この記事はここがポイント
- 泉田氏の見立てでは、ユニチカの株価急騰は業績の成長ではなく、「これ以上悪くならない」という下限が見えたことへの期待によるもの
- 撤退を進める繊維事業の資産は66億円まで縮小しており、仮にすべて損失になっても影響は限定的
- 株価は期待先行から「実力値の確認」のフェーズに移りつつあると考えられ、第1四半期の好調なペースが通期予想の修正につながるかが焦点
2026年8月6日、ユニチカは2027年3月期第1四半期の決算を開示しました。
元機関投資家の泉田良輔氏が示したチャートでは、同社の株価は半年で約18倍に急騰しています。「株価がこれだけ上がったのは、業績がうまくいっているからではないか」と思っていませんか。
実は、撤退を進める事業の残存資産を見ると話が違います。
株価の急騰は、足元の業績成長よりも「これ以上悪くならない」という下限が見えたことへの期待による、と泉田氏は見ています。
これは、会社の存続危機から再生にかける局面で、投資家の期待がどう動くかという問題です。
この点について、泉田氏がユニチカの株価の動きと会社からのメッセージを読み解きます。
なぜ株価は乱高下したのか?「スペシャルシチュエーション」という視点
泉田氏が示した過去1年の株価チャートでは、ユニチカの株価は市場平均であるTOPIX(東証株価指数)と比べて非常に荒い値動きをしています。泉田氏によれば、2025年末から2026年初めにかけて急騰したあと下落し、再び急上昇するという乱高下を繰り返し、半年で約18倍になりました。
ユニチカ(TSE:3103)2025年9月〜2026年9月
なぜ、これほどまでに株価が暴れるのでしょうか。泉田氏はこの背景について、「スペシャルシチュエーション」と呼ばれる投資のジャンルが関係していると指摘します。
スペシャルシチュエーションとは、企業が存続の危機に直面し、ファンドやメインバンクが介入して会社の再生を図ろうとする局面を狙う投資手法のことです。泉田氏は、株価のメカニズムを次のように説明します。
「変化する時に一番儲かるんですよ」
危機的な状況にある企業に投資するのは、一見すると無謀な逆張りのように思えるかもしれません。しかし、単なる運任せの投資とは明確な違いがあると泉田氏は言います。
「博打と違うのは、人が入ることによって、要は手を入れる領域がある」
再生計画があっても何もしなければ失敗してしまうかもしれませんが、外部から人が入り、事業再編などで「手を入れる」ことで、失敗する確率を下げることができます。再生ストーリーに説得力があれば、それだけでも株価は反応しうるということです。
株価急騰の本当の理由「下限が見えた」ことへの期待
株価が半年で約18倍にもなったと聞くと、インタビュワーが、これだけ株価が跳ねたのはうまくいっているからなのか、と疑問を投げかけるのも自然なことです。しかし、この急騰は足元の業績が絶好調だから起きたわけではないと考えられます。
ユニチカは長年、祖業である繊維事業の苦境に悩まされてきました。繊維事業の売上高は長い目で見ると右肩下がりで、足元の5〜6年は横ばい。利益が出ていた年でも利益率は1桁台前半にとどまっていました。そして2021年3月期以降は、繊維事業のセグメント利益が6期連続で赤字となり、事業としてはお金が出ていく状態だったと泉田氏は説明します。
自力での再生が困難になった同社は、2024年11月28日付で地域経済活性化支援機構(REVIC)に対して事業再生計画を提出し、支援決定を受けました。「ユニチカグループの生き残りをかけて」と会社が表明した通り、REVICや取引金融機関からの役員派遣を受け入れ、大規模な構造改革に踏み切ったのです。
具体的には、衣料繊維事業、不織布事業、そして一部を除く産業繊維事業からの撤退を決めました。では、この撤退は現在どこまで進んでいるのでしょうか。
泉田氏は、2026年3月期の有価証券報告書に記載されている「セグメント資産」(事業ごとに投じている資産の額)に注目します。これを見ると、撤退を進めている繊維事業の資産は、すでに66億円(6,602百万円)まで縮小しています。セグメント資産の合計が1,080億円(108,022百万円)であることを考えると、会社全体に対する影響度はごくわずかになっています。
「仮に全部やめて、全部損を出したとしても、あと66億しかないんですよ」
つまり、不採算事業の整理が粛々と進んだ結果、仮に残りの繊維事業から損失が出たとしても、会社の屋台骨を揺るがすような致命傷にはならない水準までリスクが限定されてきたということです。泉田氏は、この点が株式市場で評価され、株価を動かしたと見ています。
「これ以上は悪くならないだろう、むしろ次の利益の成長に目を向けるべきだろうというところの期待で、株価がどんと上がった」
業績が急回復したから買われたのではなく、「悪化の底(下限)が見えた」ことへの安心感と、残された優良事業への期待が、株価を大きく押し上げたと推測できるのです。
決算から読み解く「実力値」の確認
では、不採算事業を切り離し、残された事業に集中した結果、足元の業績はどう変化しているのでしょうか。8月6日に発表された2027年3月期第1四半期の決算短信から、その実力値を確認することができます。
第1四半期の売上高は241億円(24,108百万円)で前年同期比22.0%の減収となりました。しかし、営業利益は41億6,200万円(4,162百万円)で同46.4%増、最終利益は40億円(4,056百万円)で同211.3%増と、大幅な増益を達成しています。売上が減っているのに利益が大きく増えたのは、儲からない事業を減らし、収益性の高い事業に集中した構造改革の結果だ、と泉田氏は説明します。
2027年3月期 第1四半期 セグメント別の売上高・営業利益
セグメント別の営業利益の増減を見ると、その中身がより鮮明になります。会社が注力している「高分子事業」が前年同期比で7億円(738百万円)の増益、「機能資材事業」が6億円(617百万円)の増益となりました。撤退した繊維事業などを含む「その他」が1億円(110百万円)の減益となったものの、全体をネット(相殺)して13億円の増益を確保しています。
こうした事業構造の変化を受け、ユニチカは2026年10月1日より、株式市場における所属業種を従来の「繊維製品」から「化学」へ変更すると発表しました。テキスタイル(繊維)からケミカル(化学)へ。泉田氏は、これを同社のターンアラウンド(事業再生)の一つの見えた結果だと位置づけます。
投資判断への持ち帰り:再生局面の株価「3つのフェーズ」
このように劇的な事業再編が進む企業の株価は、今後どのように推移していくと考えられるのでしょうか。泉田氏は、こうした再生局面における株価は、大きく3つのフェーズ(段階)を経て動いていくと指摘します。
「1回はどこまでよくわかんないけど損が止まって収益改善するよっていう期待で、しばらくして落ち着いたところでこれぐらいの規模が出るんだなっていう状態で、次は成長する場合に関してはどこまで成長するんだろうという期待がもう1回復活する」
再生局面における株価の3つのフェーズ
この枠組みに当てはめると、ユニチカの株価は現在、第1のフェーズ(下限が見えたことによる期待先行の急騰)を過ぎ、第2のフェーズ(実際の収益規模の確認)へと移行しつつある段階だと考えられます。
投資家が次に注目すべき観測点は、通期業績予想の行方です。会社が発表している2027年3月期の通期営業利益予想は80億円(8,000百万円)で、第1四半期決算の時点では据え置かれています。しかし、第1四半期だけですでに41億6,200万円の営業利益を稼ぎ出しており、進捗率(通期予想のうち、すでに稼いだ割合)は約52%に達しています。
今後もこのペースが維持され、通期予想が上方修正されるかどうかが、現在の株価が実力に見合っているかを確認する試金石となります。
そして、株価が第3のフェーズ(成長への期待)に進めるかどうかは、稼ぎ出した収益の「使い道」にかかっています。稼げる形をつくったうえで、その収益をどの事業に投資して成長を描くのか。泉田氏は、そこが次に会社を評価するうえでのポイントになると指摘します。
スペシャルシチュエーション投資の考え方として、泉田氏は、最初の期待による急騰局面で売ってもよいし、全部は売らずに半分だけ売り、その後の経営陣の対応や企業の成長を見届けるという考え方もある、と紹介します。劇的な変化の渦中にある企業に投資する際は、今がどのフェーズにあるのかを冷静に見極める視点が求められます。
なお、再生局面の銘柄は期待の変化で株価が大きく上下しやすく、ユニチカ自身も急騰のあとに下落する局面がありました。本記事は特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身の責任で行ってください。
参考資料
- ユニチカ株式会社「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年8月6日)
- ユニチカ株式会社「2027年3月期 第1四半期 決算の概要」(2026年8月6日)
- ユニチカ株式会社「2025年3月期 中間期決算及び事業再生計画説明資料」(2024年12月6日)
- ユニチカ株式会社「当社株式の所属業種変更のお知らせ」(2026年9月1日)
- ユニチカ株式会社「第216期 有価証券報告書」(2025年4月1日〜2026年3月31日)
- YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
各資料の入手先: ユニチカ株式会社 IRライブラリ
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「イズミダイズム」はモニクルグループが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命出身の元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点から経済ニュースの裏側や資産形成のトピックを論理的に解説します。
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。東京科学大学大学院非常勤講師。
