この記事はここがポイント
- 65歳以上夫婦無職世帯は月平均4万2434円の赤字で、計画的な貯蓄取り崩しが重要。
- 70歳代貯蓄中央値は1178万円、貯蓄ゼロ世帯も10.9%存在。
- 厚生年金は月10万~11万円、国民年金は月6万~7万円が最多受給額。
6月5日に総務省が公表した「家計調査報告(二人以上の世帯)2026年(令和8年)4月分」によると、二人以上の世帯の1世帯当たりの消費支出は32万8969円となり、物価変動の影響を除いた実質では前年同月比0.5%の減少となりました。
一方で、食料品をはじめとする身近な商品の値上がりは続いており、リタイア後の生活費に不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
私も、元銀行員として勤務していたころ、「物価は上がるのに年金はなかなか増えない」「このままでは老後資金が足りなくなるのでは」といった声を、多くのお客さまから伺ってきました。インフレによって、お金の価値や老後資金への不安を感じている方は少なくありませんでした。
こうした漠然とした不安を和らげ、将来に向けた選択肢を広げるためには、まず客観的なデータを知っていただくことが重要だという想いから、本記事を執筆いたしました。
この記事では、70代の貯蓄額の中央値や、国民年金・厚生年金の受給額の分布、さらに65歳以上の無職夫婦世帯が毎月どの程度の収支になっているのかを、最新データをもとに分かりやすく解説します。
70歳代・二人以上世帯の貯蓄事情:平均額と中央値から見る実態
J-FLEC(金融経済教育推進機構)の「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」をもとに、70歳代・二人以上世帯の金融資産の保有状況を見ていきましょう。
※金融資産保有額には、預貯金以外に株式や投資信託、生命保険なども含まれます。また、日常的な出し入れ・引落しに備えている普通預金残高は含まれません。
70歳代の貯蓄額(二人以上世帯)
「70歳代・二人以上世帯」の平均貯蓄額は2416万円でした。ただし、この数字は一部の富裕層によって押し上げられる傾向があります。そのため、より実情に近いとされる中央値を見ると1178万円となっています。
世帯ごとの貯蓄額分布は、次のようになっています。
- 金融資産非保有:10.9%
- 100万円未満:4.5%
- 100~200万円未満:5.1%
- 200~300万円未満:3.7%
- 300~400万円未満:3.9%
- 400~500万円未満:2.9%
- 500~700万円未満:6.4%
- 700~1000万円未満:6.7%
- 1000~1500万円未満:11.1%
- 1500~2000万円未満:6.7%
- 2000~3000万円未満:12.3%
- 3000万円以上:25.2%
- 無回答:0.6%
貯蓄がまったくない「貯蓄ゼロ」の世帯が10.9%ある一方で、3000万円以上の貯蓄を持つ世帯は25.2%と、全体の約4分の1を占めています。
そのほか、100万円未満が4.5%、100~200万円未満が5.1%、200~300万円未満が3.7%と、貯蓄が少ない世帯も一定数見られます。一方で、1000~1500万円未満が11.1%、1500~2000万円未満が6.7%、2000~3000万円未満が12.3%と、一定の貯蓄を確保している世帯も存在します。
こうした差は、退職金の額やこれまでの収入、相続の有無、健康状態などによって生まれます。年金についても、現役時代の働き方や加入状況によって個人差があります。
貯蓄が少ない世帯にとっては、年金収入だけで生活を維持するのが難しくなるケースも考えられます。
老後に向けては早い段階から生活費の見通しを立て、無理のない範囲で備えを進めることが大切です。
厚生年金の受給額はいくら?平均月額と受給者層の実態
厚生労働省の「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」から、厚生年金の平均年金月額を確認しましょう。
厚生年金の被保険者は第1号~第4号に区分されていますが、ここでは民間企業などに勤めていた人が受け取る「厚生年金保険(第1号)」(以下、記事内では「厚生年金」と表記)の年金月額を紹介します。
※記事内で紹介する厚生年金保険(第1号)の年金月額には国民年金の月額部分も含まれています。
厚生年金の平均受給月額:全体・男女別の比較
- 〈全体〉平均年金月額:15万289円
- 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
- 〈女性〉平均年金月額:11万1413円
受給額の分布状況:月額階級別の厚生年金受給者数
- ~1万円:4万3399人
- 1万円以上~2万円未満:1万4137人
- 2万円以上~3万円未満:3万5397人
- 3万円以上~4万円未満:6万8210人
- 4万円以上~5万円未満:7万6692人
- 5万円以上~6万円未満:10万8447人
- 6万円以上~7万円未満:31万5106人
- 7万円以上~8万円未満:57万8950人
- 8万円以上~9万円未満:80万2179人
- 9万円以上~10万円未満:101万1457人
- 10万円以上~11万円未満:111万2828人
- 11万円以上~12万円未満:107万1485人
- 12万円以上~13万円未満:97万9155人
- 13万円以上~14万円未満:92万3506人
- 14万円以上~15万円未満:92万9264人
- 15万円以上~16万円未満:96万5035人
- 16万円以上~17万円未満:100万1322人
- 17万円以上~18万円未満:103万1951人
- 18万円以上~19万円未満:102万6888人
- 19万円以上~20万円未満:96万2615人
- 20万円以上~21万円未満:85万3591人
- 21万円以上~22万円未満:70万4633人
- 22万円以上~23万円未満:52万3958人
- 23万円以上~24万円未満:35万4人
- 24万円以上~25万円未満:23万211人
- 25万円以上~26万円未満:15万796人
- 26万円以上~27万円未満:9万4667人
- 27万円以上~28万円未満:5万5083人
- 28万円以上~29万円未満:3万289人
- 29万円以上~30万円未満:1万5158人
- 30万円以上~:1万9283人
月額階級別の受給権者数を見ると、10万円以上~11万円未満の層が111万2828人と最も多くなっています。
国民年金の受給額はいくら?男女差と最多受給層を解説
厚生年金の加入期間がなかった人が受け取る、国民年金(老齢基礎年金)の月額について見ていきます。
国民年金の平均受給月額:全体・男女別の比較
- 〈全体〉平均年金月額:5万9310円
- 〈男性〉平均年金月額:6万1595円
- 〈女性〉平均年金月額:5万7582円
平均年金月額には、男性と女性で約4000円の差が見られます。加入期間や保険料の納付状況の違いが、このような差につながっていると考えられます。
受給額の分布状況:月額階級別の国民年金受給者数
- 1万円未満:5万1828人
- 1万円以上~2万円未満:21万3583人
- 2万円以上~3万円未満:68万4559人
- 3万円以上~4万円未満:206万1539人
- 4万円以上~5万円未満:388万83人
- 5万円以上~6万円未満:641万228人
- 6万円以上~7万円未満:1715万5059人
- 7万円以上~:299万7738人
国民年金の受給額は、6万円以上7万円未満の層が最も多く、満額に近い水準で受け取っている人が多いことがわかります。一方で、5万円未満の層も一定数おり、加入期間や保険料の納付状況によって受給額に幅がある点が特徴です。
国民年金は一律の金額ではなく、個々の加入履歴によって受け取る額が異なる仕組みとなっています。
65歳以上・夫婦のみ無職世帯のリアルな家計簿:1カ月の生活費は?
老後の生活費はどれくらいかかるのでしょうか。
総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」より、65歳以上・無職夫婦のみ世帯の平均的な家計収支を見てみます。
65歳以上の生活費
収入の内訳:平均月収25万4395円
うち社会保障給付(主に年金):22万8614円
手取り収入(可処分所得):平均月額22万1544円
(収入)25万4395円ー(非消費支出)3万2850円=22万1544円
非消費支出:3万2850円
- 直接税:1万2547円
- 社会保険料:2万296円
支出の内訳:平均月額26万3979円
- 食料:7万8964円
- 住居:1万7739円
- 光熱・水道:2万3540円
- 家具・家事用品:1万1237円
- 被服及び履物:5354円
- 保健医療:1万7941円
- 交通・通信:3万1325円
- 教育:0円
- 教養娯楽:2万6538円
- その他の消費支出:5万1341円
- うち諸雑費:2万2047円
- うち交際費:2万3257円
- うち仕送り金:1135円
毎月の家計収支:赤字額の平均
- ひと月の赤字:4万2434円
※端数処理
毎月の収入(実収入)は25万4395円です。しかし、ここから税金や社会保険料などの「非消費支出(3万2850円)」が差し引かれるため、実際に生活費に回せるお金である「可処分所得(手取り額)」は22万1544円となります。
一方、毎月の消費支出は26万3979円。 手取り額(22万1544円)からこの支出を差し引くと、毎月4万2434円の赤字となります。
この不足分を、現役時代に蓄えた貯蓄を取り崩して補っているのが現代のシニア世代の実情でしょう。
なお、この調査結果で住居費が1万7739円と極めて低いのは、多くの世帯が「持ち家」であり、家賃負担がないことを前提としているためです。
賃貸住まいの方や住宅ローンが残っている方の場合は、この住居費分がそのまま赤字額に上乗せされます。
老後の住まいをどうするかは、現役時代から十分に検討しておく必要があります。
銀行の窓口では、数千万円の預金があるにもかかわらず、「毎月少しずつ残高が減るのを見ると不安で、エアコンをつけるのもためらってしまう」と話されるシニアの方にお会いすることが少なくありません。記事でも紹介したように、毎月の収支ばかりを気にしてしまい、不安を抱える方は意外と多い印象です。
現役時代の預金は将来に備えて「貯める」ことが中心でしたが、リタイア後は、安心して暮らすために「計画的に使う」ことも大切な役割になります。毎月4万円ほどの赤字であっても、十分な貯蓄を計画的に取り崩して生活するのであれば、必ずしも特別なことではありません。
大切なのは、毎月の収支だけで判断するのではなく、預貯金などの資産も含めて家計全体を見ることです。ご自身の資産状況を確認しながら、無理のないペースで取り崩していくことが、安心して老後を過ごすための一つの考え方といえるでしょう。
「年金だけでは日常生活費をまかなうのが難しい」と感じるシニアも
J-FLEC(金融経済教育推進機構)が2025年12月に公表した「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」によると、二人以上世帯では、60歳代の32.6%、70歳代の30.6%が「日常生活費程度もまかなうのが難しい」と回答しています。
年金にゆとりを感じにくい背景とは
「年金にゆとりがない」と感じる理由とは?
年金にゆとりがないと感じる理由としては、物価の上昇に加え、医療費や介護費の負担が増えていることなどが挙げられます。
また、完全にリタイアすると、多くの場合は現役時代より収入が少なくなります。そのため、生活費への負担を感じやすくなる方も少なくありません。
さらに、現役時代は毎月給与が支給されますが、公的年金は原則として偶数月に2か月分まとめて支給されます。収入が入るタイミングが変わるため、老後は年金の支給サイクルに合わせて家計を管理することも大切です。
毎月の生活費を把握し、無理のない範囲で支出をコントロールしていくことで、より安心して年金生活を送りやすくなるでしょう。
まとめ
本記事のデータが示す通り、65歳以上の無職世帯において、毎月の家計が赤字になることはごく一般的な実態です。
毎月の収支(フロー)の赤字に怯えて生活を切り詰めてしまうこともあるかもしれませんが、それはかえって健康リスクを高めてしまいます。
特に昨今の猛暑下では、過度な節電は熱中症等の引き金になりかねません。
大切なのは、世間の『苦しい』という漠然とした不安に同調することではありません。ご自身の保有する貯蓄額を正確に把握し、そこから『毎月いくらまでなら安全に取り崩せるのか』という現実的な計画を立てることです。
赤字を前提とした計画的な資金管理こそが、これからの長い老後を心豊かに過ごすためのポイントとなります。
参考資料
三菱UFJ銀行出身。資産運用コンサルティングに従事し、全国表彰を多数受賞。現在は「LIMO」編集部で金融ライターとして年金・資産運用など金融分野の記事を精力的に企画・執筆・監修している。
元厚労省担当の専門紙の新聞記者。公的社会保障(年金・医療・介護)やNISA・iDeCoを横断分析。難解な一次データを生活者視点に翻訳し、知っておきたい家計防衛の知見と、安全で実用的な情報を提供。

【記者の視点】「生活が苦しい」に繋がる、フロー(毎月の収支)の呪縛
実は、貯蓄の中央値である1000万円以上の十分な貯蓄(ストック)を持っている世帯であっても、「生活が苦しい」と感じる傾向が強く見られます。その原因は、現役時代に染み付いた「毎月の収入(年金)の枠内で支出を収めなければならない」という固定観念にあります。
口座の残高が毎月少しずつ目減りしていく「フローの赤字」を過剰に恐れるあまり、電気代や食費を無理に切り詰め、結果として自ら「苦しい生活」を作り出してしまっているケースもありえます。
年金生活において、毎月数万円の赤字が出るのは統計データが示す通りの「標準仕様」です。老後のまとまった貯蓄は、まさにこの赤字を補填するために現役時代から準備してきたものです。
フローの赤字を過度に恐れる呪縛から抜け出し、「計画的に貯蓄を取り崩すこと」を自分に許可できるかどうかが、老後の幸福度を決定づける鍵となるでしょう。