ニトリホールディングスとしまむら、2026年3月期と2026年2月期のROEはともに9%台。資本効率の作り方の差と株価の戻りが示すもの
yu_photo/shutterstock.com
執筆者石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ
18:40
ニトリホールディングスとしまむら、2026年3月期と2026年2月期のROEはともに9%台。資本効率の作り方の差と株価の戻りが示すもの
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この記事はここがポイント

  • ニトリとしまむらはROE9%台だが、資本効率の作り方が対照的。
  • ニトリのROEは2022年3月期14.1%から2026年3月期9.4%へ低下、資産回転率の低下が主因。
  • 両社ROEは小売業中央値を超えるが、ニトリの低回転率と株価の変動が特徴。

安いのに高収益。ニトリホールディングス<9843>には、そういうイメージが定着している。ところが資本効率という物差しを当てると、その姿は少し違って見えてくる。株価が大きく往復したこの1年を、ROEの組み立て方という角度から追ってみたい。 ※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

2,200円台と3,200円台の間を往復した1年

出所:各種資料をもとに筆者作成

2025年10月末の終値は2,500円台だった。そこから年末にかけて水準を切り上げ、12月末は2,700円台に乗せている。

年明けはいったん軟化したが、2026年2月末には3,100円台まで大きく水準を上げた。2025年10月末以降の月末終値としては、最も高い水準である。

ところが3月に入ると流れが変わる。3月末は2,500円台、4月末は2,200円台と、2か月で1,000円近く水準を落とした。こちらは同じ期間の月末終値で最も低い。

この下げ局面の入口には、2026年3月期3Q累計の決算がある。売上収益6,885億円で前年同期比▲2.5%、営業利益1,044億円で▲3.3%と、累計ベースで減収減益に転じていた。通期予想は据え置かれていたものの、達成に必要な残り四半期の負荷は小さくない。そう受け止められた可能性はある。

5月末には2,600円台まで戻したものの、6月末は2,400円台へ再び下押ししている。上下の振れが大きく、方向感の定まらない展開が続いた。

もっとも、5月の戻りには手がかりがある。2026年3月期の通期実績は、売上収益9,122億円で▲1.8%と減収ながら、営業利益は1,255億円で+6.7%、当期利益は892億円で+8.1%の増益で着地した。3Q累計時点の減益から、最終四半期で流れが変わったことになる。

ただし、期中を通じて据え置かれてきた売上収益9,880億円・営業利益1,358億円の通期計画には届いていない。増益と未達が同居した決算だった、というのが実態に近い。

流れが変わったのは夏場である。7月末は2,500円台、8月末は3,000円台と水準を切り上げ、2026年9月時点の直近終値は3,200円台に乗せた。4月末の安値からの戻り幅は1,000円を超える。

ここまでの振れを単一の材料で説明するのは難しい。耐久消費財への購買意欲が鈍いという事業環境が意識される局面と、収益力の厚みが見直される局面が、短い間隔で入れ替わったとみるのが自然だろう。ボラティリティ(株価の値動きの激しさ)の高い1年だったことは間違いない。

減収でも利益率が上がった2027年3月期1Qの中身

2027年3月期1Qは、売上収益(IFRS)が2,262億円で前年同期比▲2.3%、営業利益は365億円で▲1.1%だった。数字の並びだけを見れば減収減益である。

もっとも営業利益率は16.2%と、前年同期の15.9%から上昇している。減収の中で利益率が上がったのだから、コスト側で何かが起きている。

会社によると、販売費及び一般管理費は物流経費の減少などにより前年同期を下回った。配送体制の適正化を進めたこと、前期に計上した新しい物流センターの稼働に伴う備品購入費等が一巡したことが主な要因だという。

売上側は厳しい。国内既存店の客数は前期比97.5%、売上高は同96.7%にとどまった。6月の平均気温が近年に比べて低く推移し、季節商品の販売が伸び悩んだと会社は説明している。

セグメント別では対照が鮮明だ。ニトリ事業は売上収益2,031億円で▲1.1%、セグメント利益334億円で▲1.6%。一方の島忠事業は売上収益272億円で▲8.8%と大きく減ったが、セグメント利益は31億円で+5.3%と増えている。

島忠事業の増益は、売場面積の適正化やテナント誘致、PB商品(自社で企画する独自ブランド商品)の開発によるものだという。売上を削ってでも収益性を取りにいった、という整理になる。

通期予想は据え置かれた。売上収益9,570億円で+4.9%、営業利益1,303億円で+3.8%、当期利益910億円で+1.9%である。1Qの実績と通期計画の間にはまだ開きがあるが、会社は計画を動かしていない。

減収でも利益は守る。この1Qの姿が、8月以降の株価の戻りと無関係だとは考えにくい。

ROEはともに9%台。しまむらと並んだ地点

ここで比較対象を1社置いてみたい。しまむら<8227>である。

家具・インテリアと衣料品。扱う商品は違うが、低価格を武器に全国へチェーンを広げ、生活防衛意識が強まる局面で名前の挙がる企業として、2社は投資家の頭の中で近い場所にいる。

資本効率で並べると、意外なほど数字が接近する。ROE(自己資本利益率、株主が出したお金を1年でどれだけ利益に変えたかを示す比率)は、ニトリの2026年3月期が9.4%、しまむらの2026年2月期が9.0%だった。

そして、この一致は最近になって生まれたものだ。しまむらのROEは2024年2月期が8.8%、2025年2月期が8.6%と8%台で推移し、2026年2月期に9.0%へ切り上がった。3期を通じてほぼ横ばいである。

一方のニトリは、同じ3期で水準を切り下げてきた。片方が下りてきて、片方がその場に立っていた。並んだのは、そういう経緯による。

ただし勢いは逆を向いている。しまむらの2027年2月期1Qは、売上高1,816億円で+7.9%、営業利益178億円で+16.8%、純利益128億円で+19.0%と二桁の増益で着地した。

ニトリが減収減益で耐えている局面で、しまむらは増収増益で加速している。ROEが並んでいるのは、あくまで前の通期を切り取った時点の話だ。

同じ9%台を正反対の作り方でつくる2社

ROEは3つの要素に分解できる。売上に対する利益の厚み、資産をどれだけ回して売上を作るか、そして自己資本に対して総資産をどれだけ膨らませているか、である。

ニトリの2026年3月期は、売上収益9,122億円に対して当期利益892億円。利益率は9.8%になる。総資産は1兆5,712億円だから、売上を総資産で割った総資産回転率は0.58回。自己資本比率62.9%の裏返しとして、財務レバレッジは1.59倍である。

しまむらの2026年2月期は、売上高7,000億円に対して純利益444億円で、利益率は6.4%。総資産5,546億円に対する回転率は1.26回。自己資本比率88.1%だから、レバレッジは1.14倍にとどまる。

厚い利益率を低い回転で受け止めるニトリ。薄い利益率を高い回転で埋めるしまむら。到達点が同じ9%台でも、たどった道筋は正反対だ。

差の源泉ははっきりしている。ニトリは土地だけで4,658億円、有形固定資産は9,090億円を抱える。しまむらの土地は550億円、有形固定資産は1,577億円である。

製造から物流、販売までを自前で担う体制は、価格競争力の源泉である一方で、バランスシートを重くする。ニトリの回転率の低さは、そのビジネスモデルの裏側に出てくる数字と読める。

しかも回転率は下がり続けてきた。2024年3月期は0.64回、2025年3月期は0.61回、そして2026年3月期は0.58回である。

さかのぼると、2022年3月期は0.82回だった。この間に総資産は9,838億円から1兆5,712億円へ6割近く膨らみ、対する売上収益は8,115億円から9,122億円で1割強の増加にとどまる。資産の伸びに売上がついてきていない。

ROEが2022年3月期の14.1%から2024年3月期11.3%、2025年3月期9.5%、そして9.4%まで下がってきた主因は、ここにある。

分母の話であって、分子の話ではない。当期利益そのものは前期比で増えている。効率が落ちたのは、稼ぐ力が細ったからではない。

出所:株式会社ニトリホールディングスおよび株式会社しまむら 有価証券報告書をもとに筆者作成
ROEは3期で9%台に収れんした

小売業の中央値に照らすと2社はどこに立つのか

2社だけを並べると、どちらが優れているかという二択に落ちてしまう。第三の物差しを置きたい。

小売業258社のROE中央値は7.4%である。ニトリの9.4%も、しまむらの9.0%も、これを上回る。上位25%の水準にあたる12.0%には届かないが、平均的な小売企業より株主資本を効率よく使っている点は共通している。

営業利益率で見ると、両社の位置はさらに高い。中央値は3.7%、上位25%の水準でも5.8%である。ニトリの13.8%、しまむらの8.8%は、いずれもその外側にある。

ところが総資産回転率になると話が反転する。中央値は1.50回。しまむらの1.26回でも中央値に届かず、ニトリの0.58回は中央値の4割にも満たない。

小売業と聞けば、薄い利益を高い回転で稼ぐ商売というイメージが先に立つ。だが少なくともこの2社は、その典型から外れた場所に立っている。高い利益率と低い回転率という、むしろ製造業に近い形でROEを組み立てているわけだ。

自己資本比率も同じ話につながる。中央値は48.3%、上位25%の水準で63.2%。ニトリの62.9%はその境目にあり、しまむらの88.1%は大きく外側にある。負債をほとんど使わない財務は、しばしば安全性の裏づけとして語られる。もっとも資本効率という観点からは、使われないまま置かれている調達余力はないか、という論点がつねに残る。

ROEという1つの数字を見るときは、その水準だけでなく、3つの要素のどれで作られているかまで分けて捉えるようにしたい。同じ9%台でも、次に効く打ち手はまったく違ってくるからだ。

積み上げの局面が終わりかけているのが、直近の姿ではないだろうか。

2026年3月期の投資キャッシュフローは、営業キャッシュフローの4割弱にとどまった。設備投資額も同じ方向を向いている。資産を増やす段階から、増やした資産を回す段階へ、資本配分の重心が移りつつあるように見える。

そう考えると、回転率の低下がそろそろ底を打つ可能性はある。分母である総資産の膨張が止まれば、あとは分子の売上をどこまで戻せるかという勝負になるからだ。

商品開発とPB商品の拡大は、その分子を押し上げる打ち手として位置づけられる。ただ、既存店の客数が前年を割っている現状では、まだ結果が数字に出ていない。

私が見たいのは、次の四半期以降に既存店の数字が上向くかどうかである。株価の戻りが期待を先に織り込んだものなのか、それとも実体の変化を追いかけたものなのか。答えはそこに出る。

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