三井物産と三菱商事、2026年3月期通期は利益の75%と57%が上位3セグメントに集中。株価の戻りに事業構成の違いが表れている
T. Schneider/Shutterstock.com
執筆者石津 大希アナリスト 株式会社モニクルリサーチ
20:20
三井物産と三菱商事、2026年3月期通期は利益の75%と57%が上位3セグメントに集中。株価の戻りに事業構成の違いが表れている
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この記事はここがポイント

  • 三井物産の利益構造は売買利ざやより権益・出資先からの収益が厚い投資会社型で、株価の大きな振れ幅の要因。
  • 2026年3月期、三井物産は当期利益8,339億円の74.7%が上位3事業に集中、三菱商事8,004億円は56.8%と分散。
  • 三井物産の株価は2026年3月末から2割強下落後1割近く戻るなど、短期で急変動。利益の市況連動性が影響。

商社株を語るとき、多くの人はまず資源価格を思い浮かべるだろう。ただ、同じ総合商社でも、利益がどこから生まれるかの形は会社ごとに違う。三井物産<8031>の株価は2026年に入って一段高い水準まで買われ、その後に大きく下押しした。昨秋以降の値動きを、決算と事業の組み立て方の両方から追ってみたい。 ※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

2026年3月末の水準から2割強を吐き出した株価の足取り

出所:各種資料をもとに筆者作成

三井物産の株価は、2025年9月末の月末終値で3,600円台だった。そこから秋にかけて水準を緩やかに切り上げ、10月末は3,800円台、11月末は4,100円台をつけている。

年末にかけての上げ足はさらに強い。12月末は4,600円台まで乗せ、2026年1月末には5,000円台に届いた。

勢いが最も出たのは2026年2月から3月にかけてである。2月末は5,800円台、3月末は5,900円台と、2025年9月末以降の月末終値では最も高い水準まで買われた。

半年で3,600円台から5,900円台まで来たのだから、上昇の幅としてはかなり大きい。この局面で何が意識されたのかを一つに絞ることはできないが、資源市況や為替、商社株全体への資金流入といった複数の要因が重なった可能性が高い。

流れが変わったのは2026年4月以降だ。4月末は5,800円台と横ばい圏にとどまったが、5月末は5,200円台、6月末は4,400円台まで下押しした。3月末の水準からは2割強を吐き出した計算になる。

もっとも、そこからの戻りも速かった。7月末は4,900円台まで切り返し、2026年8月時点の終値も4,900円台にある。6月末からは1割近く戻した水準だ。

昨秋の3,600円台と比べれば、足元は3割強高い。ただ、この11か月の値動きは一直線ではなく、上げも下げも短い期間に集中している。

上げの局面と下げの局面を分けて眺めると、性格の違いが見えてくる。2025年9月末から2026年3月末までの半年は、月末ごとに水準がきれいに切り上がる形だった。

これに対して2026年4月以降の下げは、5月と6月の2か月に集中している。上げは時間をかけて積み上がり、下げは短い期間で一気に来た。この非対称さは、決算そのものよりも需給や期待の巻き戻しが効いた可能性を示している。

ボラティリティ(株価の日々の値動きの激しさ)の高さは、この銘柄を見るうえで外せない特性だろう。振れ幅は、その会社の利益がどこから生まれているかと無関係ではない。市況に直結する事業の比重が高ければ、株価もそれに沿って動きやすくなる。

3期続けて目減りした利益が映すもの

三井物産の2026年3月期通期は、売上収益(IFRS)が13兆9,952億円で前期比▲4.6%、税引前利益が1兆870億円、親会社の所有者に帰属する当期利益が8,339億円で前期比▲7.4%だった。

減収減益である。しかも1回きりの落ち込みではない。当期利益は2023年3月期の1兆1,306億円をピークに、2024年3月期1兆636億円、2025年3月期9,003億円、2026年3月期8,339億円と、3期続けて減っている。

利益はなぜ目減りしたのか。会社は2026年3月期3Q累計の短信で、減収の主因はエネルギー、化学品、金属資源の減収だとしている。

事業環境の説明も具体的だ。通期の短信によれば、米国の関税政策が世界経済の下押し要因となる一方でAI関連の設備投資が下支えとなり、年度末にかけては中東情勢の悪化によるホルムズ海峡の通航制限を受けて、エネルギーなどの供給途絶が発生して減速感が急速に高まった。

資源とエネルギーの市況に収益が連動する会社にとって、この環境は追い風とは言いがたい。3期にわたる減益は、市況のサイクルが一巡した局面での目減りと読み取れる。

一方で、収益力そのものが崩れたわけではない。ROE(自己資本利益率)は10.22%を確保し、自己資本比率は42.11%である。

資金の使い方も活発だ。2026年3月期の営業キャッシュフローは9,529億円、投資キャッシュフローは▲1兆335億円で、稼いだ額を上回る資金を投資に振り向けている。

総資産は前期の16兆8,115億円から20兆8,215億円へと膨らんだ。減益が続く一方で資産を積み増しているわけで、収益の踊り場と投資局面が重なっているとみるのが自然だろう。

年間配当は115円で5期連続の増配となり、配当性向は39.5%だった。2027年3月期は140円を予想している。

増配を5期続けながら配当性向を4割弱に収められているのは、利益の絶対額がなお大きいからだ。減益が続く局面でも、還元を細らせずに済む余力は残っている。

もっとも、投資キャッシュフローの大きさを併せて見れば、余力の使い道は還元だけではない。稼いだ資金を配当と投資のどちらへどれだけ振り向けるか。その配分の判断が、次の数年の利益の形を決めていくだろう。

その2027年3月期1Qは、売上収益4兆3,475億円、当期利益2,940億円で着地した。通期予想の当期利益9,200億円(前期比+10.3%)に対する進捗率は32%で、単純に4分の1で刻んだ25%は上回っている。

減益局面からの反転を見込む会社計画に対して、出だしは悪くない。ただし1Qの数字だけで通期を語るのは早計であり、資源市況の推移を確かめながら見ていきたいところだ。

三菱商事と並べて見える利益の集まり方の違い

ここからは同じ総合商社の三菱商事<8058>を並べてみたい。どちらもIFRSを採用し、3月期決算で、卸売業に分類される。

規模で見れば三菱商事のほうが大きい。2026年3月期通期の売上収益は、三井物産の13兆9,952億円に対し、三菱商事は18兆9,159億円である。

ところが当期利益は逆転する。三井物産8,339億円に対し、三菱商事は8,004億円だ。ROEも三井物産10.22%に対し三菱商事8.50%で、資本効率では三井物産が上回る。

この違いはどこから来るのか。セグメント別の利益の並びを見ると輪郭がはっきりしてくる。三井物産のセグメント利益は合計8,617億円で、金属資源2,536億円、機械・インフラ2,258億円、エネルギー1,642億円が上位を占める。この3つだけで全体の74.7%になる。

三菱商事は合計8,039億円で、金属資源2,045億円、Environmental Energy1,608億円、Smart Life Creation910億円と続き、上位3つの合計は56.8%にとどまる。残りは食品産業やMobility、電力ソリューションなど複数の事業に分かれている。

同じ総合商社という括りでも、利益の集まり方はここまで違う。

粗利益が最終利益に残る割合の差はどこから来たのか

粗利益を並べると、印象はまた変わる。2026年3月期通期の粗利益は、三井物産1兆3,281億円に対し、三菱商事は1兆6,550億円で、三菱商事のほうが3,200億円以上大きい。

粗利益が大きいのに最終利益は小さい。この転倒を作っているのが販管費だ。三井物産の販管費は9,021億円で粗利益の67.9%、三菱商事は1兆2,364億円で74.7%を占める。

粗利益のうちどれだけが最終利益として残ったかを計算すると、三井物産は62.8%、三菱商事は48.4%になる。3期をさかのぼると、三井物産は2024年3月期80.6%、2025年3月期69.9%、2026年3月期62.8%と切り下がり、三菱商事は40.9%、51.8%、48.4%で推移している。

三井物産の比率の高さは、粗利益の外側で稼ぐ部分が厚いことを示している。金属資源セグメントは粗利益2,490億円に対してセグメント利益が2,536億円と粗利益を上回り、機械・インフラも粗利益2,095億円に対して2,258億円だ。持分法で取り込む利益や出資先からの配当が、売買の利ざやとは別の層として乗っている構造と読み取れる。

三菱商事の側は、食品産業が粗利益2,973億円と、粗利益を厚く積む事業を複数抱える。ただ、消費者に近い事業は人件費や店舗運営の費用も同時に発生する。粗利益の大きさが最終利益に直結しない理由の一つは、ここにあるだろう。

卸売業の中央値に照らすと2社はどこに立つのか

2社だけを見比べても、どちらが良いかという話にしかならない。第三の物差しとして、卸売業244社の中央値を置いてみたい。

まず粗利率だ。卸売業の中央値は16.91%だが、三井物産は9.49%、三菱商事は8.75%と、いずれも中央値の半分をやや上回る程度にとどまる。商社は薄い利ざやを大きな取扱高で回す商売だという理解と、この数字は整合する。

ところが純利益率になると景色が変わる。中央値2.39%に対し、三井物産は5.96%、三菱商事は4.23%で、いずれも中央値を大きく上回る。粗利の段階では業種の真ん中に届かず、最終利益の段階では業種の上を行く。この2つが同時に成り立つのは、両社の利益が売買の利ざやだけで作られていないからだろう。

ROEも同じ向きだ。卸売業の中央値7.78%、上位四分位11.04%に対して、三井物産は10.22%と上位四分位に近い。三菱商事の8.50%も中央値を上回る位置にある。もっとも自己資本比率は三井物産42.11%、三菱商事39.1%と、中央値51.14%を下回る。ROEの高さの一部は、負債を厚めに使った資本構成から来ている。

セグメント利益の集まり方と、粗利益が最終利益まで残る割合。この2つを重ねると、三井物産という会社の稼ぎ方の輪郭がはっきりしてくる。

売買の利ざやを積み上げる商社というより、権益や出資先の持分から利益を受け取る投資会社に近い姿だ。少ない費用で大きな利益を作れる形だが、その利益は市況と出資先の業績にそのまま晒される。

株価が数か月で大きく上げ、また短い期間で吐き出す。その振れ方は、この構造から見れば不自然ではない。むしろ収益の性質に忠実な動きだといえる。

商社を高配当の安定株という一語で括ると、この振れの源泉が見えなくなる。決算を読むときは、利益の額そのものよりも、その利益がどのセグメントの、どういう性質のものかを確かめてほしい。

稼ぎ方の形が分かると、株価の動き方にも納得がいく。市況が反転したときにどこが最初に効いてくるのかも、同じ地図の上で見当がつくようになる。

参考資料

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