高市政権が掲げる積極財政への懸念などを背景に、足元の日本の金利環境は一段と上昇圧力が強まっています。
9日には、長期金利(新発10年国債利回り)が一時約30年ぶりとなる2.9%を記録しました。
このように日本の金利環境が大きな転換期を迎えるなか、個人投資家の間でも債券投資への関心が一段と高まりを見せています。
こうした市場環境のもと、メガバンクの雄である三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が、個人投資家向けに新たな「劣後債(れつごさい)」の発行を準備しています。
条件決定は7月17日の予定です。
今回は、三菱UFJFGが提示した新発債の仮条件の内容や、投資する前に必ず知っておくべき劣後債のリスクなど、直近で条件が決定した「みずほFG債」の振り返りを交えて、分かりやすく解説します。
そもそも「劣後債」とは?普通社債との違い
具体的な条件を見る前に、まずは今回登場した「劣後債(劣後特約付社債)」という仕組みについて簡単におさらいしておきましょう。
劣後債とは、一言で言えば「普通の社債よりも、リスクを引き受ける分、高い利回りが期待できる債券」のことです。
投資家にとっては普通の社債よりもリスクが高い商品となるため、その見返りとして高い金利(利率)が設定されるのが特徴です。
投資する前に必ず押さえる!劣後債の3つのリスクと注意点
高い利回りは魅力的ですが、裏側にある「リスク」を正しく理解しておくことが債券投資では最も大切です。
劣後債を検討する際は、以下の3つの注意点を必ず頭に入れておきましょう。
万が一のときの「弁済順位が低い」
発行体(三菱UFJFG)が破産などの法的倒産手続きを行った場合、元本や利息が投資家に返済される順位(弁済順位)が、普通の社債や一般の借入金よりも後回し(劣後)になります。
つまり、普通の社債を保有している人たちにお金が返ってきた後、それでも資産が残っていれば返してもらえる、という仕組みです。
メガバンクならではの「実質破綻時免除特約(ベイルイン)」
金融機関が発行する劣後債には、非常に重要な特約がついています。
同債では、仮に発行体である三菱UFJFGの自己資本比率が著しく低下し、金融庁などから「このままでは実質破綻する」と認定された場合、この劣後債の元本や利息を支払う義務が永久に免除(カット)されるリスクがあります。
国が税金(公的資金)を投入して銀行を救う前に、まずは劣後債の投資家に身代わり(損失)になってもらうというルールです。
途中で満期が変わる?「期限前償還条項」の仕組み
今回準備されている券種の一つ(第43回債)には、5年後に発行体の都合で前倒し償還できる特約(10NC5)がついています。
国際的な銀行の規制(バーゼルⅢ)上、5年が経った最初のタイミングで前倒し償還されるのが市場の“既定路線(慣例)”となっており、プロの間では「実質5年債」として扱われます。
投資家としては「5年で返ってくるのが基本スケジュール」と捉えつつも、世の中の金利状況によってはその予定が後ろにズレ込む可能性(コールスキップ)があるという、変則的な満期の仕組みを理解しておく必要があります。
三菱UFJFGが準備する2つの個人向け劣後債
今回三菱UFJFGが予定している新しい劣後債には、特徴の異なる2つの券種(タイプ)が用意されています。
第42回:10年債(期限前償還条項無し・固定金利)
途中で前倒し償還される特約がなく、10年間の満期まで一貫して最初に決まった金利が支払われ続けるタイプです。
債券市場では、このように途中で繰り上げ償還されるリスクがなく、満期時に元本が一括して弾丸(Bullet)のように償還される債券のことを「ブレット型」と呼びます。
第43回:10NC5(期限前償還条項付・リセット型金利)
10年満期ですが、発行体の都合により5年後に前倒しで満期を迎える可能性があるタイプです。
当初5年間は固定金利、その後は国債金利に連動して金利が見直されます。
【プロの視点】なぜ銀行は5年で返したくなるのか?
世界のメガバンクが守るべき安全基準のルール上、こうした劣後債は「満期までの残存期間が5年未満」になった時点から、毎年20%ずつ段階的に自己資本への算入額が目減りしていきます。
銀行側としては、自己資本としての効率が悪くなった古い劣後債を5年で一度返し、新しいものに借り換えた方が都合が良いため、通常は5年で前倒し償還(コール)するのが市場の“お約束”となっています。
今回の募集要項案(仮条件)と「格付け」をチェック
それでは、提示されている具体的な条件と、安全性の目安となる「格付け(予備格付け)」を見ていきましょう。
第42回・第43回債「共通」の条件
- 特約:実質破綻時免除特約および劣後特約付
- 最低投資金額:100万円
- 申込期間:2026年7月21日~7月30日
- 払込期日: 2026年7月31日
- 利払日: 毎年1月31日、7月31日
- 予備格付: AA-(R&I)/ AA-(JCR)
第42回無担保社債(固定・ブレット型)
- 年限:10年
- 償還期限(満期):2036年7月31日
- 利率(仮条件):3.050~3.650%
第43回期限前償還条項付無担保社債(10NC5)
- 年限:10年(※ただし、5年後に前倒し返済の可能性あり)
- 早期償還可能日:2031年7月31日
- 利率(仮条件)①当初5年間:2.250~2.850%
- 利率(仮条件)②6年目以降:5年後の利率決定日における「5年国債金利」+上乗せ幅(仮条件:0.300~0.900%)にリセット
三菱UFJFGの個人向け劣後債 発行要項案
ベース金利の変動と前回債(2025年7月)との条件比較
仮条件を確認するにあたって、必ず把握しておきたいのがは国内の国債金利(ベース金利)の動向です。
三菱UFJFGが前回(2025年7月)に個人向けとして発行した「第40回債」「第41回債」の実績と、今回の「第42回債」「第43回債」の仮条件について、指標となるベース金利の動きを交えて比較・解説します。
10年ブレット型(前回の第40回債vs今回の第42回債)
ベース金利(10年国債金利)の比較では、 前回債の発行条件決定時(2025年7月中旬)はおよそ 1.5%台後半で推移していたのに対し、今回の仮条件提示時(2026年7月上旬)には 2.8%台前半まで上昇しています。
なお、足元(7月中旬現在)では 2.7%台半ばで推移しています。
劣後債の利率の比較
- 前回(第40回):2.389%
- 今回(第42回):3.050~3.650%(仮条件)
指標となる10年長期金利の推移を反映し、今回の第42回債の仮条件は、その下限(3.050%)の段階で前回実績を上回る水準が提示されています。
10NC5型(前回の第41回債vs今回の第43回債)
ベース金利(5年国債金利)を比較すると、 前回債の条件決定時(2025年7月中旬)はおよそ 1.0%台前半で推移していたのに対し、今回の仮条件提示時(2026年7月上旬)には 1.9%台前半まで上昇しています。
なお、足元(7月中旬現在)では 1.9%台後半で推移しています。
劣後債の当初5年間の利率の比較
- 前回(第41回):1.796%
- 今回(第43回):2.250~2.850%(仮条件)
中期的な金利指標である5年国債金利の動向に伴い、当初5年間の固定金利水準についても前回実績から切り上がった仮条件が設定されています。
前回の確定利率である1.796%に対し、今回の仮条件の上限は2.850%となっており、足元の金利環境に対応した設計になっていることが読み取れます。
また、5年経過後に期限前償還が見送られた場合の6年目以降の利率に関しては、前回の固定上乗せ幅(+0.720%)に対して、0.300~0.900%と、上限は0.900%と引き上げられた水準が設定されています。
【深掘り】先に決まった「みずほFG債」の水準と徹底比較!
直近の個人向け劣後債市場を振り返ると、ライバルであるみずほフィナンシャルグループ(みずほFG)が7月2日に条件決定した劣後債が大きな話題となりました。
みずほFGの決定利率と、今回の三菱UFJFGの仮条件を並べて比較してみましょう。
10年ブレット型
- みずほFG(7月2日決定利率/発行額735億円):3.429%
- 三菱UFJFG(今回の仮条件):3.050~3.650%
みずほFGが条件を決定した7月初め、指標となる10年国債金利は2.7%台前半で推移していました。
その後、三菱UFJFGが仮条件を提示した7月上旬にかけて、10年長期金利は2.7%台後半へとシフト。
なお、足元では2.7%台半ばで推移しています)。
今回の三菱UFJFGの仮条件レンジ(3.050~3.650%)はみずほFG債の水準を中央近辺に据えた設定になっています。
10NC5型(当初5年)
- みずほFG(7月2日決定利率/発行額1,070億円):2.607%
- 三菱UFJFG(今回の仮条件):2.250~2.850%
5年国債金利の推移を見ると、みずほFGの条件決定時(7月初め)および三菱UFJFGの仮条件提示時(7月上旬)ともに、おおむね1.9%台前半と同水準で推移していました。
なお、足元では1.9%台後半へとシフトしています。
こちらの当初5年の仮条件も、先行したみずほFGの2.607%を中央付近に置いた水準となっています。
まとめ
日本の金利環境が上昇圧力を強めるなか、三菱UFJFGが新たな個人向け劣後債(10年ブレット型・10NC5型)の発行を計画しています。
劣後債は普通社債より高い利回りが期待できる一方、弁済順位の低さや実質破綻時免除特約(ベイルイン)といった特有のリスクを内包しており、仕組みの正確な理解が求められます。
足元のベース金利の上昇を反映し、仮条件は2025年7月の前回債実績から引き上げられた水準のレンジが提示されています。先行して条件が決定したみずほFG債の利率は、今回の三菱UFJFGの仮条件レンジの概ね中央付近に位置する設計です。
両グループとも格付けは同一であり、7月17日の条件決定における最終的な利率の着地水準や、発行規模に伴う需給バランスの行方に市場の注目が集まっています。
参考
免責事項
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フィスコなどの金融専門誌出身。10年以上にわたり日経QUICKやブルームバーグ等で機関投資家向けの債券市場記事を執筆。企業調査レポートや決算などIR情報の発信に精通し、現在は経済メディア『LIMO』編集部で記事を執筆。
