巨額の無形資産と、揺れる会計利益・安定するキャッシュ
武田の利益がなぜこれほど振れるのか。手がかりは貸借対照表にある。のれんとは企業買収の際に生じる無形の資産だが、武田の場合その残高が5兆8,090億円に達する。無形資産も3兆4,193億円あり、過去の大型買収の規模の大きさを物語る。
この巨額の無形資産が、毎期の償却費や減損として利益を削る。過去5期を並べると振れの大きさがよくわかる。営業利益は2022年3月期の4,608億円から2023年3月期には4,905億円へ伸びた。しかし2024年3月期は2,140億円へ落ち込み、2026年3月期はわずか62億円まで縮んでいる。同じ期の当期利益は1,524億円の赤字だ。会社の説明では、2026年3月期には米国での反トラスト訴訟に関する引当金4,035億円などが計上された。一度に載る費用が、単年度の利益を大きく歪める。
ROE(自己資本利益率)も、2024年3月期以降は業種の中央値である3.0%を下回る年が続く。医薬品セクターの標準的な姿からは外れている。
ここで見方を変えたい。会計上の利益が乱高下する一方で、営業キャッシュフローは2026年3月期で1兆414億円と、1兆円規模を保っている。償却費や引当金の多くは、その期に現金が出ていく費用ではない。だから会計の利益は薄く見えても、現金を生む力はそれほど毀損していない。利益の額面とキャッシュ創出力を、分けて見る必要がある局面だ。
3期連続増配を続ける還元姿勢
最終赤字に沈んだ2026年3月期も、武田は配当を減らさなかった。1株配当は2024年3月期の188円から3期連続で増え、通期予想は204円となっている。純資産に対する配当の比率であるDOEは8.3%で、医薬品業種の中央値2.9%を大きく上回る。
赤字でも配当を積み増す判断の背景には、先に見たキャッシュ創出力への自信があると読み取れる。会計上の利益ではなく、手元に残る現金を還元の物差しにしている姿勢がうかがえる。もっとも、自己資本比率は48%台と業種の中央値である約70%を下回る。大型買収で厚く抱えた有利子負債とのバランスをどう取るかは、引き続き見ておきたい論点だ。
筆者コメント
印象的なのは、武田の「ディフェンシブ」という顔と、決算の振れ幅の大きさが同居している点だ。不況に強い医薬品というイメージが先に立つが、実際の営業利益は一つの訴訟や一度の減損で桁が変わる。安定を期待して眺めると、拍子抜けするかもしれない。
見るべきは、その振れがどこから来ているかだ。多くは過去の大型買収が積み上げた無形資産の償却であり、現金の流出を伴わない会計上の費用である。だからこそ、最終赤字の期でも巨額の営業キャッシュフローが残り、増配が続く。
株価が高値圏で足踏みしているのは、この会計利益とキャッシュのギャップを、市場がまだ測りかねているためかもしれない。損益計算書の一行だけで判断せず、キャッシュフローと資産の中身を重ねて読む。武田のような銘柄では、その姿勢がとりわけ効いてくると私は考えている。
参考資料
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オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
