この記事はここがポイント
- KDDIの2026年3月期営業利益1.1%増は、個人向け2.1%減益に対し法人向けが12.2%増益で牽引した構図。
- 法人向け利益は過去5期で一貫して増加し、セグメント営業利益の24.0%を占めるまでに上昇。
- 会社は中期経営戦略「Power-to-Connect 2028」で、法人向け含むグロースセグメント2桁成長を目標。
携帯電話の会社と言われて思い浮かぶのは、スマートフォンの料金プランや街の店舗だろう。私も長いあいだKDDI<9433>をそういう会社として見てきた。だが2026年3月期の決算を事業別に分けて見ると、利益を押し上げたのは個人向けではなかった。 ※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
増益をつくったのは個人向けではなかった
KDDIの2026年3月期は、売上収益(IFRS)が6兆719億円で4.1%増、営業利益が1兆991億円で1.1%増だった。
全体で見れば小幅な増益にとどまる。ただ、その中身は均一ではない。
主力のパーソナルセグメントは、売上収益が4兆8,127億円で2.2%増えた一方、営業利益は8,283億円で2.1%の減益となった。
対するビジネスセグメントは、売上収益1兆5,279億円で8.7%増、営業利益2,638億円で12.2%増である。
金額で並べ直すと構図がはっきりする。ビジネスの営業利益は前期から286億円増え、パーソナルは179億円減った。全社の営業利益が小幅な増加にとどまった理由は、この差し引きでほぼ説明がつく。
パーソナルの減益について、会社は過去に資産計上した短期解約者に係る契約コストの減損などを挙げている。売上収益そのものは伸びており、利益を削ったのは費用側だ。
一方のビジネスは、IoT関連サービスやデータセンターなどで構成するグロース領域の成長が収入を押し上げたという。コネクティッドカーを中心とした回線数の伸びと、IoT関連ソリューション案件の進捗が牽引したと会社は説明する。
「携帯キャリア」という言葉から連想される姿と、決算書の中で起きていることは、同じではない。
法人向けの利益は5期かけて積み上がってきた
これは単年の綾ではない。過去5期のセグメント別営業利益を並べると、形がはっきり見えてくる。
ビジネスセグメントの営業利益は、2022年3月期の1,870億円から、2023年3月期1,915億円、2024年3月期2,169億円、2025年3月期2,352億円、そして2026年3月期2,638億円へと、一貫して積み上がってきた。
同じ5期のパーソナルセグメントは、8,670億円、8,789億円、7,372億円、8,463億円、8,283億円である。上下を繰り返し、方向感が定まらない。
結果として、セグメント営業利益の合計に占めるビジネスの比率は、2022年3月期の17.6%から2026年3月期には24.0%まで切り上がった。4分の1に近い水準だ。
利益率で見ても、両セグメントの差はすでに消えている。
2026年3月期のビジネスの営業利益率は17.3%、パーソナルは17.2%。ほぼ横並びである。5期前の2022年3月期はパーソナル18.6%に対しビジネス18.0%で、個人向けのほうが上にあった。
売上収益の構成でも同じことが起きている。ビジネスの売上収益は2022年3月期の9,966億円から1兆5,279億円へ、5割超の増加だ。
外部の顧客に対する売上収益で見ても、連結全体に占めるビジネスの比率は2022年3月期の15.2%から2026年3月期には21.3%へ上がっている。5期で6ポイント強の変化である。
通信業のように顧客基盤が成熟した産業で、5期のあいだに構成比が6ポイント動くのは小さな話ではない。会社の重心がどちらへ寄っているかを示す数字と読み取れる。
パーソナルが4兆8,127億円と依然として圧倒的に大きいことは動かない。だが「大きい事業」と「伸びている事業」は別物である。
規模で会社を記憶すると個人向けが前に出るが、変化で会社を追うと法人向けが前に出る。同じ決算書から、二つの姿が同時に読み取れる局面だと言えるだろう。
なお、この期のセグメント間には2,356億円の内部取引がある。法人向けの数字は、外販だけで完結しているわけではない。全社の通信基盤の上に載っている事業だという前提は置いておきたい。
直近の四半期にも同じ形が出ている
2027年3月期1Qは、売上収益1兆4,873億円、営業利益3,142億円、親会社の所有者に帰属する当期利益1,954億円だった。
会社が示す2027年3月期の通期予想は、売上収益6兆4,100億円で5.6%増、営業利益1兆2,100億円で5.0%増、当期利益7,310億円で2.7%増である。
1Qの営業利益は通期予想に対して26.0%の進捗となる。単純な4分の1をわずかに上回る位置だ。
注目したいのは予想の伸び率のほうだろう。通期予想の営業利益5.0%増は、2026年3月期の実績である1.1%増を大きく上回る。会社は前期より強い増益を見込んでいることになる。
その裏づけとして会社が置いているのが、2026年度から2028年度の中期経営戦略「Power-to-Connect 2028」だ。テレコムコアセグメントの安定成長を維持しつつ、グロースセグメントで2桁成長を実現し、調整後営業利益の年平均成長率5%を目指すとしている。
あわせてROE(自己資本利益率)とROIC(投下資本利益率)のスプレッドを重要な経営指標に据え、役員報酬と連動させる方針も示した。
ここで言うグロースセグメントが指す領域は、直近まで法人向けで伸びてきた事業とほぼ重なる。会社が描く設計図の上でも、稼ぎの重心は動いている。
持分法による投資損益が398億円と45.1%増えた点も見逃せない。会社によれば、持分法適用共同支配企業であるローソンの投資利益の増加が主な要因だ。通信の外側で積み上がる利益が、着実に厚みを増している。
費用の側も確認しておきたい。2026年3月期の売上原価と販売費及び一般管理費の合計は5兆106億円で、5.0%増えている。売上収益の伸び4.1%を上回るペースだ。
売上の伸びを費用の伸びが追い越せば、営業利益率は下がる。実際、営業利益率は18.1%と前期から0.5ポイント低下した。全社の増益幅が小さくとどまった背景には、この構図がある。
市場はこの構造をどこまで見ているのか
株価は2025年9月末の2,300円台から、2026年7月末には2,900円台まで切り上がった。昨秋以降では2割強の上昇になる。
途中、2026年4月末に2,500円台まで下押しする場面もあったが、そこから緩やかに水準を戻した。2026年8月時点の直近終値は2,800円台後半にある。
収益性そのものは高い。2026年3月期の営業利益率は18.1%で、情報・通信業の中央値8.4%の倍以上だ。ROEも14.0%と、中央値11.1%を上回る。
一方で、バランスシートの姿は5期のあいだに大きく変わった。親会社所有者帰属持分比率は2022年3月期の45.0%から、2026年3月期には26.6%まで低下している。有利子負債残高は5兆3,753億円だ。
通信会社は財務が堅いというイメージが先に立つが、連結の数字だけを見るとその印象とは重ならない。情報・通信業の自己資本比率の中央値が66.9%であることを思えば、なおさらだ。
もっとも会社は、auフィナンシャルホールディングス(連結)を除いた親会社所有者帰属持分比率は48.5%だと注記している。金融事業を抱え込んだことによる見え方の変化が大きい。
キャッシュフローの動きも同じ方向を向いている。2026年3月期の営業活動によるキャッシュフローは1兆7,888億円で、前期から5,398億円増えた。会社はこの増加の要因として、金融事業の預金の増加幅が大きくなったことなどを挙げている。
つまり営業キャッシュフローの厚みも、通信の稼ぎだけで説明できる数字ではなくなっている。フリーキャッシュフローは7,083億円だ。
負債を使うこと自体が悪いわけではない。むしろ、負債をほとんど使わない財務が資本効率の観点で最適かどうかは、また別の論点だ。
ただ、通信インフラの安定性と金融事業のバランスシートが一つの連結の中に同居している以上、読み手の側も指標の見方を切り替える必要がある。株価の水準だけを追っても、この構造は見えてこない。
なぜ、法人向けが利益の伸びを担っていることは、これほど見えにくいのだろうか。
理由の一つは、接点の非対称にあるだろう。個人は毎月の請求と店舗の看板で会社に触れる。だがデータセンターやIoT回線は、日常の視界にまず入らない。
もう一つは売上の絶対額だ。パーソナルはビジネスの3倍を超える売上収益を持つ。構成比の大きい事業が、そのまま「その会社の姿」として記憶される。
だが投資家が見るのは水準ではなく変化である。どちらが伸びているか、どちらの利益が積み上がっているか。その問いで並べ替えると、順番は入れ替わる。
中期経営戦略がグロースの2桁成長を掲げた以上、次に確かめるべきはビジネスセグメントの増益が続くかどうかになる。決算を追うときは、全社の営業利益より先に、セグメント別の内訳から目を通すことをおすすめしたい。
参考資料
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
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オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
