「年金は増額しているはずなのに、生活が楽になった実感が湧かない…」──ニュース報道などでは、そんな戸惑いの声を頻繁に耳にします。
金融メディアの編集者として日々公的データとにらめっこをしている筆者自身も、現役世代として実生活の厳しさを痛感。
終わりの見えない物価高や社会保険料の負担増は、もはや個人の節約努力だけで乗り切れる限界を超えつつあります。
年金だけで「逃げ切れた」親や祖父母の時代とは違い、「私たちの老後はもっとシビアになるかもしれない」と、ひとりの生活者として肌で感じる毎日です。
2026年度の公的年金額は4年連続のプラス改定となりましたが、「2025年度平均の消費者物価指数」(※1)は前年度比2.6%の上昇。
さらに同省が公表した「家計調査報告(家計収支編)2025年平均」(※2)によれば、標準的な65歳以上の無職夫婦世帯は毎月約4万2000円の赤字家計となっています。
今回は、名目上は増額でも実質的には目減りしている年金の仕組みから、シニア世帯のリアルな家計事情、そして不安を感じた現役世代が始めている「NISA」などの備えまで、皆さんのこれからの暮らしに寄り添いながら分かりやすく解説します。
※1 総務省「消費者物価指数(CPI)全国 2025年度(令和7年度)平均」(2026年4月24日公表)
※2 総務省「家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要」(2026年2月6日公表)
おさらいしておきたい年金の基本。「国民年金」と「厚生年金」の2階建て構造
公的年金は、基礎部分となる「国民年金」と、上乗せ部分にあたる「厚生年金」から成り立つ2階建て構造です。
日本の公的年金は「国民年金+厚生年金」の2階建て
公的年金額は「物価変動」と「賃金変動」に応じて毎年度改定されます。
物価や現役世代の賃金が上がれば増額、下がれば減額。ここに「マクロ経済スライド(※)」による調整が加わる仕組みです。
マクロ経済スライドとは、少子高齢化に対応し、年金を支える現役世代の減少と平均余命の伸びに合わせて、年金額の伸びを物価や賃金の上昇分よりも低く抑える(調整する)仕組みです。
【2026年度】4年連続のプラス改定!老齢基礎年金はいよいよ「月額7万円台」へ
令和8年度の年金額の例
- 国民年金(老齢基礎年金):7万608円(1人分)
- 厚生年金:23万7279円(夫婦2人分)
- 改定率:国民年金1.9%/厚生年金報酬比例部分2.0%の引き上げ
年金額改定の推移(2022〜2026年度)
- 2022年度(令和4年度):▲0.4%(引き下げ・2年連続マイナス)
- 2023年度(令和5年度):+2.2%前後(引き上げに転換)
- 2024年度(令和6年度):+2.7%
- 2025年度(令和7年度):+1.9%
- 2026年度(令和8年度):+1.9〜2.0%
2022年度は物価下落と過去のマイナス調整の反映でマイナス改定でしたが、2023年度以降は物価上昇を受けて4年連続のプラス改定に。
2026年度は、ようやく老齢基礎年金の満額が「月額7万円台」に突入した節目の年というわけです。
「年金が増えても生活が楽にならない」3つの理由。実質的な手取りは目減りしている?
年金額が増額されても、必ずしも生活が楽になるとは限りません。理由は3つあります。
①物価上昇に追いついていない
2022〜2025年度の消費者物価指数は年3%前後の上昇が続き、年金の改定率2%台をやや上回るペースとなりました。
「額面は増えたのに、実質的な購買力は目減りしている」というのが、多くの年金生活者の実感と言えるでしょう。
②天引きされる税金・社会保険料も増える
年金支給額の「額面」が上がると、所得税・住民税・介護保険料などの天引き額も連動して増えるため、手取りの伸びは額面ほど大きくありません。
③マクロ経済スライドで実質的な引き下げが継続
2026年度もマクロ経済スライド(国民年金▲0.2%、厚生年金▲0.1%)が発動されており、長期的な視点では年金水準の実質的な低下が続いています。
老後資金のリアル:標準的な65歳以上無職世帯「毎月の赤字はいくら?」
では、年金を受け取っている実際のシニア世帯の家計はどうなっているのでしょうか。
総務省の「家計調査(家計収支編)2025年平均」によると、65歳以上の無職世帯のひと月の収支は以下のようになっています。
65歳以上の夫婦のみの無職世帯の家計収支
65歳以上の夫婦のみの無職世帯の家計収支
標準的な「65歳以上の夫婦のみで構成される世帯」の場合、消費支出約26万4000円に対し、税金などを引いた可処分所得(手取り)は約22万2000円。
毎月約4万2000円の赤字となっています。
65歳以上の単身無職世帯の家計収支
65歳以上の単身無職世帯の家計収支
また、標準的な「65歳以上の単身世帯」の場合、 消費支出約14万8000円に対し、可処分所得は約11万8000円。毎月約3万円の赤字となっています。
このように、年金だけでは生活費を賄えず、毎月貯蓄を取り崩しているのが「いまどきシニア」のリアルな姿です。
40歳代・50歳代の約8割、30歳代以下でも約6割が老後資金に「不安を感じている」
こうした厳しい現実を前に、現役世代も動き始めています。
株式会社NEXERが2026年6月に実施した調査によると、40歳代・50歳代の約8割、30歳代以下の約6割が老後資金に「不安を感じる」と回答。
さらに、老後資金準備のために新たに始めたいことのトップとして、30歳代以下と50歳代では「NISA」が挙がっています。
一方で、40歳代の多くが「もっと早く備えを始めればよかった」と後悔していることも分かっており、準備の「スタートの早さ」がいかに重要かを物語っています。
まとめ|将来後悔しないために。「ねんきん定期便」の確認から始める老後への備え
ここまで、2026年度までの年金額の推移と、シニア世代の家計の現実を見てきました。
4年連続のプラス改定で額面は増えたとはいえ、物価高に追いつかず、毎月数万円の赤字を貯蓄から補填しているのが「ふつうのシニア」の姿です。
「年金だけで悠々自適」とはいかない現代だからこそ、少しでも早く現状を知り、行動することが大切です。
今は現役世代でも老後に不安を感じ、NISAなどで備えを始める方が増えています。
決して焦る必要はありません。まずはご自身の「ねんきん定期便」で将来の受給額の目安を確認し、毎月の収支を見直すことから始めてみませんか。
iDeCoや新NISAなど、ご自身のライフスタイルに合った無理のない資産形成を少しずつ組み合わせて、将来の「お金とくらし」の安心を一緒に育てていきましょう。
参考資料
早大卒。証券外務員二種・相続診断士。15年の書籍校閲で培ったファクトチェック力を武器に、一次資料に基づく「お金と暮らし」の分析記事を担当する編集記者。認知症介護経験をいかし、読者目線に立った情報発信も。
