この記事はここがポイント
- ROE計算の自己資本は純資産から非支配株主持分を除く親会社帰属部分
- ROE分母の自己資本は期中変動を平準化するため、期首と期末の平均値を使用
- 決算短信のROEも一度は自分で計算し、指標の深い理解につなげる習慣を確立
「ROEって、結局どうやって計算するの?」——式そのものはシンプルなのに、いざ決算書を開くと、どの数字を使えばいいのか迷う。そんな経験はないでしょうか。実際、ROEは分母に何を置くかで数字が変わり、つまずきどころがいくつかあります。ROEの意味や目安といった基本は「ROEとは?自己資本利益率の意味・計算式・目安からROA・ROICとの違い・デュポン分解まで」で解説していますので、本記事では「求め方」にしぼって、計算例を交えながら、手を動かして確かめていきましょう。
ROEの計算式——基本は「当期純利益 ÷ 自己資本」
まず、基本の式です。
ROE(%)= 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100
たとえば、1年間の当期純利益が10億円、自己資本が100億円の会社なら、10億円 ÷ 100億円 × 100 = 10.0%。株主が預けた100円につき、1年で10円を稼いだ、ということになります。式だけ見れば、ここで話は終わりそうです。しかし、実務で正しく求めようとすると、「自己資本に何を入れるか」で最初のつまずきが待っています。
つまずき①:自己資本は「純資産」と同じではない
決算書を開くと、貸借対照表に「純資産の部」があります。ここで、純資産をそのまま自己資本として使ってしまうと、少しずれます。連結決算では、純資産の中に「非支配株主持分(少数株主持分)」や「新株予約権」が含まれているからです。
自己資本とは、このうち「親会社の株主に帰属するお金」、つまり株主資本と、その他の包括利益累計額を合わせたものを指します。ざっくり言えば、純資産から非支配株主持分などを除いた部分です。そして分子も、それに合わせて「親会社の株主に帰属する当期純利益」を使います。分子と分母で「誰のものか」をそろえる——ここが、正確に求めるための第一の勘どころです。ROEの分母を自己資本ではなく総資産に広げるとROA、事業に投じた資本に置き換えるとROICになります。この違いは「ROEとROA・ROICの違いとは?『誰の視点で見るか』で使い分ける」で解説しています。
つまずき②:分母は「期首と期末の平均」で見る
もう一つの勘どころが、分母の「時点」です。当期純利益は1年間で積み上がった数字(フロー)ですが、自己資本は決算日という一時点の数字(ストック)です。この2つをそのまま割ると、期中に増資や自社株買いで自己資本が大きく動いた年に、数字がぶれてしまいます。
そこで、より正確には、期首(前期末)と期末の自己資本の平均を分母に使います。たとえば期首の自己資本が90億円、期末が110億円なら、平均は100億円。当期純利益10億円をこの100億円で割って、ROEは10.0%です。会社が開示するROEも、多くはこの期首期末平均で計算されています。簡便には期末の自己資本で割ることもありますが、その場合は「期末基準」と意識しておくとよいでしょう。
もう一つの求め方:EPS ÷ BPS でも出せる
実は、ROEは1株あたりの数字からも求められます。
ROE = 1株当たり当期純利益(EPS) ÷ 1株当たり純資産(BPS)
たとえばEPSが150円、BPSが1,500円なら、150 ÷ 1,500 = 0.10、つまりROEは10.0%。分子・分母をともに株式数で割っただけなので、当然、同じ答えになります。この求め方が便利なのは、株価指標とそのままつながるからです。PBR(株価純資産倍率)=株価÷BPS、PER(株価収益率)=株価÷EPSですから、「PBR=PER×ROE」という関係が見えてきます。ROEと株価評価のつながりは「PBR=PER×ROEとは?3つの指標の関係と使い方」で詳しく解説しています。
決算書のどこを見るか——実際の拾い方
では、実際の決算書から数字を拾ってみましょう。分子の「親会社株主に帰属する当期純利益」は損益計算書の末尾に、分母のもとになる「純資産」は貸借対照表の純資産の部にあります。そこから非支配株主持分などを除けば、自己資本です。
もっとも、上場企業なら決算短信の1枚目(サマリー情報)に、自己資本比率や1株当たり純資産(BPS)、多くの場合はROEそのものが載っています。まずはここを見れば早い。自分で計算するのは、その数字の中身を確かめたいときや、期首期末平均で計算し直したいとき、と考えておくとよいでしょう。数字を鵜呑みにせず、一度は自分の手で確かめる——この習慣が、指標を「使える」ものにします。
デュポン分解でも求められる
最後に、もう一段深い求め方にも触れておきます。ROEは、3つの要素の掛け算にも分解できます。
ROE = 売上高当期純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
これを「デュポン分解」と呼びます。同じROE10%でも、利益率で稼いだのか、資産の効率で稼いだのか、借金のてこで押し上げたのか——中身を見分けられるのが、この求め方の強みです。詳しい計算のしかたは「デュポン分解とは?ROEを3つに分解して『稼ぐ力の中身』を見抜く方法」で解説しています。なお、求めたROEが高いか低いかの判断は、業種によって基準が変わります。「ROEの目安は何%?業種別平均と『8%の壁』」もあわせてご覧ください。
元機関投資家イズミダの視点:一度は自分の手で計算してみる
私がアナリストとして駆け出しのころ、先輩に言われて印象に残っているのが、「指標は一度、自分の手で計算してみろ」という一言でした。ROEは、式だけならわずか一行です。ですが、自己資本に何を入れるか、期首期末で平均するか、分子と分母の主体をそろえるか——手を動かすと、教科書には書かれていない勘どころが体に入ってきます。
一度でも自分で計算してみると、その数字がどこから来ているのかが腹に落ち、次からは「この自己資本には何が含まれているのか」と一歩踏み込んで見られるようになります。計算はゴールではなく、中身を読むための入口です。もっとも、算定基準は会社や資料で異なることがありますので、比べるときは同じ基準どうしで見ることが肝心です。
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。東京科学大学大学院非常勤講師。
