使うと、課題の在りかがはっきりします。

ROE = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ

2026年3月期の三菱電機は、売上高純利益率が約6.9%、総資産回転率が約0.8回、財務レバレッジが約1.6倍。掛け合わせると約9.7%のROEになります。この5年間でROEは約7.5%(2021年3月期)から約9.7%へ改善しましたが、その主役は売上高純利益率の上昇(約4.6%→約6.9%)でした。一方で、財務レバレッジは低いまま。自己資本比率はむしろ約57%から約61%へ上昇しており、稼いだ利益を資本としてため込むことで、レバレッジがROEを押し下げる方向に働いています。

同じ改革を先に進めた日立製作所と比べると、違いは鮮明です。日立のROE(約13%)を同じく分解すると、売上高純利益率も総資産回転率も三菱電機と大きくは変わりません。決定的に違うのは財務レバレッジで、日立が約2.3倍なのに対し、三菱電機は約1.6倍。つまり、両社のROE差の大部分は「稼ぐ力」ではなく、自己資本をどれだけ効率的に使っているか(=資本構成)の差なのです。三菱電機は、利益率でも回転率でも見劣りしないのに、資本をため込みすぎているためにROEが伸びない、という構図が見えてきます。

現金が回るまで約4カ月半——CCCが示す資金効率

もう一つ、資金効率を測る指標にCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)があります。これは、仕入れに払ったお金が、製品を売って再び現金として戻ってくるまでの日数を示すもので、短い(あるいはマイナスの)ほど資金効率が良いとされます。

CCC = 売上債権回転日数 + 棚卸資産回転日数 − 仕入債務回転日数

2026年3月期の三菱電機は、売上債権回転が約80日、棚卸資産(在庫)回転が約115日、仕入債務回転が約54日で、CCCは約141日。仕入れに使った資金が現金として戻ってくるまで、およそ4カ月半かかる計算です。5年前(2021年3月期)のCCCは約103日でしたから、この間に約38日も長期化しています。要因を分解すると、在庫の回転日数が約90日から約115日へ伸びたことが主因で、加えて仕入債務の回転日数が約66日から約54日へ短くなった(=仕入先への支払いを早めた)ことも効いています。一方、売上債権の回転日数は約79日から約80日とほぼ横ばいです。回収の期間は変わらないのに、在庫を厚く抱え、支払いは早めている——運転資金の効率という点では、改善の余地がはっきり残っています。仕入れ代金を払う前に現金を回収してしまう、アマゾンのようなCCCマイナスの企業とは対照的です。

イズミダの視点:電機セクターの「優等生」から同脱却できるのか

私はかつて『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』という本を書き、電機各社の明暗をずっと追いかけてきました。その視点で三菱電機を見ると、この会社は「優等生なのに、なぜか評価が伸び切らない」典型に映ります。業績は堅調、財務は超健全、事業も幅広い。デュポン分解が示すとおり、稼ぐ力(利益率・回転率)は日立に劣りません。足りないのは、ため込んだ資本と、在庫に寝ている資金を、成長と株主還元にどう振り向けるかという「お金の使い方」です。

三菱電機がお金を「ため込む」というのは実は過去に苦い経験をしているからということが背景にあり、保守的な財務戦略になってしまっているということがあります。しかし、先に取り上げた日立が、資本効率経営でROEを二桁に引き上げ、市場の評価を一変させたのは象徴的でした。三菱電機に求められているのも、この「ため込む経営」から「使う経営」への転換です。私が投資の世界で学んだのは、企業価値を決めるのは利益の絶対額だけでなく、その利益をどれだけ効率よく生み、稼いだ現金をどう配分するか、という点でした。三菱電機には十分な原資があります。あとは、レバレッジの引き上げ(株主還元)と在庫の圧縮という2つの「使い方」で、ROE10%の壁とCCCの長期化をどう乗り越えるか。最高益という華やかな数字の先で、この資本効率の改善が数字に表れ始めるか——そこが、これからの三菱電機を見るうえで一番の注目ポイントです。

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