7月に入り、厳しい猛暑によるエアコンのフル稼働や、熱中症リスクなどの体調不良への警戒が高まる中、シニア世代にとって「日々の生活費」と「健康維持のための出費」のバランスに悩む季節がやってきました。
私が社会保障専門紙の記者として厚生労働省に出入りしていた頃、医療保険制度について調べているうちに気づいたことがあります。
それは、高齢期の家計がショートするトリガーは、日々の食費や光熱費の赤字ではなく、ある日突然やってくる、医療費や介護費といった突発的な数十万円の波を吸収できるかどうかにかかっているということです。
世間では「70代の平均貯蓄額は2000万円を超える」といった数字が報じられがちですが、実態とのズレを感じる方も多いはずです。
ここからは、70歳代のリアルな貯蓄額の中央値や公的年金の受給額分布、そして年齢とともに増加する医療費の推移を客観的なデータで紐解き、見えないリスクから手元の資産を安全に守り抜くための視点を提供します。
70歳代・二人以上世帯の貯蓄額、平均と中央値の実態
J-FLEC(金融経済教育推進機構)の「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」を基に、70歳代・二人以上世帯が保有する金融資産の状況をグラフとともに見ていきましょう。
※ここでの金融資産保有額には、預貯金のほかに株式、投資信託、生命保険などが含まれます。ただし、日常的に使う普通預金の残高は対象外です。
70歳代の貯蓄額(二人以上世帯)
70歳代・二人以上世帯の平均貯蓄額は2416万円です。しかし、この数値は一部の富裕層によって引き上げられているため、多くの世帯の実感とは異なる可能性があります。
より実態に近いとされる中央値は1178万円で、多くの世帯の貯蓄額がこの水準に近いことが推測されます。
世帯ごとの詳しい貯蓄額の分布は以下の通りです。
- 金融資産非保有:10.9%
- 100万円未満:4.5%
- 100~200万円未満:5.1%
- 200~300万円未満:3.7%
- 300~400万円未満:3.9%
- 400~500万円未満:2.9%
- 500~700万円未満:6.4%
- 700~1000万円未満:6.7%
- 1000~1500万円未満:11.1%
- 1500~2000万円未満:6.7%
- 2000~3000万円未満:12.3%
- 3000万円以上:25.2%
- 無回答:0.6%
70歳代・二人以上世帯のうち、金融資産を全く保有していない、いわゆる「貯蓄ゼロ」の世帯は10.9%を占めています。その一方で、3000万円以上の資産を持つ世帯も25.2%存在し、資産状況の二極化が進んでいる様子がうかがえます。
分布を見ると、100万円未満が4.5%、100万円から300万円未満の層も合計で8.8%と、貯蓄が少ない世帯も一定数いることがわかります。対照的に、1000万円以上の資産を持つ世帯は合計で55.3%にのぼり、まとまった資産を築いている世帯も多いです。
このように、貯蓄額は退職金の有無、現役時代の収入、相続、健康状態など様々な要因で大きく変わります。公的年金の受給額も加入状況によって個人差があるため、貯蓄が少ない世帯では年金収入だけで生活を維持するのが厳しい場合もあるでしょう。
老後の生活を安定させるためには、各世帯の状況に合わせた生活設計が不可欠です。例えば、健康なうちはパートタイムで働いて収入を補ったり、資産運用による収入を考えたりと、早めに準備を始めることが将来の安心につながるかもしれません。
元厚労省担当の専門紙の新聞記者。公的社会保障(年金・医療・介護)やNISA・iDeCoを横断分析。難解な一次データを生活者視点に翻訳し、知っておきたい家計防衛の知見と、安全で実用的な情報を提供。
