KOSPI暴落の裏にある「需給の爆弾」
記録的な暴落とサーキットブレーカーの頻発
サムスン電子の決算をきっかけとした株価下落は、韓国株式市場全体を巻き込む歴史的な暴落へと発展しました。韓国の代表的な株価指数である「KOSPI(韓国総合株価指数)」は、7月13日にマイナス8.95%(終値6,806.93)という大暴落を記録しました。
この日、市場のパニックを鎮めるための取引停止措置である「サーキットブレーカー」が発動されました。泉田氏によれば、韓国でのサーキットブレーカー発動は過去20年間で6回しかなかったにもかかわらず、2026年に入ってからだけでなんと7回も発動されているといいます。市場がいかに異常なボラティリティ(価格変動)に見舞われているかがわかります。
KOSPIは6月のピーク時(約9,100)から7月13日までに約25%も下落しました。なぜ、国を代表する株価指数がこれほど極端な動きをするのでしょうか。
泉田氏は、KOSPIと言っても時価総額の約半分はサムスン電子とSKハイニックス、ほぼイコールでメモリメーカーの2社によって構成されていると指摘します。韓国市場は半導体2社への依存度が極めて高く、サムスン電子とSKハイニックスの株価が急落すれば、指数全体が道連れになって暴落する構造になっているのです。実際、7月13日にはSKハイニックスの株価が1日でマイナス15.37%という過去最悪の下落を記録し、約30兆円もの時価総額が吹き飛びました。
個人投資家のレバレッジが招いた悲劇
この暴落をさらに悲惨なものにしたのが、個人投資家による過剰なレバレッジ(借金による投資)です。
韓国市場では、5月末にサムスン電子やSKハイニックスの値動きの2倍の利益を狙う「レバレッジETF」が16本も新規上場しました。このETFの保有者の92%は個人投資家であり、個人の信用取引残高は約60兆ウォン(約390億ドル)と過去最高水準に達していました。
株価が上昇し続けると信じて借金で株を買っていた個人投資家たちは、株価の急落によって証券会社から「強制ロスカット(反対売買)」を受けることになります。年初来ピークとなった6月9日には、強制決済比率が10.5%に達しました。
泉田氏はこの恐ろしい連鎖について、「売りが売りを呼ぶ状態になっていって、ないしは個人投資家だけじゃなくてヘッジファンドのようにポジションを持っている人たちもいるんで、そういう人たちにも影響が出ると」と解説します。信用買いの強制決済による巨大な売り圧力が、さらなる株価下落を引き起こす悪循環に陥ったのです。
高レバレッジが招いた投げ売り連鎖:2倍レバETF16本・保有者の92%が個人・信用取引残高約60兆ウォン。株価下落→追証→強制売却→さらなる下落のドミノ倒し
サンリオ型「機関の空売り vs 個人の信用買い」が国単位で発生
この暴落の裏で、投資家間でどのような攻防があったのでしょうか。泉田氏が提示したデータによれば、株価が下落していく過程で、個人投資家は「下落は一時的だ」と考え、借金をしてまで買いポジションを増やし続けていました。
一方で、外国人投資家(主に海外の機関投資家)は全く逆の行動をとっていました。泉田氏は、「構造としては、個人が買って、外国人、つまり機関投資家は売ってるんです」と指摘します。
インタビュワーはこれを、日本の株式市場でかつて見られた、個人投資家の信用買い残高が膨れ上がったところを機関投資家が狙い撃ちにして空売りを仕掛けた事例に似ていると例えました。泉田氏もこれに同意し、韓国では一企業ではなく、国を代表する株価指数を舞台に、個人投資家の過剰な信用買いと機関投資家の売りが激突するという、国単位での需給の歪みが発生していたと分析しています。
投資家が今回の暴落から学ぶべき教訓
株価は「事実」ではなく「期待」と「ポジション」で動く
今回のサムスン電子とKOSPIの暴落劇は、株式投資における重要な教訓を私たちに教えてくれます。
第一に、株価は「過去の事実」ではなく「未来への期待」で動くということです。どれほど歴史的な最高益を叩き出そうとも、それが事前に市場で予想され、株価に織り込まれていれば、発表と同時に株は売られます。さらに、利益が出すぎている状況は、顧客の投資意欲を削ぎ、かえって将来の業績悪化(ピークアウト)を予感させる材料にもなり得るのです。
泉田氏は、一部の企業だけが儲かりすぎるいびつな構造について、「自分とお客さんと取引先、みんながハッピーなのが商売の大原則って言ってるけど、本当にそうだなって思いますね」と語り、近江商人の「三方よし」の精神が欠如したビジネスモデルは、長期的には株式市場から警戒されることを示唆しています。
第二に、「投資家のポジション(持ち高)」が株価に与える影響の大きさです。企業の業績とは無関係に、信用取引で過剰なレバレッジをかけた投資家が多数存在すると、少しの株価下落が強制ロスカットを誘発し、大暴落を引き起こす「需給の爆弾」となります。
株式投資において、一極集中で資金を投じることや、自身の許容範囲を超えるレバレッジをかけることは極めて危険です。今回の韓国市場の事例は、適切な資金管理と分散投資がいかに重要であるかを、痛烈に物語っています。投資判断を行う際は、目先の華々しい決算数字だけでなく、その背景にある事業環境の変化や、市場に参加している他の投資家たちの動向にも目を配ることが求められます。
参考資料
- Samsung Global Newsroom「2026年第2四半期 決算ガイダンス」(2026年7月7日)
- Korea Investment & Securities 調査レポート
- KOFIA(韓国金融投資協会)統計データ
- YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
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免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
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「イズミダイズム」はモニクルグループが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命出身の元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点から経済ニュースの裏側や資産形成のトピックを論理的に解説します。
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。東京科学大学大学院非常勤講師。
