良品計画とファーストリテイリング、粗利率の差は2ポイントでも営業利益率は7ポイント差。株価3割超の上昇を支えた収益性の構図
beeboysShutterstock.com
執筆者石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ
18:50
良品計画とファーストリテイリング、粗利率の差は2ポイントでも営業利益率は7ポイント差。株価3割超の上昇を支えた収益性の構図
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この記事はここがポイント

  • 良品計画とファーストリテイリングの営業利益率7ポイント差は販管費率が主因。
  • 良品計画の株価は昨秋以降3割強上昇、原価低減と値下げ抑制で収益性を改善。
  • 良品計画は海外事業の営業利益率が国内を上回り、東アジアが全体収益を牽引。

無印良品の売り場に立つと、値札の主張が驚くほど控えめだ。派手なセールも滅多にない。その棚を運営する良品計画<7453>の株価は、昨秋以降で3割強も水準を切り上げてきた。上昇を支えたのは値付けの妙なのか、それとも別の何かなのか。会社が出している数字は、後者を示しているように見える。

※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

2,700円台の底から4,300円台へ。昨秋以降で変わった株価の見え方

出所:各種資料をもとに筆者作成

株価の起点を2025年10月末に置くと、当時の終値は3,100円台だった。そこから年末にかけて水準を切り下げ、2025年12月末には2,700円台まで下押ししている。

この12月末が、昨秋以降の月末終値では最も低い水準にあたる。市場全体が年末にかけて重かった時期でもあり、個別材料だけで説明できる動きではない。

流れが変わったのは年明けからだ。2026年1月末に3,000円台を回復すると、2月末には3,500円台まで一気に切り上がった。3月末にいったん3,300円台へ戻す場面はあったものの、下値は切り上がっている。

その後も4月末は3,600円台、5月末は3,800円台と階段を上がり、6月末に3,500円台まで押した後、7月末には4,100円台へ抜けた。

2026年8月末の終値は4,300円台で、昨秋以降の月末終値では最も高い。年末の底値圏からは1.5倍を超える水準にあたる。

直近は2026年9月時点で4,100円台と、8月末からはやや上げ幅を吐き出している。もっとも、昨秋の起点と比べれば3割強高い位置にある。

株価がこう動いた理由を、単一の材料で言い当てることはできない。相場全体の地合いも需給も絡む。ただ、この間に会社が出してきた決算の中身は、上昇の背景として無視できないものだった。

増収16.9%に対して営業増益36.0%。利益の伸びが売上を追い越した理由

2026年8月期3Q累計の営業収益は6,907億円で、前年同期比16.9%増。営業利益は808億円で同36.0%増と、利益の伸びが売上の伸びを大きく上回った。経常利益は823億円で同42.5%増、親会社株主に帰属する四半期純利益は585億円で同34.3%増である。

なぜ利益の伸びが売上を追い越したのか。会社の説明によると、国内外での出店による店舗数の増加に加えて海外事業の売上が伸長したことで増収となり、生産体制の内製化による原価低減や値下げの抑制によって営業総利益率の改善が進んだ結果、営業利益が増益になった。

増益の中身は二階建てということになる。売れた量が増えたことと、1つ売るごとに手元に残る利益が厚くなったこと。後者は一度身につくと効きが長い性質のもので、株価がこの1年で水準を切り上げてきたことと無縁ではないだろう。

純利益の側にはもう少し事情がある。固定資産除却損を計上した一方で、政策保有株式の売却や、システム障害に関する補償金等の計上によって増益になったと会社は説明している。こちらは事業そのものの実力というより、一過性の要素が混ざった増益と読むのが素直だ。

会社は通期で営業収益9,070億円、営業利益980億円を見込む。営業利益率にすると10.8%になり、前期の9.4%からもう一段の改善を織り込んだ数字だ。

通期計画に対する進捗も見ておきたい。3Q累計の営業利益808億円は、通期計画980億円の82%にあたる。3Qの時点で1年の4分の3を通過していることを踏まえれば、計画には余裕が残る進み方といえる。

店舗数も押さえておきたい。3Q末時点の無印良品の店舗数は、ライセンスドストアを含めて国内外1,463店舗。うち国内が708店舗、海外が755店舗で、店舗数では海外が国内を上回っている。

日本の生活雑貨ブランドという印象が先に立つ会社だが、店舗網の重心はすでに国外へ移っている。この事実は、次に見る収益性の話ともつながってくる。

「無印は粗利が厚い」という感覚と、実際の粗利率の順序

ここで比較の相手を1社置きたい。同じ8月期決算で、自社ブランドの商品を自社の店で売るという商売の形が重なるファーストリテイリング<9983>である。衣料品と生活雑貨という品目の違いはあるが、並べて見る対象としては読者の感覚に近いはずだ。

自然に思い浮かぶ順序は、こだわりを掲げるブランドほど値付けに余裕があり、1つ売るごとに残る利益も厚い、というものではないだろうか。

ところが数字の順序は逆だった。2025年8月期の粗利率、つまり売上に対して手元に残る売上総利益の比率は、良品計画が51.4%。これに対してファーストリテイリングの粗利率(IFRS)は53.8%で、上に立っているのは後者である。差は2.4ポイントだ。

もっとも、これは今に始まった順序ではない。良品計画の粗利率は2023年8月期に46.7%まで沈み、そこから2期かけて51.4%まで戻してきた。直近の決算で会社が挙げている原価低減と値下げの抑制は、この4.7ポイントの回復の延長線上にある動きと読める。

つまり良品計画の側は、いったん失った粗利を取り戻す途中にある。一方のファーストリテイリングは、この5期を通じて50%台前半から半ばのレンジを保ってきた。

同じ「粗利の厚い商売」に見えて、片方は回復の局面、もう片方は高い水準を維持してきた局面にある。並べる意味はここにある。

営業利益率7ポイントの差は、値付けよりも費用の側から来ている

粗利率の差が2.4ポイントなら、営業利益率の差もその程度に収まりそうなものだ。ところが2025年8月期の営業利益率は、良品計画9.4%に対してファーストリテイリングは16.6%。開きは7.2ポイントに広がる。

残る5ポイント近くはどこから来るのか。答えは販管費率にある。売上に対する販売費及び一般管理費の比率は、良品計画が42.0%、ファーストリテイリングが37.6%で、4.4ポイントの開きがある。

粗利率の差2.4ポイントと販管費率の差4.4ポイントを足せば、営業利益率の開きはほぼ説明がつく。値付けの差ではなく、売るためにかかる費用の差のほうが主因ということだ。

販管費には店舗の賃料や人件費、物流費、広告宣伝費が含まれる。売上の規模が大きいほど、これらの比率は下がりやすい。良品計画の営業収益はファーストリテイリングの4分の1に満たず、規模の差がそのまま費用の比率に効いている面はあるだろう。

この構図を5期に伸ばすと、もう少し厳しい姿が見えてくる。良品計画の営業利益率は2021年8月期に9.4%、2022年8月期6.6%、2023年8月期5.7%と沈み、2024年8月期8.5%、2025年8月期9.4%と戻した。5期かけて出発点に戻ったことになる。

同じ5期で、ファーストリテイリングは11.7%から16.6%へ、5ポイント近く水準を積み上げている。

良品計画の直近2期の改善は本物だ。ただしそれは自社の落ち込みを埋める動きであって、相手との開きを詰める動きにはまだなっていない。ここを混同しないよう気をつけたいところだ。

出所:株式会社 良品計画および株式会社ファーストリテイリング 有価証券報告書をもとに筆者作成
営業利益率の差は5期で縮まっていない

小売業の中央値を置くと、2社は同じ側に並ぶ

2社だけを並べると、どちらが上かという話に落ちてしまう。そこで第三の物差しとして、小売業258社の中央値を置いてみたい。

営業利益率の中央値は3.7%で、上位4分の1の境目でも5.8%である。良品計画の9.4%は中央値の2.5倍を超え、上位四分位の水準もはっきり上回る。ファーストリテイリングの16.6%は、さらにその上にある。

粗利率でも同じことが言える。中央値は46.0%で、両社ともこれを5ポイント以上上回っている。

良品計画は、業種の中では明確に上位の収益性を持つ会社だ。7ポイントの開きは「良品計画が弱い」ことの証明ではなく、「両社とも上位にいて、その中でさらに階層が分かれている」という話にすぎない。

収益性の源泉も見ておきたい。2025年8月期のセグメント別では、国内事業の営業利益率が11.1%だったのに対し、東アジア事業は19.3%と国内を8ポイント以上上回る。欧米事業も16.4%で国内より高い。

海外は苦戦しているという印象を持つ人もいるだろう。会社も中国大陸事業で店舗のスクラップアンドビルドを進めているとしており、個別の市場に課題がないわけではない。それでもセグメントの利益率で見る限り、会社全体の収益性を押し上げているのは海外の側だ。

2026年8月期の会社計画で見ても、営業利益率は良品計画が10.8%、ファーストリテイリングが18.4%になる。今期のうちに開きが縮む絵は、両社の計画からは読み取れない。

粗利率の並びと販管費率の並びを同時に見ると、この2社の違いが商品そのものではなく、売るための運営の側にあることが見えてくる。

面白いのは、良品計画の改善が原価を下げる方向から始まっている点だ。生産体制を自前に寄せることと、安易に値を下げないこと。どちらも売り場の見え方を変えずに利益を厚くする手立てで、王道にして効く手でもある。

ただ、この道筋には限界もある。粗利は取り戻せても、店を増やし、人を配し、在庫を回すための費用は、店舗網が広がるほど積み上がっていく。営業利益率の開きが費用の側に残っているのは、そういうことだろう。

だからこそ次に見たいのは、粗利率よりも販管費率のほうだ。出店を続けながら費用の比率を下げられるのか。それとも粗利の改善分が費用の増加に食われるのか。

次の決算では、売上と利益の伸び率を並べるだけでなく、この2つの比率がどう動いたかにも目を向けてほしい。

免責事項

  • 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
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石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ

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