この記事はここがポイント
- 任天堂の株価は過去1年でTOPIXを大きく下回っており、業績と株価の振れ幅が大きい
- 第1四半期の「営業利益150%増」の裏には、関税還付という一時的な押し上げ要因がある
- 一時要因を除いた「真水の利益」でもしっかり増益を確保したことが市場の安心感に繋がった
- 最大の懸念は、会社予想を大きく上回る市場の期待(コンセンサス)とのギャップ
- ハード本体の価格改定が、最重要である年末商戦にどう影響するかが今後の焦点となる
「スーパーマリオ」や「ゼルダの伝説」など世界的なIPを持ち、日本を代表するエンターテインメント企業である任天堂。しかし、株式市場では不可解な現象が起きています。直近の第1四半期決算では営業利益が前年同期比150%増という驚異的な「大幅増益」を叩き出したにもかかわらず、過去1年間の株価は市場平均を大きく下回る低迷が続いているのです。好決算という良いニュースがあるのに、なぜ株価は力強く上昇しないのでしょうか。この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏が株価の動きと会社からのメッセージを読み解き、プロの投資家ならではの視点で迫ります。
証券コード「7974」が示す任天堂の株価の真実
誰もが知る優良企業でありながら、任天堂の株価は長らく調整局面が続いています。一時期は高値をつけて「まだまだ上に行くのではないか」と期待されたものの、そこから大きく下落する展開となりました。なぜ良い会社の株価が下がるのか。この疑問に対して泉田氏は、任天堂の証券コード「7974」を引き合いに出して、この銘柄の特性を解説します。
「7974」は語呂合わせで「泣くな」と読めます。泉田氏は、これが任天堂という銘柄の特徴を非常に的確に表していると言います。
「任天堂は絶対的にいい会社には変わりないじゃん。日本を代表する、世界中の人が誰もが知ってる。だけど業績で泣くんです。株価で泣くんです」
つまり、「誰もが知る良い会社」であることと、「常に株価が上がり続ける良い投資対象」であることは、必ずしもイコールではないということです。業績の波が大きく、それに伴って株価もジェットコースターのように乱高下しやすいのが、任天堂という銘柄の宿命だと言えます。
任天堂(TSE:7974)2025年8月〜2026年8月(過去1年間)
泉田氏が紹介した過去1年間の株価チャートの比較データを見ると、その厳しさが浮き彫りになります。日本株全体の動きを示すTOPIX(東証株価指数)が1年間でプラス34%と大きく上昇しているのに対し、任天堂の株価はマイナス40%と沈んでいます。市場平均に対して、実にマイナス70%もアンダーパフォーム(劣後)している状態です。
「1年前に任天堂を買いとアナリストが言ってたのを聞くと、1年後マイナス70%アンダーパフォームしてるわけです」
証券会社のアナリストが強気の「買い推奨」を出していた時期に、それを信じて投資をした個人投資家の中には、まさに「泣く」展開になっている人も少なくないでしょう。株価がイケイケの時ほど、市場の期待値が高まりすぎてしまい、その後の反動が大きくなるという株式市場の冷酷な現実がここにあります。
減収なのに「営業利益150%増」の謎を解く
株価が低迷する中で発表されたのが、2027年3月期の第1四半期決算です。その内容は、一見すると非常に不可解な数字が並んでいました。
売上高は5,178億円で前年同期比マイナス9.5%と「減収」でした。しかし、本業の儲けを示す営業利益は1,425億円で同プラス150.5%と驚異的な伸びを示し、最終的な純利益も1,474億円で同プラス53.5%となっています。
売上が減っているのに、利益が1.5倍以上に膨れ上がるというのは、どのようなカラクリがあるのでしょうか。泉田氏はこの「減収増益」の背景について、大きく2つの要因があると分析します。
1つ目は、任天堂のビジネスモデルが持つ利益構造の変化です。
「ハードは赤字とは言わないですけども、ハードよりもやっぱりソフトウェアの方が利益率高いじゃないですか。なので、ハードが一旦売れるフェーズが落ち着いて、ソフトが売れるようになってくると、基本的には売上がそんなに増えなくても利益というのは増える」
一般に、ゲーム機本体(ハード)の普及が進み、利益率の高いゲームソフトの販売割合が増加すると、全体の売上規模が縮小しても利益は残るという構造です。ただし泉田氏は、Switch 2について「まだまだ全然そんな状態ではない」と述べており、現時点ではその段階には至っていないという見方を示しています。
営業利益の増減 前1Q→当1Q
そして2つ目が、今回の大幅増益を牽引した「一時的な要因」の存在です。
決算資料によれば、第1四半期に米国IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく関税の還付があり、約3億USドルが売上原価の減額(つまり利益の押し上げ)として計上されました。
泉田氏の試算によれば、会社の通期予想の前提である1ドル150円で換算すると、この関税還付による利益押し上げ効果は約450億円規模にのぼります。
「今回の営業利益1,425億だけど、ざっくりそれが400数十億円だとすると、だいたいそれを差し引けば1,000億ぐらいになってるので、そうは言っても増益だよね」
ここが投資家にとって非常に重要なポイントです。関税還付という「下駄」を履いているため、表面上の150%増益という数字をそのまま真に受けることはできません。しかし、その一時要因を差し引いた「真水の利益」で見ても約976億円となり、前年同期の569億円から70%以上の増益を達成しています。
メモリを中心とする部材価格の高騰など、コスト面での不安が大きかった中で、本業の実力値(真水)でもしっかりと稼げていることが確認できたため、これが投資家の安心感につながったのではないか、というのが泉田氏の見方です。
最大の焦点は「コンセンサス」とのギャップ
第1四半期の決算は安心感を与える内容でしたが、任天堂は通期の業績予想を据え置きました。売上高2兆500億円(マイナス11.4%)、営業利益3,700億円(プラス2.7%)、純利益3,100億円(マイナス26.9%)という、やや保守的な見通しを崩していません。
ここで泉田氏が強い警戒感を示しているのが、会社予想と「アナリストコンセンサス」との間に存在する大きなギャップです。コンセンサスとは、証券会社などのプロのアナリストたちが予測した業績の平均値であり、株式市場の「期待値」そのものです。
番組内で紹介されたデータによれば、市場のコンセンサスは営業利益で4,412億円、純利益で4,200億円となっています。会社予想の営業利益3,700億円、純利益3,100億円に対して、市場ははるかに強気な見立てをしているのです。
「株価は1年間かけてすごくアンダーパフォームしてるんだけど、コンセンサスに関しては会社予想を大きく上回ってるんで、この後どうなるか」
なぜこのギャップが問題なのでしょうか。株式市場では、株価は会社予想ではなく「コンセンサス(市場の期待値)」を織り込んで形成されます。もし実際の業績が会社予想を上回ったとしても、コンセンサスに届かなければ「期待外れ」とみなされ、株価が売られる要因になってしまうからです。
会社予想とコンセンサスの乖離
では、任天堂の業績はこの高いハードルを越えられるのでしょうか。泉田氏は、第1四半期の「真水の利益」をベースに単純な試算を行います。
「今回関税の還付があったんで1,400億円になってるけど、関税が無ければ1,000億円じゃん。これが4四半期続くと4,000億円なんだよ」
泉田氏は番組内で、一時要因を除いた実力値をおよそ1,000億円と見て、これが4回の四半期続けば年間4,000億円になると試算しています。これならば会社予想の3,700億円はクリアできますが、コンセンサスの4,412億円には届きません。もしこのままのペースで推移すれば、コンセンサスが切り下がり、それに連動して株価が再び下落するリスクを孕んでいるのです。
年末商戦と価格改定が握る今後の行方
しかし、ゲームビジネスの業績は「1,000億円×4回」という単純な掛け算では決まりません。そこには特有の「季節性」が存在するからです。
「基本的には第3四半期、10-12月期ってクリスマス商戦なんで、ここでドカンと売上、利益が増える」
任天堂にとって、第3四半期(10-12月)の年末商戦は1年で最も稼ぎ時です。ここで爆発的な売上を記録すれば、四半期で1,000億円を大きく超える利益となる展開も考えられ、泉田氏は「そういった数字は全然見えないというものではない」と述べています。
ただし、今年の年末商戦には大きな不確実性が横たわっています。それが、ハード本体の価格改定です。任天堂は2026年5月25日に、Nintendo Switch 2の国内専用モデルの価格を49,980円から59,980円へと1万円値上げしました(多言語対応版69,980円は据え置き)。古川社長はこの理由について「特定の要因によるものではなく、昨今のさまざまな市場環境の変化がグローバルでの事業性に中長期的な影響を与えると考えたため」と説明しています。
泉田氏は番組内で、メモリを中心とする部材価格の高騰や円安が背景にあるのではないかとの見方を示しています。理由がどうあれ、価格が上がれば消費者の財布の紐は固くなります。
今後の業績を左右する要因
泉田氏も、この値上げが今後の業績見通しを難しくしていると指摘します。
「読みにくくなったのが今回の値上げ。上がったことによって商戦に影響があるんじゃないかっていうのは、当然ながら誰もが心配するし、会社が一番心配してると思う」
価格改定が年末商戦の勢いに水を差すことになれば、強気なアナリストコンセンサスは達成できず、株価にとってネガティブな展開となる恐れがあります。一方で、強力なソフトウェアのラインナップが値上げの逆風を跳ね返し、想定以上の販売を記録すれば、株価は本格的な上昇軌道に乗るかもしれません。
任天堂への投資を考える上で重要なのは、決算発表で出てきた「150%増益」という表面的な数字に踊らされないことです。その中身にある一時要因(関税還付)を除いた実力値を冷静に見極め、会社予想と市場の期待(コンセンサス)の間にどれだけの距離があるのかを常に意識することが、プロの投資家が実践している「決算の読み解き方」なのです。
参考資料
- 任天堂株式会社「2027年3月期 第1四半期決算短信」(2026年8月6日)
- 任天堂株式会社「2027年3月期 第1四半期決算説明資料(ノート付)」(2026年8月6日)
- YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
- ファミ通「Switch2値上げの理由はメモリ高騰や為替など中長期的な市場変化。任天堂・古川社長が価格変更の背景を説明」
各資料の入手先: 任天堂株式会社 IRライブラリ
※リンクは記事作成時点のものです。
免責事項
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「イズミダイズム」はモニクルグループが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命出身の元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点から経済ニュースの裏側や資産形成のトピックを論理的に解説します。
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。東京科学大学大学院非常勤講師。
