この記事はここがポイント
- 日本製鉄の通期業績予想を上方修正、USスチール高収益と円安が寄与
- 製鉄事業はUSスチールが牽引も国内苦戦、実力ベース利益は据え置き
- 2025年10月1日付株式分割に伴い、株主優待の対象と内容が縮小
日本製鉄<5401>の株価は、7月2日の年初来安値530.5円から9月3日には年初来高値718.5円まで、約2カ月で一時35%超上昇しました。
もっとも上昇の勢いは一服しており、東京株式市場全体が主要株価指数そろって5営業日ぶりに反発した4日、同社株は前日比▲12.7円(▲1.80%)の691.9円と逆行安で取引を終えています。
株価が方向感を強めてきた背景の一つが、8月4日の取引終了後(15時30分)に発表した2027年3月期第1四半期(4〜6月期)決算です。
同社はこの決算にあわせて通期の業績予想を売上高・事業利益・当期利益ともに上方修正しており、売上の9割超を稼ぐ「製鉄事業」の実力を今回の決算からひも解いていきます。
前年の一過性損失が剥落し黒字転換
まず全社の連結決算(IFRS)を確認します。
- 売上収益:2兆8,211億9,600万円(前年同期比+40.4%)
- 事業利益(同社独自の経営指標):1,455億1,100万円(前年同期比+58.1%、前年同期は920億2,300万円)
- 営業利益(IFRS基準):1,455億1,100万円(前年同期は1,395億5,900万円の損失)
- 最終利益(親会社の所有者に帰属する四半期利益):752億9,900万円(前年同期は1,958億3,300万円の損失)
前年同期にあたる2025年4〜6月期は、USスチール買収に伴う事業再編損2,315億8,300万円を計上した影響で営業利益・最終利益が大幅な赤字となりました。
もっとも、この一過性損失を除いた同社独自の経営指標「事業利益」でみれば、前年同期も920億2,300万円の黒字を確保しており、本業の実力自体は当時から黒字基調だったことが分かります。今回の第1四半期はこうした一過性の損失がなくなったことで、事業利益は前年同期比+58.1%の増益となり、営業利益・最終利益もそろって黒字に転換しました。
売上の9割超を占める「製鉄事業」——USスチール牽引、国内は苦戦
日本製鉄の事業は「製鉄」「システムソリューション」「ケミカル&マテリアル」「エンジニアリング」の4セグメントに分かれていますが、今回の決算では売上収益2兆8,211億9,600万円のうち製鉄セグメントが2兆6,010億7,500万円と全体の9割以上を占めています。
他の3セグメントは規模が小さく、業績全体への影響は限定的です。製鉄セグメントの売上収益は前年同期比+43.6%の2兆6,010億7,500万円、セグメント利益(事業利益)は同+69.2%の1,442億6,900万円でした。
この製鉄事業を「国内」と「海外」に分けると、明暗がはっきり分かれます。同社は決算短信上の正式な事業利益とは別に、一過性要因を除いた本業の実質的な収益力を示す独自の社内管理指標「実力ベース連結事業利益」を開示しており、その通期見通し(7,000億円以上、前回公表から据え置き)の内訳は、国内事業が原燃料等コストの上昇や中東情勢による市況悪化の影響で900億円下方修正された一方、海外事業はUSスチールの好調を中心に900億円上方修正されており、国内の悪化を海外の改善が相殺する形になっています。
USスチールの実力ベース事業利益見通しを上方修正
なかでもUSスチールの実力ベース事業利益見通しは1,800億円以上で、前回公表(1,000億円以上)から800億円の上方修正となりました。前年度(2025年度)実績が56億円の損失だったことを踏まえると、1年で1,856億円規模の改善を見込む計算です。この上方修正の要因として、同社は米国のホットコイル(熱延コイル)市況の上昇による確実な需要捕捉(+600億円)と、日鉄からの技術者派遣による品質改善やシナジー進展、高炉再稼働効果のフル発揮といった収益改善努力(+200億円)を挙げています。
ただし改善分のうち600億円は米国鋼材市況の上昇によるもので、市況変動の影響を受けやすい面がある点は留意が必要です。
米国の粗鋼生産量も、米国鋼材市況の回復を追い風に底堅く推移しており、2025年は8,190万トンとなりました。一方、国内の鋼材需要は自動車・建設向けなどで長期的な減少傾向が続いており、こうした事情も重なって、日本の粗鋼生産量(8,070万トン)を44年ぶりに上回っています。
2025年6月の買収完了から1年余りで、USスチールは製鉄事業の中でも稼ぎ頭の一角に育ちつつある一方、国内の製鉄事業は原燃料コストの上昇や中東情勢の影響を受け厳しい環境が続いています。こうしたなか、名古屋製鉄所(愛知県東海市)では8月6日に次世代熱延ラインを竣工させるなど、付加価値の高い高級鋼材へのシフトを進めています。
通期見通し:増収増益も「実力ベース」利益は据え置き
同社は通期見通しについて、売上収益を11兆2,000億円(前回11兆円から+2,000億円)、事業利益を6,300億円(前回5,300億円から+1,000億円)、当期利益を2,900億円(前回2,200億円から+700億円)、EPSを55.00円(前回42.00円)にそれぞれ引き上げています。第1四半期時点の進捗率は当期利益ベースで約26.0%と、単純な四半期按分(25%)をやや上回るペースです。
この上方修正の理由には、米国鋼材市況の上昇や収益改善施策によるUSスチールの収益改善に加え、円安や原燃料等コストの上昇による在庫評価差益の拡大等が挙げられており、一過性の会計要因も含んでいる点には注意が必要です。
実際、上記の「実力ベース連結事業利益」の通期見通しは7,000億円以上で据え置かれており、今回の上方修正が国内・海外の綱引きの結果であることは押さえておきたいところです。なお、配当予想は1株につき24円(中間12円、期末12円)で、前回公表から変わりません。
急伸後の日本製鉄株はどんな水準にあるのか
株価は7月2日の年初来安値530.5円から9月3日の年初来高値718.5円まで、約2カ月で一時35%超上昇しました。9月4日は東京株式市場全体が反発するなかで同社株は反落し、終値は691.9円(前日比▲12.7円、▲1.80%、出来高4,730万9,000株)でした。
この終値をもとに、バリュエーション面から確認します。PERは12.5倍、実績ベースのPBRは0.64倍、会社予想配当24円に基づく配当利回りは3.47%でした。年初来高値718.5円(9月3日)と年初来安値530.5円(7月2日)の値幅のなかでは、直近の株価は高値からやや反落したものの、なお値幅の上半分に位置する水準にあります。
同業のJFEホールディングス<5411>(終値1,835円、PBR0.44倍)、神戸製鋼所<5406>(終値2,029.5円、同0.64倍)、大同特殊鋼<5471>(終値2,269.5円、同0.94倍)も、9月4日終値ベースでいずれもPBRは1倍を下回る水準で推移しています。
鉄鋼のように業績が市況に左右されやすいシクリカル(景気敏感)産業では、好業績の局面でも株価純資産倍率が低めに評価されやすい傾向があり、この点はセクター特有の事情として押さえておきたいところです。
日本製鉄の年間チャート
株主優待制度は「縮小」
日本製鉄は、3月末・9月末時点で5,000株以上を保有する株主を対象に、製鉄所の工場見学会への招待を実施しています(年2回、3〜4月頃と10〜11月頃に案内)。2025年10月1日付の株式分割(1株を5株に)にあわせて対象株数の基準も1,000株以上から5,000株以上に調整されており、株式分割を考慮した対象株数の水準自体はほぼ変わっていません。
一方で、優待の中身は縮小されています。3月末基準からは、工場見学会への招待枠が拡大された一方、経営概況説明会への招待、鹿島アントラーズ観戦への招待、日本製鉄紀尾井ホール演奏会への招待は廃止されており、対象となる株数は同水準でも、優待内容自体は実質的に縮小したと言えます。株主優待の内容や条件は今後も変更される可能性があるため、最新の情報は同社の公式サイトで確認してください。
記者コメント
同社を理解するうえで、売上の9割超を占める製鉄事業の中身を見ることは欠かせません。今回の決算で見えてきたのは、国内の製鉄事業が原燃料コストの上昇などで苦戦する一方、USスチールを含む海外事業がそれを補って余りある成長を見せているという構図です。
買収完了から1年余りでUSスチールの実力ベース事業利益見通しが1,800億円以上まで積み上がったことは、技術者派遣による品質改善や米国鋼材市況の上昇という追い風があったとはいえ、着実な成果と言えそうです。米国の粗鋼生産量が44年ぶりに日本を上回ったという事実も、両国の鉄鋼業を取り巻く構造そのものが変わりつつあることを示しています。
もっとも、通期の事業利益・当期利益予想はそろって上方修正された一方、当期利益の上方修正には在庫評価差益の拡大という会計要因も含まれており、一過性要因を除いた社内管理指標「実力ベース連結事業利益」の見通し自体は据え置かれている点は冷静に見ておく必要があります。
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
- 本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。
- 投資判断は最新の決算資料や市場動向などをご自身でご確認の上、自己責任で行ってください。
- 株主優待の内容や条件などは変更される可能性があるため、必ず公式サイトでご確認ください。
フィスコなどの金融専門誌出身。10年以上にわたり日経QUICKやブルームバーグ等で機関投資家向けの債券市場記事を執筆。企業調査レポートや決算などIR情報の発信に精通し、現在は経済メディア『LIMO』編集部で記事を執筆。
