50代後半や60代を迎え、リタイア後の暮らしが少しずつ近づいてくると、自分の年金予定額が世間一般の基準と比べて多いのか少ないのか、あるいは年齢が上がるにつれて実際の受給額はどう変化していくのか、といった具体的な数字が気になり始めるものです。
私が社会保障の専門紙記者として、厚生労働省などの膨大な年金統計や公表資料を日々読み解いていた頃、ニュースの見出しになる「大きな平均値」の影には、常に年齢層ごとの詳細なデータや、1万円刻みのリアルな分布図が隠されていることを実感していました。
公的なデータは、こうした細部の数字まで丁寧に追っていくことで初めて、私たち一人ひとりの老後設計に役立つ客観的な道標となります。
本記事では、公的年金の基本構造に触れたのち、60歳代から90歳以上までの厚生年金・国民年金の年齢別・男女別の平均受給額一覧を整理します。
さらに、1万円単位の受給額分布や高齢者世帯の所得構成、手軽に受給額を増やせる「付加年金」の活用シミュレーションまでを網羅し、見えない平均値に惑わされることなく、ご自身の足元を見据えた確実な家計管理を行うための正確なデータを提供します。
公的年金の仕組みとは?基本の2階建て構造を解説
まずは年金のしくみについて解説します。
公的年金は、基礎部分となる「国民年金」と上乗せ部分にあたる「厚生年金」から成り立つ、いわゆる2階建て構造です。下の図をイメージするとわかりやすいでしょう。
厚生年金と国民年金の仕組み
下にある国民年金には、原則として「国内在住の20歳以上60歳未満の全ての人」が加入します。ちなみに、国民年金保険料(※1)は全員一律です。
上乗せとなる厚生年金には、企業や官公庁などで働く人たちが加入しますす。毎月の給与や賞与に応じた年金保険料(※2)を納めるため、個人差があるのが特徴です。
では、将来もらえる「年金額」はどのように決まるのでしょうか。
まず国民年金の場合、国民年金保険料を全期間(480月)納めれば、65歳以降で満額(※3)の老齢基礎年金を受け取ることができます。逆に未納期間等があった場合は、その月数に応じて満額から差し引かれるしくみです。
厚生年金の場合、「年金加入月数」と「納めた保険料」に応じた老齢厚生年金額が決まります。一般的には長く働いた人、たくさん稼いだ人が多くの年金をもらえることになります。
※1 国民年金保険料:2026年度は月額1万7920円
※2 保険料額は標準報酬月額(上限65万円)、標準賞与額(上限150万円)に保険料率をかけて計算される
※3 国民年金の満額:2026年度は月額7万608円
【年齢別】厚生年金の平均受給額一覧(60歳~90歳以上)
厚生労働省年金局が発表した「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」のデータをもとに、年齢1歳刻みにおける「平均年金月額」を一覧表でご紹介します。
まずは厚生年金(国民年金部分を含む)の平均年金月額を見ていきましょう。年齢による違いはあるのでしょうか。
60歳代(60〜69歳)の厚生年金・平均月額
60歳代の厚生年金の平均月額
出典:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 60歳:9万9664円
- 61歳:10万4455円
- 62歳:10万9323円
- 63歳:6万8758円
- 64歳:8万3901円
- 65歳:14万9862円
- 66歳:15万2378円
- 67歳:15万2356円
- 68歳:15万2709円
- 69歳:15万1284円
※65歳未満の厚生年金受給者は、特別支給の老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢が引き上げられたため、報酬比例部分のみ受給している方も含みます
70歳代(70〜79歳)の厚生年金・平均月額
70歳代の厚生年金の平均月額
出典:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 70歳:15万455円
- 71歳:14万8371円
- 72歳:14万6858円
- 73歳:14万5583円
- 74歳:14万7774円
- 75歳:15万1410円
- 76歳:15万1241円
- 77歳:15万962円
- 78歳:15万862円
- 79歳:15万3115円
80歳代(80〜89歳)の厚生年金・平均月額
80歳代の厚生年金の平均月額
出典:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 80歳:15万3729円
- 81歳:15万5460円
- 82歳:15万7744円
- 83歳:15万9994円
- 84歳:16万2555円
- 85歳:16万3947円
- 86歳:16万5577円
- 87歳:16万5557円
- 88歳:16万6200円
- 89歳:16万6767円
90歳以上の厚生年金・平均月額
90歳代の厚生年金の平均月額
出典:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 90歳以上:16万4027円
標準的な年金受給開始年齢は65歳となっていますが、65歳以降の各年齢で受け取れる厚生年金の平均年金月額を見ると、14万円~16万円台であることがわかりました。
年齢があがるほどに、ゆるやかに平均額が上昇する傾向があります。
【年齢別】国民年金の平均受給額一覧(60歳~90歳以上)
本章では国民年金(老齢基礎年金)について、各年齢で受給できる平均年金月額を見ていきます。年齢による違いはあるのでしょうか。
60歳代(60〜69歳)の国民年金・平均月額
60歳代の国民年金の平均月額
出典:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 60歳:4万5186円
- 61歳:4万6371円
- 62歳:4万7784円
- 63歳:4万7258円
- 64歳:4万7896円
- 65歳:6万1240円
- 66歳:6万1369円
- 67歳:6万1345円
- 68歳:6万1293円
- 69歳:6万978円
※65歳未満の国民年金(老齢基礎年金)受給者は繰上げ受給を選択した方。
70歳代(70〜79歳)の国民年金・平均月額
70歳代の国民年金の平均月額
出典:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 70歳:6万1011円
- 71歳:6万770円
- 72歳:6万234円
- 73歳:6万32円
- 74歳:5万9813円
- 75歳:5万9659円
- 76歳:5万9555円
- 77歳:5万9349円
- 78歳:5万9124円
- 79歳:5万8676円
80歳代(80〜89歳)の国民年金・平均月額
80歳代の国民年金の平均月額
出典:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 80歳:5万8623円
- 81歳:5万8269円
- 82歳:5万8003円
- 83歳:5万7857円
- 84歳:5万9675円
- 85歳:5万9425円
- 86歳:5万9228円
- 87歳:5万9204円
- 88歳:5万8756円
- 89歳:5万8572円
90歳以上の国民年金・平均月額
90歳代の国民年金の平均月額
出典:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 90歳以上:5万5633円
一般的に年金受給開始となる65歳以降の場合、国民年金(老齢基礎年金)の平均年金月額は5万円~6万円台となりました。
厚生年金と国民年金の受給額分布を1万円単位で見る
気になるのが「厚生年金」と「国民年金」の平均月額です。
ここでは厚生労働省の資料より、60歳~90歳以上のすべての受給権者における「平均年金月額」と「受給額分布」をご紹介します。
厚生年金の平均月額:男女別の比較
厚生年金の平均額(全年齢)
出典:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 〈全体〉平均年金月額:15万289円
- 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
- 〈女性〉平均年金月額:11万1413円
※国民年金の金額を含む
厚生年金の受給額分布(1万円刻み)
- ~1万円:4万3399人
- 1万円以上~2万円未満:1万4137人
- 2万円以上~3万円未満:3万5397人
- 3万円以上~4万円未満:6万8210人
- 4万円以上~5万円未満:7万6692人
- 5万円以上~6万円未満:10万8447人
- 6万円以上~7万円未満:31万5106人
- 7万円以上~8万円未満:57万8950人
- 8万円以上~9万円未満:80万2179人
- 9万円以上~10万円未満:101万1457人
- 10万円以上~11万円未満:111万2828人
- 11万円以上~12万円未満:107万1485人
- 12万円以上~13万円未満:97万9155人
- 13万円以上~14万円未満:92万3506人
- 14万円以上~15万円未満:92万9264人
- 15万円以上~16万円未満:96万5035人
- 16万円以上~17万円未満:100万1322人
- 17万円以上~18万円未満:103万1951人
- 18万円以上~19万円未満:102万6888人
- 19万円以上~20万円未満:96万2615人
- 20万円以上~21万円未満:85万3591人
- 21万円以上~22万円未満:70万4633人
- 22万円以上~23万円未満:52万3958人
- 23万円以上~24万円未満:35万4人
- 24万円以上~25万円未満:23万211人
- 25万円以上~26万円未満:15万796人
- 26万円以上~27万円未満:9万4667人
- 27万円以上~28万円未満:5万5083人
- 28万円以上~29万円未満:3万289人
- 29万円以上~30万円未満:1万5158人
- 30万円以上~:1万9283人
厚生年金の平均年金月額は15万289円ですが、男女別に見ると、男性が16万9967円、女性が11万1413円で、6万円近い開きが見られます。
国民年金の平均月額と受給額分布:男女別の比較
国民年金の平均額(全年齢)
出典:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 〈全体〉平均年金月額:5万9310円
- 〈男性〉平均年金月額:6万1595円
- 〈女性〉平均年金月額:5万7582円
国民年金の受給額分布(1万円刻み)
- 1万円未満:5万1828人
- 1万円以上~2万円未満:21万3583人
- 2万円以上~3万円未満:68万4559人
- 3万円以上~4万円未満:206万1539人
- 4万円以上~5万円未満:388万83人
- 5万円以上~6万円未満:641万228人
- 6万円以上~7万円未満:1715万5059人
- 7万円以上~:299万7738人
国民年金の平均年金月額は5万9310円。男女別に見ると、男性が6万1595円、女性が5万7582円となりました。
ボリュームゾーンを見ると、「6万円以上~7万円未満」が最も厚い層となっており、多くの人が満額に近い年金額を受け取っていることが読み取れます。
高齢者世帯における平均所得と収入の内訳
高齢者世帯の「1世帯あたりの平均所得金額」を見ていきましょう。厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」という資料を参考にします。
なお、資料内における高齢者世帯とは「65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の者が加わった世帯」と定義されます。
高齢者の年間所得の平均
出典:厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」
高齢者世帯の平均所得額はいくら?
資料によると、高齢者世帯の総所得は314万8000円 です。総所得に占める金額や割合も見ていきましょう。
高齢者世帯の所得構成
- 稼働所得:79万7000円(25.3%)
- うち雇用者所得(※):66万5000円(21.1%)
- 公的年金・恩給:200万円(63.5%)
- 財産所得:14万4000円 (4.6%)
- 公的年金・恩給以外の社会保障給付金:1万8000円 (0.6%)
- 仕送り・企業年金・個人年金等・その他の所得18万9000円(6.0%)
月額に換算すると約26万円の所得のうち、3分の2となる約16万6000円が「公的年金」となります。次いで約5万5000円の「雇用者所得」が続きます。
高齢者世帯の生計が公的年金をベースとしながら、主に仕事による収入で補われている様子がうかがえます。
※雇用者所得:世帯員が勤め先から支払いを受けた給料・賃金・賞与の合計金額で、税金や社会保険料を含む
国民年金の受給額を増やす方法:付加年金の活用
働き方の多様化する中で、厚生年金に加入しないフリーランスや自営業の方なども増えています。
一方で、国民年金しか受け取れないとなると、老後の年金が少なくなる傾向にあります。
国民年金の受給額を増やす方法のうち、今回は「付加保険料の納付」について解説します。
国民年金付加年金制度
付加年金とは、「付加保険料(月額400円)」を定額の国民年金保険料(2026年度は1万7920円)に上乗せで支払うことで、将来の年金額を増やすことができるしくみです。
付加保険料を納付できる対象者
- 国民年金第1号被保険者
- 65歳未満の任意加入被保険者
付加保険料を納付できないケース
- 国民年金保険料の納付を免除されている人(法定免除、全額免除、一部免除、納付猶予、または学生納付特例)
- 国民年金基金の加入員である人
個人型確定拠出年金(iDeCo)と付加年金には、同時に加入することができます。ただし、個人型確定拠出年金の納付額によっては併用ができない場合もあるので注意が必要です。
シミュレーション:付加保険料を40年間納付した場合
20歳から60歳の40年間、付加保険料を納付したとしましょう。
65歳以降に受け取れる「付加年金額」は「200円×付加保険料納付月数」で試算できます。
- 40年間に納付した付加保険料の総額:19万2000円(400円×480カ月)
- 65歳以降に受け取れる付加年金額(年間):9万6000円(200円×480カ月)
40年間に納付した付加保険料は19万2000円。毎年の年金受給額に9万6000円が上乗せされることから、2年で元が取れる計算です。
【元記者の視点】統計の「平均値」に惑わされない
かつて記者時代に官公庁の膨大な統計データを毎日のように扱っていた中で、資料の末尾にある詳細な分布図や注釈を細かく読み進めると、常に「平均値はあくまで全体の総和を頭数で割ったひとつの指標に過ぎず、個々の生活の実態はばらつきの中にこそある」という事実に突き当たりました。
本記事で紹介した60歳から90歳以上の年齢別・男女別の平均額データは、これからの生活設計を立てる上での確実な基準点となります。
しかし、この数字を見て「自分の年金が平均より少ないのではないか」と、過剰に一喜一憂したり不安を募らせたりする必要はありません。現役時代の働き方や加入期間によって一人ひとりの数字が異なるのは当然だからです。
世間の「ふつう」という実体のない言葉に振り回されることではなく、こうした公的な数値を参考にしながら、ご自身の年金額を早期に把握し、足りない部分を補うための具体的な行動を起こすことが大事です。
まとめ
年齢別や男女別の統計データが明確に示している通り、公的年金の受給額は一人ひとりの状況によって全く異なるります。
世間の平均という見えない基準とご自身の状況を比較し続けるのは、家計管理において何の生産性も生みません。
地味ですが確実な方法として、今日この後にお手元にある最新の「ねんきん定期便」を取り出し、記載されている『老齢年金の種類と見込額(またはこれまでの加入実績に応じた年金額)』の数字を見ておいてください。
比較すべき相手は「同世代の平均」ではなく、ご自身の「将来の受給額」と「毎月の固定支出」の差額です。
必要に応じて付加年金などの仕組みを賢く組み合わせながら、ご自身サイズの確実な家計防衛をスタートさせることが、老後の不安を消し去る近道となるでしょう。
参考資料
元厚労省担当の専門紙の新聞記者。公的社会保障(年金・医療・介護)やNISA・iDeCoを横断分析。難解な一次データを生活者視点に翻訳し、知っておきたい家計防衛の知見と、安全で実用的な情報を提供。
