この記事はここがポイント
- 年収1,000万円・勤続38年の公的年金は、月額約24.1万円との試算結果。
- 年金受給者の約96.3%が月額24万円未満で、高額受給は稀な実情。
- 年金は額面でなく、税・社保天引きで手取りが10〜15%減少する事実。
「年収1000万円で長年働いた場合、老後はいくら年金を受け取れるのだろう」と気になったことはありませんか。
私自身、銀行で株式や投資信託、生命保険などを通じて多くのお客さまの資産形成をサポートしてきた中で、老後資金に関する相談を数多く受けてきました。その際に感じたのは、年金制度を正しく理解し、自分が将来どのくらい受け取れるのかを把握している方は決して多くないということです。
公的年金の受給額は、年収だけで決まるわけではありません。加入している年金制度や厚生年金の加入期間などによって大きく変わるため、高年収だからといって必ずしも十分な年金を受け取れるとは限りません。また、実際に受け取る際には税金や社会保険料が差し引かれるため、額面と手取りには差が生じます。
この記事では、日本の公的年金制度の基本的な仕組みを整理したうえで、「平均年収1000万円・勤続38年(456カ月)」の会社員をモデルに、将来の年金受給額をシミュレーションします。あわせて、実際の受給額の分布や、年金から差し引かれる税金・社会保険料についても確認し、老後資金の実態を見ていきましょう。
老後に支給される公的年金の区分とは?「国民年金」と「厚生年金」の2階建て構造を解説
たとえ生涯の平均年収が1,000万円という極めて高い水準であっても、38年(456ヶ月)におよぶ就労期間において厚生年金の加入対象であったかどうかで、老後に手にする年金総額には非常に大きな開きが生じます。
そこで、具体的な試算を確認する前に、まずは日本の公的年金制度がどのような仕組みで成り立っているのかをおさらいしておきましょう。
我が国の公的年金は、一般的に「2階建て」と表現される構造で運用されています。
その基盤となる1階部分が日本国民すべてに共通する「国民年金(基礎年金)」であり、その上に会社員などが上乗せして加入する2階部分の「厚生年金」が積み上がる形になっています。
日本の公的年金制度
- 第1号被保険者:フリーランスや自営業者、学生、未就業の方など
- 第2号被保険者:民間企業の会社員、公務員など
- 第3号被保険者:第2号被保険者に扶養されている専業主婦(主夫)など
1階部分の国民年金は、日本国内に住所を持つ20歳以上60歳未満のすべての人が加入を義務付けられている共通の制度です。
納めるべき保険料が全員一律で定額に設定されているため、将来受け取る基礎年金の金額についても個人ごとの格差が生じにくい仕組みとなっています。
一方の厚生年金は、基礎年金にプラスして支給される2階部分の制度であり、主に企業に雇用されている会社員や官公庁に勤める公務員などが加入対象となります。
こちらは現役時代の給与や賞与の額に応じて保険料が算出されるため、将来の年金受給額に大きな個人差が生まれやすい点が特徴です。
それでは次章にて、国民年金と厚生年金の両方を受給できるケースを想定し、「平均年収1,000万円」「勤続38年(456ヶ月)」という条件のもと、老後に毎月いくら年金がもらえるのか具体的な試算結果を見ていきましょう。
【シミュレーション】平均年収1,000万円で38年間会社員を続けた場合の年金見込み額
本章では、生涯の平均年収を1,000万円とし、民間企業で38年(456ヶ月)にわたって勤務したケースを想定して、以下の計算前提のもと老後に受け取れる年金額の目安を算出します。
- 2003年4月以降、厚生年金に38年間加入している
- 国民年金は20歳から60歳までの40年間のうち、学生納付特例(追納なし)などにより実質納付期間が38年と仮定する
現役時の収入規模に応じた「厚生年金」の受給金額
老後の上乗せ年金にあたる厚生年金の支給額は、国が定める所定の計算手順に基づいて決定されます。
年金額=報酬比例部分+経過的加算+加給年金額
※「経過的加算」とは定額部分と老齢基礎年金の差額を補填するための給付であり、「加給年金」は所定の要件を満たす配偶者や子どもがいる場合に上乗せされる家族手当のような制度です(いずれも特定の条件を満たす必要があります)。
今回の試算値においては、支給金額の大部分を構成する「報酬比例部分」の計算にフォーカスし、経過的加算や加給年金額といった各種の上乗せ要素は加算せずに算出を行っています。
厚生年金の報酬比例部分は、加入した時期に応じた以下の算式を用いて弾き出されます。
報酬比例部分の計算式
報酬比例部分=A+B
- A(2003年3月までの加入期間):平均標準報酬月額×7.125/1000×2003年3月までの加入期間の月数
- B(2003年4月以降の加入期間):平均標準報酬額×5.481/1000×2003年4月以降の加入期間の月数
「平均標準報酬月額」とは、平成15年3月以前の加入実績を対象に、各月の標準報酬月額の総額を加入月数で割って求めた平均値です。
これに対して「平均標準報酬額」は、平成15年4月以降の期間に適用されるもので、毎月の標準報酬月額だけでなく、支払われた賞与(ボーナス)も含めて算定期間の月数で割って平均を出したものになります。
たとえば、2003年4月以降に38年(456ヶ月)にわたって厚生年金を納め続け、現役時代の平均年収が1,000万円だった場合、年間のボーナスを含めた総報酬の12分の1である約83万3000円が平均標準報酬額の目安となります。
この想定を用いて報酬比例部分を簡易的にシミュレーションすると、厚生年金から支給される額は月額:約174,000円という水準になります。
老後生活の土台となる「国民年金(老齢基礎年金)」の支給目安
会社員として厚生年金が適用されていた労働者は、制度上「第2号被保険者」に該当するため、リタイア後は国民年金(基礎年金)にプラスして厚生年金を受け取ることができます。
ここでは、老後所得の基礎となる1階部分(国民年金)の受給金額について確認していきましょう。
基礎年金の具体的な受給額は、国が公表している以下の数式に則って算出されます。
国民年金の受給額の計算式
84万7300円に対し、「保険料を納めた月数 ÷ 加入可能年数(12か月換算)」を乗じて算出します(※昭和31年4月2日以後生まれの方が計算の対象です)。
今回のモデルケースのように、保険料を実際に納めた期間が通算38年間(456か月)であると仮定した場合、国民年金としての受給額は月額:約67,000円という結果になります。
これらのシミュレーション結果を合算すると、「平均年収1,000万円」の条件で「38年間」会社員を務め上げた場合、老後に手にする国民年金と厚生年金の合計月額(額面):約241,000円(約24.1万円)となることが分かります。
高齢者世帯の実態は?現在のシニアが実際に受け取っている年金月額の分布データ
前章においては、「平均年収1,000万円・勤続38年」という非常に恵まれたモデルにおける将来の年金支給額の目安を算出しました。
それでは、現在の高齢者の方々は、実際に国からどれくらいの年金を受け取っているのでしょうか。リアルな統計データを見てみましょう。
政府がまとめた「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」(厚生労働省年金局)のデータによると、基礎年金を含む厚生年金保険の受給権者における支給額別の分布は以下の通りとなっています。
国民年金を含む厚生年金の受給者数
- 10万円未満の割合:19.0%
- 10万円以上の割合:81.0%
- 15万円以上の割合:49.8%
- 20万円以上の割合:18.8%
- 20万円未満の割合:81.2%
- 30万円以上の割合:0.12%
2階建ての公的年金をどちらも受給している層のうち、毎月15万円以上を支給されている人の割合は、全体の約49.8%とおよそ半分を占めています。
一方で、今回のシミュレーションモデルである「平均年収1,000万円・38年勤務」の受給目安に近い、月額24万円未満の受給者に注目すると、全体の約96.3%を占めていることが分かります。
このデータから分かる通り、月24.1万円を超えるような高い水準の年金を受け取れている人は、受給者全体を見渡しても上位数%に満たない極めて希少な存在であるのが実情です。
ただし忘れてはならないのは、これらの統計データにある金額はすべて「額面」の数字であり、実際の手取り収入はここから税金や社会保険料が差し引かれた状態になるという事実です。
支給される年金からも引かれる!税金や社会保険料による天引きの現実
先ほど「平均年収1,000万円で38年間勤務した場合」をベースに将来の年金支給額を計算しましたが、あの金額が口座にそのまま振り込まれるわけではありません。
在職中の毎月の給料と同じように、公的年金からも所定の税金や社会保険料が自動的に天引きされるため、手元に残る実質的な手取り額は目減りすることになります。
毎月の年金から差し引かれる主な控除項目には、以下のような項目が存在します。
- 所得税
- 住民税
- 健康保険料(国民健康保険料、または後期高齢者医療保険料)
- 介護保険料
ここからは公的な統計資料として、総務省の「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」に掲載されている、65歳以上の単身無職世帯の平均的な家計データを確認してみましょう。
65歳以上の単身無職世帯における収支状況
- 実収入(額面の金額):13万1456円
- 可処分所得(手取り収入):11万8465円
- 消費支出:14万8445円
- 非消費支出(税金・社会保険料):1万2990円
このデータが示す通り、年金などによる額面の収入(実収入)が13万1456円あったとしても、そこから税金や保険料として1万2990円が引かれるため、実際に使えるお金は11万8465円まで減少します。
天引きされる具体的な金額はお住まいの自治体や年金収入の多さ、本人の所得状況によって上下しますが、一般的な目安として額面の10%〜15%程度が差し引かれるケースが多く見られます。
まとめ:老後の安心に向けて年金の仕組みと実質的な手取り額を正しく把握しよう
今回の記事では、日本の公的年金制度が持つ基本的な仕組みを踏まえた上で、「平均年収1,000万円・38年間勤務」という高所得・長期勤務のモデルケースにおける将来の受給見込み額について詳しく見てきました。
この前提条件でシミュレーションを行った結果、基礎年金と厚生年金を合算した年金月額は約241,000円(約24.1万円)になることが分かりました。
しかしながら、実際のシニア世代の給付分布を確認すると、月額24万円未満の受給者が全体の約96.3%を占めているなど、誰もがこの金額を手にできるわけではなく、現役時代の働き方によって受給額には非常に大きな開きが出るのが現実です。
加えて、老後の年金は額面そのままの金額を受け取れるわけではなく、税金や社会保険料の天引きによって実際の手取り額は10%〜15%ほど少なくなってしまう事実を見落としてはなりません。
豊かなシニアライフの生活設計を立てるためには、単に額面の試算額を見るだけでなく、公的制度の仕組みや手元に残る最終的な手取り額までを見越して、若いうちから能動的に資産形成を計画していくことが肝要です。
筆者からのアドバイス:高所得者層が陥りやすい「生活水準のギャップ」に注意して
現役時代の年収が1,000万円程度だったとしても、モデルケースでは年金の手取り額は月20万円台前半にとどまります。特に意識しておきたいのは、現役時代と老後では収入が大きく変わる可能性があるという点です。
高所得だった人ほど、住居費や車の維持費、保険料、日々の生活費などが高めになっているケースも少なくありません。
そのため、収入が減る老後も同じような支出を続けてしまうと、家計の負担が大きくなるおそれがあります。
老後の生活を安心して送るためには、年金は「額面」ではなく実際に受け取る「手取り額」で考えることが大切です。また、定年前から固定費を見直したり、生活スタイルを少しずつ調整したりしておくことで、老後の家計への負担を抑えやすくなります。
参考資料
三菱UFJ銀行出身。資産運用コンサルティングに従事し、全国表彰を多数受賞。現在は「LIMO」編集部で金融ライターとして年金・資産運用など金融分野の記事を精力的に企画・執筆・監修している。
