この記事はここがポイント
- 8月個人向け国債は全金利上昇。変動10年1.87%、固定5年2.06%からの選択
- 金利上昇セオリーは変動10年だが、資金拘束ゆえ固定5年も人気。両者分散投資
- 9月日銀利上げ観測で金利はさらに上昇可能性。一括せず毎月少額で時期分散
2026年8月6日から、8月分の個人向け国債の募集が始まりました。
お盆休みの間に資産運用について調べてみようという方の中には、「変動10年」と「固定5年」のどちらを選ぶべきか迷っている方も多いのではないでしょうか。
積極財政路線を掲げる高市政権の経済政策運営を受けて、国の財政悪化への懸念が意識されやすくなっており、金利の上昇(価格の下落)トレンドが長期化するリスクに市場が身構えるなか、8月の個人向け国債の利率は7月と比べて全ての年限で上昇しました。
この記事では、今回発表された発行条件を整理したうえで、「変動10年」と「固定5年」のどちらが今の市場環境に合っているのかを見ていきます。
8月の個人向け国債、7月対比で利率アップ
財務省が発表した8月分(第197回変動10年・第185回固定5年・第195回固定3年)の発行条件は、以下の通りです。
変動10年(第197回債)
- 適用利率(税引前):年1.87%(基準金利2.83%×0.66)
- 税引後:1.4901095%
固定5年(第185回債)
- 適用利率(税引前):年2.06%(基準金利2.11%-0.05%)
- 税引後:1.6415110%
固定3年(第195回債)
- 適用利率(税引前):年1.71%(基準金利1.74%-0.03%)
- 税引後:1.3626135%
3年共通の発行要項
- 募集期間:2026年8月6日(木)~8月31日(月)
- 発行日:2026年9月15日
- 利払日:毎年3月15日・9月15日(年2回)
- 償還期限:変動10年は2036年9月15日、固定5年は2031年9月15日、固定3年は2029年9月15日
- 購入単価:最低1万円から1万円単位(額面100円につき100円)
- 中途換金:発行後1年経過すればいつでも可能(元本割れなし)。ただし直前2回分の利子(税引前)相当額×0.79685が差し引かれる
- 最低金利保証:年率0.05%
- 取扱金融機関:873機関
目を引くのは、7月分からの利率の上げ幅です。
7月分(変動10年第196回・固定5年第184回・固定3年第194回)の適用利率(税引前)は、変動10年が1.80%、固定5年が1.95%、固定3年が1.56%でした。
8月分と比べると、変動10年は+0.07%(7bp)、固定5年は+0.11%(11bp)、固定3年は+0.15%(15bp)と、いずれも上昇しています。
特に固定3年の上げ幅が最も大きく、短い年限ほど市場金利の上昇を敏感に反映した形です。
そもそも「変動10年」「固定5年」とは何が違うのか
個人向け国債は、満期まで一度も利率が変わらない固定金利型の「固定5年」「固定3年」と、半年ごとに実勢金利を反映して利率が見直される変動金利型の「変動10年」の3タイプに分かれます。
いずれも国が発行するため、満期まで保有すれば元本割れすることはありません。
利率の決め方(金利設定方法)は、それぞれ次のような算式になっています。
- 変動10年:基準金利×0.66(市場金利から約34%が差し引かれる)
- 固定5年:基準金利-0.05%(市場金利からの差し引きは0.05%)
- 固定3年:基準金利-0.03%(市場金利からの差し引きは0.03%)
こうして並べると、変動10年は市場金利から約34%分も差し引かれてしまうため、一見「割の合わない商品」に見えるかもしれません。
しかし、この差し引き分は「金利上昇リスク」と「(価格変動という意味での)元本割れリスク」を丸ごと消し去るための、いわば保険料のようなものだと捉えると理解しやすくなります。
市場で売買される通常の利付国債であれば、金利が上昇すれば債券価格は下落し、途中売却すれば損失を被る可能性がありますが、変動10年は半年ごとに利率そのものが実勢に合わせて改定されるため、そうした価格変動リスクを個人投資家が負わずに済む設計になっています。
その意味で、商品性としては非常によく作り込まれていると言えるでしょう。
「変動10年」と「固定5年」、どちらを選ぶのが正解か
金利に先高観がある局面では、半年ごとに利率が見直される変動利付債を選ぶのがセオリーとされています。
金利が上昇すれば、次の利払いから受取利子も増えていくためです。
ただし、実際の応募動向を見ると、必ずしもセオリー通りにはなっていません。
7月に発行された分の応募額は、変動10年が3,413億円、固定5年が5,460億円、固定3年が1,304億円で、固定5年が最も多くなりました。これは、見た目の利率が固定5年の方が高く映ること(7月分では固定5年1.95%に対し変動10年1.80%)などが一因とみられます。
とはいえ、変動10年を選びにくい理由も理解できます。
ここでいう「デュレーションリスク」とは、市場で売買する利付国債のような価格変動リスクのことではなく(個人向け国債は中途換金しても元本割れしないため)、償還までの10年間、資金を長期にわたって固定してしまうという「資金拘束の長さ」を指しています。
10年先の家計や資金需要を見通すのは簡単ではなく、その意味で5年・3年という年限の短さに安心感を覚える方が多いのは自然なことです。
判断に迷う場合は、無理にどちらか一方に決めきる必要はありません。
投資予定額を変動10年と固定5年に半分ずつ振り分け、金利上昇の恩恵と年限の分散を両取りするというのも、現実的な選択肢の一つです。
変動10年債と固定5年債の比較
今後の金利見通しと、積み立て投資という考え方
為替市場では日米の協調的な動きも意識されており、これを受けて市場では9月の日銀金融政策決定会合での追加利上げ観測も強まりつつあります。
仮に9月に利上げが行われれば、10月以降に発行される個人向け国債の基準金利、ひいては適用利率がさらに上昇する可能性も考えられます。
こうした環境では、まとまった資金を一度に投じるのではなく、つみたてNISAのように毎月少額ずつ購入していく方法も選択肢になるでしょう。
仮に目先の利率がさらに上がったとしても、購入時期を分散していれば、その時々の利率を機械的に取り込んでいくことができ、「もっと待てばよかった」という後悔を抑えやすくなります。
注意しておきたいポイント
- 中途換金の制限:発行後1年間は原則として換金できません。1年経過後はいつでも換金可能ですが、直前2回分の利子(税引前)相当額×0.79685が差し引かれる点に注意が必要です
- 固定金利の機会損失リスク:固定5年・固定3年は発行時点の利率で満期まで固定されるため、その後さらに市場金利が上昇しても、その恩恵を受けることはできません
- 変動10年の金利低下リスク:半年ごとに見直される変動10年は、将来的に金利が低下局面に転じれば受取利子も減っていきます(ただし年率0.05%の最低金利保証があります)
- 税金の扱い:受け取る利子には20.315%相当の税金が源泉徴収されます
まとめ
8月の個人向け国債は、変動10年・固定5年・固定3年のいずれも7月から利率が上昇し、金利上昇局面の恩恵を受けやすい環境になっています。
10年という長さのデュレーションリスクを取れるのであれば変動10年、それが難しければ固定5年、あるいは両者に資金を分散するという考え方が基本になるでしょう。
いずれを選ぶにせよ、ご自身の資金計画や資金拘束期間への許容度を踏まえたうえで判断することが大切です。
記者コメント
植田日銀総裁は市場との対話を重視しており、実際に利上げに踏み切る際には、事前に講演やメディアを通じてメッセージを発信してから動くケースが多く見られます。
個人向け国債の利率は日銀の金融政策の影響を強く受けるため、日々の金融政策に関する報道には目を配っておくとよいでしょう。
参考
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
- 本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。
- 投資判断は最新の決算資料や市場動向などをご自身でご確認の上、自己責任で行ってください。
- 株主優待の内容や条件などは変更される可能性があるため、必ず公式サイトでご確認ください。
フィスコなどの金融専門誌出身。10年以上にわたり日経QUICKやブルームバーグ等で機関投資家向けの債券市場記事を執筆。企業調査レポートや決算などIR情報の発信に精通し、現在は経済メディア『LIMO』編集部で記事を執筆。
