この記事はここがポイント
- SUMCOの上期決算は売上高が増加する一方で、営業利益は赤字に転落した
- 赤字の最大の要因は、過年度に実施した大型設備投資に伴う減価償却費の増加である
- 損益計算書上は赤字でも、営業キャッシュフローは黒字を維持し、フリーキャッシュフローはプラスに転換している
- 会社側は第3四半期(7-9月)単独での営業利益0億円を見込んでおり、業績の底打ちが示唆されている
- 表面的な赤字に惑わされず、キャッシュフロー計算書を確認することが投資判断において重要である
半導体材料のシリコンウエハーを手がけるSUMCO。同社の株価はTOPIX(東証株価指数)を大きく上回るパフォーマンスを見せていましたが、直近の決算発表前後から激しいボラティリティ(変動)に見舞われています。第2四半期累計決算では、売上高が前年同期比で増加したにもかかわらず、営業利益は赤字に転落しました。AIブームで半導体関連銘柄が活況を呈する中、なぜ同社は「増収赤字転落」となったのでしょうか。そして、この赤字は株価にとって何を意味するのでしょうか。この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏が株価の動きと会社からのメッセージを読み解き、プロの投資家ならではの視点で迫ります。
激しいボラティリティと「増収赤字転落」の衝撃
SUMCOの株価は、今年に入ってから市場平均であるTOPIXをアウトパフォーム(上回る推移)する状況が続いていました。しかし、7月後半に入ると株価は大きく下落し、その後は再び復調傾向を見せるなど、非常にボラティリティ(変動率)の激しい展開となっています。
こうした中、投資家の注目を集めたのが2026年12月期 第2四半期(中間期・1〜6月)の決算発表です。AI(人工知能)関連の需要拡大を背景に、半導体関連銘柄には高成長への期待が広がっていました。そうしたムードのなかでSUMCOが発表した業績は、市場に驚きを与えました。
上期決算の売上高と営業利益の推移
売上高は2,150億円(2,150.2億円)と前年同期比で4.7%の増加となり、トップライン(売上)はしっかりと伸びています。しかし、本業の儲けを示す営業利益はマイナス63億円(△63.6億円)の赤字に転落し、最終的な儲けである親会社株主に帰属する中間純利益もマイナス128億円(△128.9億円)の赤字となりました。
売上が伸びているにもかかわらず、利益が反転して赤字になってしまう「増収赤字転落」という事態に対し、一般の投資家からは疑問の声も上がりました。一体なぜ、このような現象が起きるのでしょうか。
この背景について、泉田氏は決算説明会資料の「営業利益 増減要因分析」に注目します。資料によると、売上高の増加などによってプラス要因があった一方で、営業利益の足を最も大きく引っ張ったのが「減価償却費」の増加でした。前年同期と比べて、減価償却費単独で116億円もの減益要因となっています。
営業利益 増減要因分析
製造業であるSUMCOは、事業を拡大するために巨額の設備投資を行います。泉田氏の見立てによれば、これは最先端の半導体製造に使われる300mmウエハー(直径300ミリメートルのシリコン円板)の生産能力増強などに向けた投資が背景にあると考えられます。設備投資を行う際、現金は一気に支払われますが、会計上のルールではその支出を一度に費用として計上するのではなく、設備の耐用年数に応じて数年間に分割して計上します。これが減価償却費です。
特に「定率法」という計算方法では、投資した初期の数年間に計上される費用(絶対額)が大きくなる特徴があります。つまり、今回の営業赤字は、過年度に実施した積極的な大型投資が会計上の費用として重くのしかかった結果であり、将来に向けた成長投資の「影」が損益計算書に表れたものだと言えます。なお泉田氏は、同社が設備について定率法を採用している点は有価証券報告書で確認できると動画内で述べています(今回の決算短信・決算説明会資料・半期報告書には償却方法の記載はありません)。
赤字の裏側で起きている「お金の流れ」の改善
決算書上で大きな赤字が出ているのを見ると、投資家としては「会社の現金がどんどん流出しているのではないか」と不安になるかもしれません。しかし、泉田氏はここで重要な視点を提供します。それは、損益計算書(PL)だけでなく、実際のお金の出入りを示す「キャッシュフロー計算書(CF)」を確認することです。
「よく損益計算書だけじゃなくて、キャッシュフロー計算書を見ろという典型的な例なんですけど」
泉田氏がそう指摘するように、SUMCOが提出した半期報告書のキャッシュフロー計算書を見ると、損益計算書の赤字とは全く異なる景色が広がっています。
キャッシュフローの推移と改善
まず、本業による現金の獲得を示す「営業活動によるキャッシュ・フロー」に注目します。当期の営業活動によるキャッシュフローは465億円(46,503百万円)のプラスでした。前年同期の536億円からは減少しているものの、しっかりと現金を稼ぎ出していることがわかります。損益計算書上では、税金を差し引く前の段階の損失(税金等調整前中間純損失)として121億円の赤字が計上されていますが、実際には現金の流出を伴わない減価償却費が644億円(64,420百万円)も計上されているため、これを足し戻すことで営業キャッシュフローは大きな黒字となっているのです。減価償却費は前年同期の494億円から150億円増加しており、これが利益を押し下げた主因であることがここでも確認できます。なお、先に触れた減益要因の116億円はグループの営業費用に含まれる償却費(営業内償却費)の増加分で、こちらの150億円は営業外の償却費まで含めたグループ全体の増加分です。同じ「減価償却費」でも集計範囲が異なります。
次に、設備投資などによる資金の支出を示す「投資活動によるキャッシュ・フロー」を確認します。当期の投資活動によるキャッシュフローはマイナス255億円(△25,470百万円)でした。注目すべきは前年同期の数字で、マイナス705億円(△70,589百万円)に達していました。つまり、大規模な設備投資によるキャッシュアウト(現金の流出)はすでに昨年ピークを越えており、今年は落ち着きを見せているということです。
そして、企業が自由に使えるお金を示す「フリーキャッシュフロー(営業CF+投資CF)」を計算すると、劇的な変化が見えてきます。
「フリーキャッシュフローっていうのは、この営業活動のキャッシュフローと投資活動のキャッシュフローを足したものなんですけども」
泉田氏が解説するように、前年同期のフリーキャッシュフローはマイナス169億円でしたが、当期はプラス210億円(+21,033百万円)へと大きく黒字転換しています。先行投資として設備をドーンと作ったことで、昨年はキャッシュアウトが大きく膨らみましたが、今年はそれが減価償却費として損益計算書上のマイナスとして表れているだけなのです。
プロの投資家はこの状況をどう評価するのでしょうか。泉田氏は次のように結論付けます。
「昨年も大型の設備投資をしている。結果としてそういう計算書が赤字になっているだけで、キャッシュフローのお金の回り方としては昨年よりも全然改善しているので、プロが見ると昨年よりも金回りがいいという判断にはなります」
表面的な赤字だけで慌てて判断するのではなく、お金の流れを冷静に分析することで、企業の実態が「むしろ改善している」ことに気づくことができるのです。
会社が示す回復の射程と今後の株価材料
キャッシュフローが健全であることは確認できましたが、株価が本格的に反転上昇するためには、やはり損益計算書上の業績回復の道筋が見えることが重要です。会社側は今後の見通しについてどのようなメッセージを発しているのでしょうか。
ここで注意しなければならないのは、SUMCOの業績予想の開示方針です。同社は、自社が属する半導体業界の事業環境が短期間に大きく変化するという特徴を理由に、翌四半期累計期間(次の3ヶ月分を含めた期間)のみの業績予想を開示する方針をとっています。そのため、今回の決算発表時点では、2026年12月期の「通期予想」は開示されていません。
会社が開示しているのは、第3四半期累計(2026年1月1日〜9月30日)の連結業績予想です。それによると、売上高は3,330億円(前年同期比+9.4%)、営業損失は63億円、親会社株主に帰属する四半期純利益はマイナス128億円と予想されています。
ここで、上期(1〜6月)の実績と第3四半期累計(1〜9月)の予想を見比べてみましょう。上期の営業損失は63億円でした。そして、第3四半期累計の営業損失予想も同じく63億円です。最終赤字についても、上期実績が128億円で、第3四半期累計予想も128億円と同じ数字が並んでいます。
これは何を意味しているのでしょうか。計算上、会社側は第3四半期(7-9月)単独での営業利益を「0億円」、純利益を「0億円」と見込んでいることになります。つまり、これ以上赤字額を拡大させないという意志の表れです。
泉田氏はこの数字の並びから、会社側のメッセージを次のように読み解きます。下期全体(7-12月)の見通しは開示されていませんが、少なくとも直近の第3四半期については、赤字も黒字も出ない状態に持っていく姿勢が読み取れると指摘します。泉田氏はこれを「ブレイクイーブン」と表現していますが、この語は決算説明会資料には登場しません。
では、今後の株価を動かす材料として、どのような点に注目すべきでしょうか。泉田氏は、シリコンウエハーの価格動向を挙げます。
シリコンウェーハ市場環境
決算説明会資料によれば、SUMCOの売上の基盤となるLTA(Long Term Agreement:長期契約)の価格は「守られている」と記載されています。これは価格下落のリスクが抑えられている一方で、半導体需要が急増したからといってすぐに値上げできるわけではないことも意味します。
一方で、資料には第3四半期の予想として「スポット価格の見直しの動きがある」とも記されています。長期契約以外のスポット(随時)取引において価格上昇の余地が生まれれば、それは業績の上振れ要因となります。ただし泉田氏は、この「見直しの動きがある」という表現について、まだ確定した話ではなく「マイルド」な材料にとどまるとの見方を示しています。
投資家が次回決算でチェックすべきポイント
SUMCOの決算から学べるのは、株式投資における「数字の奥を読む力」の重要性です。AIブームの中で半導体関連銘柄に注目が集まる中、「増収赤字」という表面的な結果だけを見て失望売りをしてしまうと、本質的な企業価値の改善を見落とす可能性があります。
今後の決算発表において、投資家はどのようなポイントに注目すべきでしょうか。泉田氏は2つの視点を提示します。
「キャッシュフローをベースに採算が取れているかどうかっていう話と、あとはやっぱり最終的にはやっぱり会計上の利益が出るかどうかっていうのがすごい大事なので」
まずは、今回確認したように営業キャッシュフローがしっかりと黒字を維持し、フリーキャッシュフローがプラスで推移しているかを継続してチェックすることです。そして同時に、巨額の減価償却費を吸収できるだけの売上高の成長(数量の増加やスポット価格の上昇)を実現し、損益計算書上でも営業黒字に転換する体制が整ってきているかを確認することが求められます。
「単純に赤字だからびっくりするということではなくて、そういう時はキャッシュフロー計算書を見に行って、どういう状況にあるかっていうのを確認するのが大事かなと」
決算短信の表紙にある売上高と営業利益の数字だけで判断するのではなく、一歩踏み込んでキャッシュフロー計算書を確認する。このプロセスを経ることで、企業の本当の稼ぐ力や投資サイクルの現在地を正確に把握することができます。泉田氏はこの分析手法の習得について、次のように語り、投資家としての成長を促しています。
「これが中級者への階段みたいな感じだな、株式投資の」
SUMCOの株価は激しいボラティリティを見せていますが、その裏側にあるキャッシュフローの改善と、会社が示す業績底打ちのサイン(第3四半期単独での営業利益0億円予想)をどう評価するか。次回の決算発表では、会計上の利益がどの程度回復してくるのかが、株価の方向性を決定づける最大の焦点となりそうです。
本記事は決算資料と動画内の解説をもとにした情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
参考資料
- SUMCO「2026年12月期 第2四半期(中間期)決算短信」(2026年8月6日)
- SUMCO「2026年12月期 第2四半期 決算説明会資料」(2026年8月6日)
- SUMCO「半期報告書(第28期中)」(2026年8月7日)
- YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
📎 各資料の入手先: 株式会社SUMCO IRライブラリ
※リンクは記事作成時点のものです。
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
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- 投資判断は最新の決算資料や市場動向などをご自身でご確認の上、自己責任で行ってください。
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「イズミダイズム」はモニクルグループが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命出身の元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点から経済ニュースの裏側や資産形成のトピックを論理的に解説します。
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。東京科学大学大学院非常勤講師。
