予想PER「5倍台」は割安なのか
ここで多くの投資家が気にするのがバリュエーション(株価の割高・割安)です。株価が1株あたり利益の何倍かを示すPER(株価収益率)で見ると、キオクシアの今期予想は、アナリスト予想の平均(コンセンサス)ベースで5倍台。数字だけ見ればかなり割安に映ります。
ただし、この5倍台という水準は鵜呑みにできません。分母となる予想利益が、売上が1年で約4倍に増えるという極端に強気な想定に基づく数字だからです。より現実的な利益で見直せば、PERの水準は大きく変わり得ます。
低PERの評価はキオクシアだけの現象ではありません。韓国のサムスン電子・SK Hynix、米マイクロンも市場が「足元の最高益は続かない」と、メモリ業界全体の利益ピークアウトを織り込んでいる表れと読めます。
シクリカル産業のPERは要注意
そして見落とせないのが、メモリ産業が典型的な「シクリカル(市況によって業績が大きく上下する景気循環型)」だという点です。この種の産業では、業績のピーク時にこそ利益が膨らんでPERが極端に下がり、逆に業績の底では利益が消えてPERが跳ね上がる——という、直感に反した動きが繰り返されてきました。
株式市場の歴史を振り返ると、業績ピークでの一桁前半のPERは、メモリでは「割安」ではなく「サイクル終盤」のサインとして何度も現れてきました。韓国の証券会社からも、足元の低PERは割安を意味しない「バリュエーション・トラップ」だとの警告が出ています。
もっとも、反対の見方もあります。AIによるメモリ需要が構造的に変わり、3社寡占による価格規律や複数年契約で「今回は利益が続く」とする強気論です。国内大手証券会社のレポートでは、予想PER6倍程度はむしろ割安だと指摘しています。今回の下落は、この「利益の持続性」への信認が試される局面ともいえます。
まとめ
キオクシアの急落は「業績の悪化」ではなく、「業績ピーク圏」ゆえの株価の振れの大きさが表面化したものです。目先の数字は最高でも、それを支えるAI投資や供給不足という前提に、市場は疑問符をつけ始めました。
PER5倍台という数字も、市況産業では歴史的にサイクル終盤で現れてきた水準であり、それ自体を割安の根拠とするのは危ういと言えます。
当面の見極めどころは、7月末に控えるキオクシアの第1四半期決算(複数年契約など"需要の持続性"に踏み込んだ説明があるか)と、特許訴訟の続報です。メモリ株は市況商品ならではの値動きの大きさが特徴であり、投資にあたってはこうしたリスクを十分に踏まえる必要があります。
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
- 本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。
- 投資判断は最新の決算資料や市場動向などをご自身でご確認の上、自己責任で行ってください。
- 株主優待の内容や条件などは変更される可能性があるため、必ず公式サイトでご確認ください。
関連タグ
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。東京科学大学大学院非常勤講師。
PROFILE
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。2013年に株式会社モニクルリサーチの前身である株式会社ナビゲータープラットフォームを共同設立。2015年にくらしとお金の経済メディア「LIMO」を立ち上げ、コンテンツ企画とメディア運営を行う。2026年1月よりYouTubeチャンネル「イズミダイズム」の運営に参画。2026年6月に専門家と実務家が発信する金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」の編集長に就任。東京科学大学大学院非常勤講師。慶應義塾大学商学部卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了。
