この記事はここがポイント
- イオン7年債(3.087%)や地方債が8月即完売、3%台の高利率が人気要因
- 個人向け国債8月募集は変動10年1.87%、固定型も前回より利率上昇
- 債券投資には価格・金利変動リスクがあり、社債・地方債は人気集中で完売リスク
12日の東京市場では債券が売られ(利回りは上昇)、新発の5年国債利回りが一時、2000年の発行開始以来の最高水準を更新しました。
新発2年国債利回りも31年ぶりの高い水準をつけました。
新発10年国債利回りは2.8%台半ば近辺で推移しています。
このように年限の短い金利ほど上昇圧力が強まっている背景には、短中期ゾーンが金融政策に敏感に反応しやすいという事情があります。
日本銀行の早期利上げ観測が強まるなか、金利動向への注目がますます高まっており、8月に条件決定した個人向けの社債や地方債は、発売即完売、という状況になっています。
新発の社債・地方債が続々と完売に
8月上旬に条件が決定した新発債では、以下のような完売が相次いで確認されています。
イオン株式会社「第31回無担保社債(社債間限定同順位特約付)(個人向け)」
熊本県で発生した震災の被害が懸念されていましたが、予定通り年限7年、利率年3.087%(税引後年2.459%)で7日に条件しました。
発行額700億円、申込単位100万円以上100万円単位という中上級者向けの設定にもかかわらず、すぐ完売となりました。
前回債(第28回債)からは1.062%の利率アップとなっており、この上げ幅の大きさも人気の一因とみられます。
新発の地方債
8月に条件決定した地方債のうち、個人向けの募集があった共同発行市場公募地方債(10年、3.019%)、愛知県10年債(2.979%)、埼玉県5年債(サステナビリティボンド、2.182%)は早々に「完売」の表示が出ています。
そもそも地方債は、都道府県や政令指定都市などが資金調達のために発行する債券ですが、もともとは機関投資家(銀行や保険会社など大口の投資家)向けが中心の商品です。
住民参加型を除けば、発行額のうち一部が個人投資家向けに取り分けて販売しているにすぎません。
個人向けに割り当てられる額自体がもとから限られているため、金利上昇で人気が高まると、機関投資家向け以上に早く枠が埋まりやすい商品だと考えるとよいでしょう。
なぜここまで人気が集中するの?
こうした完売ラッシュの背景にあるのは、「この条件を逃すと、次にいつ同じような債券に巡り合えるか分からない」という不確実性ではないでしょうか。
「今後も金利が上がり続ける可能性が高い」という先高観があるなら、見送る動きが出てもおかしくなさそうなものですが、そう単純な問題ではないようです。
個人向け国債のように毎月決まって発行される商品と違い、社債や地方債は次回がいつ・どんな条件で発行されるか保証がありません。
金利が今後も一本調子で上昇し続けるとは限らない以上、「待てば必ず有利になる」とも言い切れないのです。
そのうえ、イオンの7年債(利率3.087%)にしても、10年物の地方債(おおむね3%近辺)にしても、「3%」という水準は過去と比べても歴史的に高く、見た目のインパクトが強い数字です。
この魅力的な利率を目の当たりにして、待つよりも今確保することを選んだ投資家が多かったのではないかと考えられます。
新発債は基本的に先着順で販売されるため、こうした心理が重なれば、条件決定後すぐに売り切れてしまいます。
個人向け国債、8月募集分の条件
- 変動10年:利率1.87%(税引前、基準金利2.83%×0.66)
- 固定5年:利率2.06%(税引前、基準金利2.11%-0.05%)
- 固定3年:利率1.71%(税引前、基準金利1.74%-0.03%)
- 前回(7月)からの変動:変動10年は+0.07%、固定5年は+0.11%、固定3年は+0.15%の上昇
- 募集期間:2026年8月6日~8月31日
- 発行日:2026年9月15日
- 最低購入額:1万円から1万円単位
- 中途換金:発行から1年経過後はいつでも可能(直前2回分の利子相当額が差し引かれる)
- 最低金利保証:年率0.05%
安全性が高いといわれる「債券投資」、死角はないのか?
株式投資に比べて安全性が高いとみなされる債券ですが、それでも「投資」である以上、リスクはゼロではありません。
注意点を1つずつ確認していきましょう。
価格変動リスク
個人向け国債の固定5年・固定3年は、発行後に市場金利がさらに上昇すると、途中売却時の価格が下落する可能性があります。
個人は機関投資家のように厳しく評価損益を管理する必要はありませんが、それでも持っている既発債の「現在の評価額」は、株式と同じように自身の証券口座で表示されます。
多くの債券の単価は「100.00円」に設定されていますが、これがたとえば評価額が下がっている場合、「時価単価」として「98.00」などと示され「時価評価損益」が確認できる証券会社もあります。
足元は金利が上昇傾向で、すなわち債券価格は下落基調にあるため、購入したばかりの債券がさっそくマイナス表示される、ということもあります。
満期まで保有すれば元本は戻ってくるため、途中で売る予定がなければこの点を過度に心配する必要はありませんが、株式の含み損のように「マイナス評価に耐える」という側面はもちろん存在します。
金利変動を取り込めるかどうかの違い
個人向け国債の場合、変動10年は基準金利に応じて半年ごとに利率が見直されるため、今後も金利上昇が続けば利率も追随して上がっていきます。一方、固定5年・固定3年は発行時点の利率で固定されるため、その後さらに金利が上がった場合は相対的に不利になる可能性がある点に注意が必要です。
信用リスク
個人向け国債は国が発行するため、社債のような発行体の経営リスクを心配する必要がない点は、社債・地方債との大きな違いです。
社債・地方債の完売リスク
先述のとおり、社債・地方債は人気が集中すると条件決定後すぐに完売してしまうことがあります。狙っている銘柄がある場合は、条件決定のタイミングをこまめに確認することが大切です。
記者コメント
金利上昇局面が続くなか、新発の社債・地方債は完売が相次ぎ、個人投資家にとって「買いたくても買えない」という状況が生まれています。
これらはもともと供給が限定的で、多くの場合が「発売即完売」という状況でしたが、金利上昇によって人気に拍車がかかっており、競争が激しくなっています。
こうしたなかで、いつでも申し込める個人向け国債は、投資先の選択肢が限られる今の環境において改めて検討する価値がある商品といえるでしょう。
もっとも、変動10年と固定5年・固定3年では金利上昇局面での有利・不利が異なるため、それぞれの商品性を理解したうえで、自身の資金計画に合った選択をすることが重要です。
参考資料
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
- 本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。
- 投資判断は最新の決算資料や市場動向などをご自身でご確認の上、自己責任で行ってください。
- 株主優待の内容や条件などは変更される可能性があるため、必ず公式サイトでご確認ください。
フィスコなどの金融専門誌出身。10年以上にわたり日経QUICKやブルームバーグ等で機関投資家向けの債券市場記事を執筆。企業調査レポートや決算などIR情報の発信に精通し、現在は経済メディア『LIMO』編集部で記事を執筆。
