筆者は、ファイナンシャルプランナーとして、これまで多くのお客様の資産相談に応じてきました。その中で、「老後は年金でのんびり暮らせるだろうか」「もし認知症になったら…」といった将来への不安を耳にすることは少なくありません。
多くの方が「夫婦で月20万円以上」の年金生活をイメージされますが、現実は想像以上に厳しいかもしれません。最新の調査では、厚生年金を「月20万円以上」受け取れる人より、「月10万円未満」の人の方が多いというデータが示されています。
この記事では、年金額のリアルな格差、長寿化に伴う認知症への備え、そして家族が集まる機会にこそ話しておきたい「終活」について、具体的なデータを交えて解説します。将来の安心のために、今からできることを一緒に考えていきましょう。
厚生年金の月額「10万円未満」と「20万円以上」どちらが多い?
厚生年金(国民年金部分を含む)の受給額分布を詳細に見ていくと、驚きの事実が明らかになります。多くの方が老後の生活費の目安と考える「月20万円以上」を受け取っている人よりも、実際には「月10万円未満」しか受け取れていない人のほうが多いのです。
※本記事で扱う年金額は、会社員や公務員などが加入する「厚生年金保険(第1号)」について、基礎となる国民年金部分を含んだ月額です。
男女合計で見る、厚生年金受給額の分布状況
- 月額10万円に満たない層:19.0%(およそ5.3人に1人)
- 月額20万円以上の層:18.8%(およそ5.4人に1人)
ごくわずかな差ですが、「月10万円に満たない」層が、比較的高額な受給者の割合を上回っているのが現状です。
もし国民年金のみを受給している人たちも加えて全体を見れば、この「10万円未満」の割合はさらに大きくなることが予想されます。
厚生年金の平均受給額は月15万円台ですが、これはあくまで平均値です。実際には受給者間で大きな格差があり、個人で見ると8割以上の人が「月20万円未満」という状況です。これが、公的年金だけに頼らない自助努力の重要性が叫ばれる理由のひとつといえるでしょう。
年金生活が始まってから「想定より少ない」と困らないためにも、現役のうちからご自身の受給見込額を正確に把握しておくことが大切です。公的年金だけに依存するのではなく、iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)などを活用し、早めに「自分年金」の準備を始めることが、ゆとりある老後につながる鍵となります。
平均寿命「男性81歳・女性87歳」長寿化で高まる認知症への備え
厚生労働省が発表した『令和6年簡易生命表の概況』によれば、最新のデータで日本の平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.13歳となっています。前年と比較すると男性は横ばい、女性はわずかに短くなりましたが、長期的な視点で見れば寿命は大きく延伸しています。
平均余命の年次推移
これからの長い老後を心豊かに過ごすためには、資産形成だけでなく、公的年金制度や医療・介護のリスクについて正しく理解しておくことが欠かせません。特に、長寿社会において誰もが向き合う可能性のある課題が「認知症」への備えです。
認知症の現状:高齢者の約4人に1人に認知機能低下のサイン
65歳以上の高齢者における認知症の現状(令和4年(2022年)時点の推計値)
令和4年度(2022年度)に行われた推計では、65歳以上の高齢者3603万人を対象とした認知症の現状が以下のように報告されています。
- 認知症と診断された人:約443万人(全体の12.3%)
- 軽度認知障害(MCI)の人:約559万人(全体の15.5%)
認知症の方と、その予備群とされるMCI(軽度認知障害)の方を合わせると、その数はおよそ1002万人にのぼります。これは高齢者の約4人に1人が、認知機能に関して何らかの注意や支援を必要としている状態にあることを意味します。認知症はもはや他人事ではなく、MCIの段階でいかに早く気づき、対応するかがその後の生活の質を大きく変えるといえるでしょう。
このような社会的な背景から、近年「終活」への関心が高まっています。
60歳代・70歳代の終活は進んでいる?エンディングノートの認知度と実行率のギャップ
あなたは「エンディングノート」を書いてますか?
人生100年時代といわれる現代、長寿化と認知症リスクに備える活動として「終活」が注目されています。NPO法人ら・し・さ(終活アドバイザー協会)が公表した『第2回終活意識全国調査報告書【確定版】(2025年7月)』によれば、「終活」という言葉を知っている人は96.2%に達するものの、「エンディングノート」の作成といった具体的な行動は進んでいない実態が明らかになりました。特に年齢を重ねるほど、「まだ自分には早い」という気持ちや健康上の理由で、記入が後回しにされがちなようです。
エンディングノートに対する意識と世代別の実行率
- 認知度:60歳代以上では9割以上の人が知っている。
- 所有率:70歳代以上が24.2%で最も高い一方、50歳代以下では1桁台にとどまる。
- 実行率(所有者のうち記入している割合):20歳代では9割以上が記入しているのに対し、70歳代以上では約半数にとどまる。
年齢が上がるにつれて、記載すべき内容が複雑になったり、「まだ先のこと」という気持ちから先延ばしにしたり、あるいは体調の問題で筆が進まなくなったりすることが考えられます。ご自身の資産や医療、介護に関する希望を確実に伝えるためにも、心身ともに元気なうちから準備を始めておくことが大切です。
【調査概要】NPO法人ら・し・さ(終活アドバイザー協会)第2回終活意識全国調査報告書【確定版】(2025年7月)調査目的 :高齢社会における終活意識の実態を明らかにし、個人が豊かで安心した人生後半期を送るための支援策や啓発活動に役立てる調査対象 :20~89歳の男女調査地域 :全国調査方法 :インターネットリサーチ調査時期 :2024年12月4日(水)~12月6日(金)回答者数 :2,052名割付方法 :人口構成比割付(令和2年国勢調査の性年代別人口比率に基づく)調査委託先 :株式会社マクロミル
認知症と終活に備える資産計画のヒント
この記事では、厚生年金の受給額の実態から、長寿化によって高まるリスク、そして終活の現状について解説してきました。
「月10万円未満」という現実に直面すると、不安を感じるかもしれません。しかし、早い段階でこの事実を認識することは、将来に向けた対策を講じる絶好の機会と捉えることができます。iDeCoやNISAを活用した「自分年金」の構築や、認知症などに備えて自分の意思を書き留めておく「エンディングノート」の作成は、有効な資産防衛策のひとつです。
「まだ自分には関係ない」と先延ばしにせず、気力や体力に余裕のあるうちから、少しずつ準備を始めてみてはいかがでしょうか。家族が集まる機会に将来について話し合うことが、安心できる老後への大切な第一歩となるでしょう。
参考資料
日本生命保険相互会社出身。元マネースクール講師、現役FP(CFP®・1級FP技能士)でJ-FLEC認定アドバイザー。保険から年金、資産運用まで幅広い知見を持ち、「お金の先生」としてLIMO&ファイナンス編集部にてわかりやすく信頼できる記事をお届けします。
