MLCCの世界首位——スマホから車載・AIサーバーへ
村田製作所の主力は、MLCC(電気をためたり流したりを細かく調整する微小な電子部品)で、世界シェア首位を握ります。スマートフォン1台に数百〜千個単位で使われるほか、近年は電気自動車(EV)やデータセンターのAIサーバーといった、部品を大量に必要とする用途が伸びています。1台あたりの搭載数量が多い分野の拡大は、村田にとって追い風です。
一方で、村田は装置産業の色彩が強く、需要を取り込むための設備投資が重い負担にもなります。前期に利益が伸び悩んだのも、増収の一方で減価償却などのコストが利益を圧迫したことが一因でした。市況の谷から回復に向かう局面では、稼働率の上昇が利益を大きく押し上げますが、その立ち上がりのタイミングと勢いが、今期計画の達成を左右します。
予想PER44倍・実績PBR4.8倍をどう読むか——「実績」ではなく「回復」に払う値段
では、7,153円という株価は割高なのか。会社予想EPS160.96円をもとにすると予想PERは約44倍、前期末の1株純資産(実績BPS1,493.58円)に対する実績PBR(株価純資産倍率)は約4.8倍です。予想配当利回りは約1.0%、時価総額は約14兆円になります。予想PER44倍は、電子部品株としてはかなり高い評価です。
ここで役立つのが、PBR = ROE × PERという評価式です。
村田の実績ROEは約8.8%と決して高くありません。それでもPBRが約4.8倍まで買われているのは、裏を返せばPER(=将来の利益成長への期待)が極めて高いからです。市場は、足元の低いROEではなく、今期の大幅増益計画と、その先のMLCCサイクルの本格回復によってROEが切り上がることに、先回りして値段をつけている——それが予想PER44倍・PBR4.8倍という数字の意味です。したがって、株価が下がったからといって「割安になった」とは言い切れません。見極めるべきは、7月31日に始まる今期の決算が、市場が織り込む回復シナリオに実際の数字で応えられるかどうかです。
イズミダの視点:出荷は最高、株は急落——44倍が賭けているもの
私はかつてテクノロジーアナリストとして電子部品業界を追いかけてきましたが、村田製作所は文句なしの優良企業です。MLCC世界首位、自己資本比率85%の鉄壁の財務。ただ、以前この村田について業績の中身を分析したとき(※【2026年3月期通期決算 村田製作所、ROE8.8%——デュポン分解でわかる「利益率の低下」と「健全すぎる財務」」と「健全すぎる財務」)、私は「稼ぐ力はあるのに、資本をため込みすぎてROEが上がりにくい」という構図を指摘しました。今の株価は、まさにそのROEが「これから上がる」という一点に賭けている、と言い換えられます。
ここで一つ、通説をひっくり返しておきたいとおもいます。「MLCCの出荷が過去最高なら株も上がるはずだ」——多くの人はそう考えます。しかし現実には、出荷が好調でも株価は急落することがある。今回がまさにそれです。
株価を動かすのは足元の事実そのものではなく、その事実が“すでに株価にどれだけ織り込まれていたか”との差分だからです。半年、一年と将来の回復を先取りして買われてきた株は、期待がいったん整理されると、良いニュースの最中でも下げます。私がいつも言うように、株式投資は「なんでも鑑定団」と同じで、大事なのは値決めです。
良い会社であることと、いま買うべき値段であることは、まったく別の問題です。予想PER44倍という値付けは、今期の大幅増益計画とMLCC回復が「計画どおりに実現する」ことをほぼ前提にしています。だからこそ、7月31日の第1四半期決算が最初の答え合わせになります。回復の初速が計画に乗っているのか、それとも期待が先に走りすぎていたのか——その一点が、これからの村田株を見るうえで一番の注目ポイントです。
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株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。東京科学大学大学院非常勤講師。
