この記事はここがポイント
- 65歳以上無職夫婦の家計は月4万2434円の赤字で、貯蓄取り崩しが続く状況。
- 70歳代夫婦の貯蓄中央値は1178万円、厚生年金平均月額は15万289円の実情。
- J-FLEC調査で約3割の60・70歳代が年金のみでは生活が厳しいと回答。
定年退職後の再雇用や嘱託勤務などの継続雇用期間を完全に終え、本格的に「公的年金の受給と手元の貯蓄の取り崩しだけ」で日々の生活を営むフェーズへ移行する人が多くなる70歳代。
現役時代のような仕事のストレスや忙しさから解放され、夫婦の生活リズムがようやく穏やかに定着してくる一方で、お金の面では現役時代とは異なったストレスが生まれやすい時期でもあります。
それは、決まった額の年金が振り込まれながらも、物価高や日々の支出によって、銀行口座の残高が昔のような回復を見せることなく「一方通行で少しずつ減っていく感覚」に直面する戸惑いです。
「私たちの家の貯金額は、いまどきの70代夫婦の世間一般と比べてどれくらいの位置にあるのだろうか」「みんなは月いくらの年金で、どれくらいの生活費を使って暮らしているのか」─。親しい友人や家族同士であっても語られることが少ないからこそ、そんな不安や疑問を胸の奥に抱えている方もいるでしょう。
ここでは、70歳代・二人以上世帯の貯蓄事情(平均額と中央値)をはじめ、厚生年金・国民年金のリアルな受給額分布、65歳以上の無職夫婦世帯が直面する1カ月の生活費と家計収支、そして「なぜ多くのシニアが年金だけでは厳しいと感じるのか」を、元記者が解説していきます。
本記事は、筆者が厚生労働省や総務省など、官公庁が公表する公式資料を確認の上、執筆・検証しています。
70歳代・二人以上世帯の貯蓄額はいくらか?みんなの平均と中央値
J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」の「70歳代・二人以上世帯の金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯を含む)」をグラフを交えて確認していきます。
※金融資産保有額には、預貯金以外に株式や投資信託、生命保険なども含まれます。また、日常的な出し入れ・引落しに備えている普通預金残高は含まれません。
70歳代の貯蓄額(二人以上世帯)
「70歳代・二人以上世帯」の平均貯蓄額は2416万円ですが、この数字は一部の富裕層によって押し上げられており、実際の生活水準とは乖離している可能性があります。
より実態に近いとされる中央値は1178万円であり、多くの世帯の貯蓄額がこの水準に集中していることがうかがえます。
70歳代・二人以上世帯の中で、金融資産を保有していない「貯蓄0円」の世帯は全体の10.9%を占めています。一方で、3000万円以上の貯蓄を持つ世帯も25.2%存在しており、世帯間の資産状況には大きな差があることがわかります。
その他の分布を見ると、100万円未満が4.5%、100~200万円未満が5.1%、200~300万円未満が3.7%と、貯蓄が少ない世帯も一定数存在します。一方で、1000~1500万円未満が11.1%、1500~2000万円未満が6.7%、2000~3000万円未満が12.3%と、まとまった資産を保有する世帯も見られます。
このように、貯蓄額は退職金や収入履歴、相続、健康状態などによって大きく異なり、公的年金の受給額も現役時代の加入状況により個人差があります。貯蓄が少ない世帯にとっては、年金収入だけで生活を維持するのが難しいケースもあるでしょう。
老後の安定には、世帯の状況に応じた生活設計が欠かせません。たとえば、健康なうちはパートなどで収入を得たり、不動産や投資による副収入を検討したりと、早めの準備が安心につながります。
厚生年金と国民年金の平均月額はいくら?
厚生労働省の「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」から、厚生年金の平均年金月額を確認しましょう。
厚生年金の被保険者は第1号~第4号に区分されていますが、ここでは民間企業などに勤めていた人が受け取る「厚生年金保険(第1号)」(以下、記事内では「厚生年金」と表記)の年金月額を紹介します。
※記事内で紹介する厚生年金保険(第1号)の年金月額には国民年金の月額部分も含まれています。
厚生年金の平均受給月額
- 〈全体〉平均年金月額:15万289円
- 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
- 〈女性〉平均年金月額:11万1413円
厚生年金の全体の平均月額は15万289円です。男女別で見ると、男性は約17万円、女性は約11万円と、5万円以上の差があるのが現状です。
月額階級別の受給権者数を見ると、一番人数が多い「ボリュームゾーン」は、「10万円以上~11万円未満」の層で111万2828人です。
国民年金の平均受給月額
厚生年金の加入期間がなかった人が受け取る、国民年金(老齢基礎年金)の月額について見ていきます。
国民年金の平均受給月額について
- 〈全体〉平均年金月額:5万9310円
- 〈男性〉平均年金月額:6万1595円
- 〈女性〉平均年金月額:5万7582円
「厚生年金の男性平均月額を受け取る夫」と「国民年金の女性平均月額を受け取る妻」の夫婦世帯の場合、二人分の年金受給額は月額22万7549円となります。
元厚労省担当の専門紙の新聞記者。公的社会保障(年金・医療・介護)やNISA・iDeCoを横断分析。難解な一次データを生活者視点に翻訳し、知っておきたい家計防衛の知見と、安全で実用的な情報を提供。
野村證券株式会社出身。FP2級・証券外務員一種を保有。国内外株式、投資信託、債券、保険商品まで幅広い資産運用に精通し、現在は経済メディア『LIMO』編集長として記事も執筆。
