この記事はここがポイント
- S&P500とオルカンは中身の62%が米国株で重複し、値動きもほぼ同じ方向に動く現実。
- 中身の重複を知らずに両方を買う行動は、決断回避や商品単位で考える「ナイーブ分散」の実態。
- 過去30年の年平均リターンはS&P500が約10%、オルカンが約8%と差が生じたが、将来を保証するものではない点。
新NISAで個人投資家の二大人気となったS&P500と全世界株式(オルカン)。
「米国に賭けるか、世界に分散するか」という対比で語られがちですが、実はこの2本、中身の6割が重複し、値動きはほぼ連動します。それでも「両方買う」人が後を絶ちません。今回は、その理由と、本当に意味のある使い分けを整理します。
オルカンの62%は「S&P500と同じ中身」
まず、多くの人が見落としている事実から確認を始めたいと思います。オルカンが連動する「MSCI ACWI」は47カ国・約3,000銘柄で構成される「全世界株」です。指数は時価総額加重のため米国が全体の約62%を占めています。組入上位はNVIDIA、Apple、Microsoftといったメガキャップ(時価総額が巨大な銘柄)で、S&P500の上位とほぼ丸かぶりです。
結果として、両者の指数の動き方の相関は約0.96になります。つまり、日々の値動きはほぼ同じ方向に動くということです。したがって、「全世界に分散したつもり」が、実態は米国の動向に大きく左右される——この認知のズレが、すべての出発点になります。
相関係数が0.96というとほぼ一緒です。ほぼ一緒のインデックスファンドをどっちがどうのということ自体がコストという人もいます。その一人が私です。
米国の経済や株式市場に自信があればSP500ですし、米国以外の国や地域に自信があれば、オルカンでもいいでしょう。
実際、地政学的リスクー中国や中東情勢ーを踏まえて、インデックスの保有比率を変えることをしています。
最近ではSP500などよりも、日本株や新興国株式のパフォーマンスがよかったということをご存じの方も多いのではないでしょうか。
それでも両方買う——「ナイーブ分散」という投資家心理の落とし穴
では、なぜ6割重複を承知で(あるいは知らずに)両方買うのでしょうか。要因は大きく3つあります。早速見て行きましょう。
第一に「決断回避」です。どちらが正解か判断できない初心者ほど、両方を持つことで「選ばなかった後悔」を避けようとします。
第二に「商品単位で考える」ことです。多くの人は毎月の積立を"何本買うか"で発想し、ポートフォリオ全体の米国比率を合算して見る習慣がありません。
第三に情報環境です。SNSやインフルエンサーが「まずこの2本」と紹介し、販売ランキングも両者が上位を分け合うため、「みんなが買っている」という同調が働きます。
これは行動経済学でいう「ナイーブ分散」に近い行動です。ナイーブ分散とは、中身が本当に分散されているかを吟味せず、「選択肢の数だけ均等に分けておけば安心」と考えてしまう心理のことで、「1/nヒューリスティック」とも呼ばれます。
たとえば選択肢が2つあれば深く考えずに半分ずつ、3つあれば3分の1ずつ配分してしまう傾向です。S&P500とオルカンのケースでは、「2本に分けたのだから分散できている」と感じてしまいますが、実際には中身の6割が同じ米国株なので、思ったほど分散にはなっていません。数を分けること自体が目的化し、"なんとなくの併用"に陥っている——これがナイーブ分散の落とし穴です。
投資と心理学は切っても切り離せません。
余談になりますが、テクニカル分析は投資家心理の塊です。過去の株価は未来を予想するものではありませんが、投資家心理の歴史とそのレコードです。
金融商品を選ぶ際にも心理が影響している事例です。
似ているのに、30年で最終資産は2倍近く違った
とはいえ、両者は完全に同じではありません。過去30年の年平均リターンはS&P500が約10.4%、オルカンが約8.4%でした。わずか2パーセントポイントの差に見えますが、複利で効くと重くのしかかります。
同じ元本でも、年10%なら約20倍、年8%なら約11倍と、最終資産はおよそ2倍近い開きになります。こうみると、「2つ一緒に買うのはもったいない。SP500にしておこう」と思う人も多いかもしれません。
ただし、ここは冷静に見る必要があります。この差は、米国が世界を大きくアウトパフォームした「過去30年」の結果にすぎません。2000年代前半のような米国株の停滞局面では、より広く分散されたオルカンが下支えとなり、両者の優劣は入れ替わってきました。将来も米国が勝ち続ける保証はどこにもありません。
では、どのように判断すればよいのでしょうか。
S&P500とMSCI All Country World Indexのパフォーマンス
複利とは雪だるまのようなもので、転がしていくとどんどんと大きくなるイメージです。
あの有名なアインシュタインも「世紀の大発見は複利だ」といったとかいわないとか。
参考文献
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
- 本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。
- 投資判断は最新の決算資料や市場動向などをご自身でご確認の上、自己責任で行ってください。
- 株主優待の内容や条件などは変更される可能性があるため、必ず公式サイトでご確認ください。
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株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。東京科学大学大学院非常勤講師。
PROFILE
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。2013年に株式会社モニクルリサーチの前身である株式会社ナビゲータープラットフォームを共同設立。2015年にくらしとお金の経済メディア「LIMO」を立ち上げ、コンテンツ企画とメディア運営を行う。2026年1月よりYouTubeチャンネル「イズミダイズム」の運営に参画。2026年6月に専門家と実務家が発信する金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」の編集長に就任。東京科学大学大学院非常勤講師。慶應義塾大学商学部卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了。

両方買うのがムダになる人、意味がある人
単純に両方を積み立てる行為は、6割が重複するぶん分散効果が薄いといえます。実質は「米国比率を62%(オルカン)から100%(S&P500)の間のどこに置くか」の調整にすぎないからです。
だからこそ、併用は「比率を意図して設計する人」にのみ意味を持ちます。整理すると、米国の構造的な強さが続くと考え、集中リスクを取れる人はS&P500、どの国が伸びるかの判断を市場に委ねたい人はオルカンが向いています。
「両方買う=安心」ではありません。それは「米国にどれだけ賭けるか」という、一つの判断です。
米国にかけるのか、はたまた米国以外の国にも期待をするのか。その考えること自体に意味があります。