この記事はここがポイント
- 丸紅の電力・インフラは収益6%ながら、2026年3月期利益536億円で利益柱。
- 2026年3月期、営業利益▲5.7%の2,566億円も当期利益は過去最高5,438億円。
- 丸紅株価は3割超上昇後2割近く下落、2026年3月期ROE13.6%は5期連続低下傾向。
総合商社と聞いて思い浮かぶのは、世界中でモノを右から左へ動かす商いだろう。私も長いあいだ、丸紅<8002>をそういう会社として眺めてきた。だが同社の決算をセグメントごとに並べ直すと、その像は半分しか当たっていない。売上では6番目にすぎない事業が、利益では4番目に座っている。 ※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
売上では6番目、利益では4番目に座る事業
2026年3月期の丸紅を、まず収益で並べてみる。最大は食料・アグリの3兆7,205億円で、これだけで全体の45%を占める。次いでエネルギー・化学品1兆3,658億円、金属9,189億円と続く。
電力・インフラサービスの収益は4,853億円。全体に対する比率は5.9%で、報告されている10区分のうち6番目にとどまる。この並びだけを見れば、確かに脇役だ。
ところが同じ10区分をセグメント利益で並べ直すと、順番が変わる。首位は金融・リース・不動産の1,620億円、次いで金属1,342億円、食料・アグリ814億円と来て、4番目に電力・インフラサービスの536億円が入る。
収益で全体の45%を占める食料・アグリの利益が814億円。収益で6%に満たない電力・インフラサービスが536億円。この二つを並べると、売上規模で会社を語ることの危うさが見えてくる。
食料・アグリが収益の45%を握りながら利益では3番目にとどまる、という言い方もできる。総合商社の事業ポートフォリオは、収益の列と利益の列で顔がまるで違う。どちらを正面に置くかで、その会社の印象は入れ替わってしまう。
取引の幅ではなく、持っている資産が稼いでいる
なぜこうなるのか。手がかりは利益率にある。
電力・インフラサービスの売上総利益は770億円で、収益に対する比率は15.9%。丸紅全体の売上総利益率14.3%を上回る。収益の柱である食料・アグリは12.6%だから、率で見れば電力のほうが厚い。
さらに目を引くのは、売上総利益から先の落ち方の小ささだ。電力・インフラサービスは売上総利益770億円に対してセグメント利益536億円。7割近くが残っている。
商品を仕入れて売る商いであれば、ここまで残らないのが普通だろう。販売費や人件費が段階的に削っていくからだ。残り方がこれだけ大きいということは、この事業の利益が取引の積み上げ以外の源、たとえば持分法で取り込む投資先の利益や配当に相応に支えられている可能性が高い。
対照的なのが航空・モビリティである。収益6,912億円に対し売上総利益1,589億円で、売上総利益率は23.0%と社内で高い部類に入る。だがセグメント利益は478億円で、売上総利益の3割ほどまで落ちる。同じ高マージンでも、費用の構え方はまるで違う。
同じ構図をさらに極端にしたのが金融・リース・不動産だ。収益245億円に対しセグメント利益1,620億円という並びになっている。収益と利益がまったく比例しない事業が、丸紅の中には確かに存在する。
発電事業は、設備を保有して長期にわたり電力を売る商売である。日々の取引で利ざやを積み上げる商いとは、収益の出方がそもそも違う。売上高という物差しがこの事業を小さく見せてしまうのは、物差しのほうが合っていないためだ。
資産を持って稼ぐ会社であれば、その重さは貸借対照表に表れる。丸紅の総資産は2026年3月期末で10兆5,317億円と、前期末の9兆2,019億円から1兆3,000億円ほど増えた。株主資本も3兆6,292億円から4兆3,637億円へ積み上がっている。
収益の伸びが+6.1%にとどまるなかで、資産は14%増えている。この会社がいま伸ばしているのは取引の回転数ではなく、抱えている資産のほうだ。
裏づけになる動きもある。電力・インフラサービスの収益は前期比▲6.6%と減った。それでも利益の並びでは4番目の位置を保っている。売上の増減と利益の位置づけが連動しない。取引量で説明できる事業の姿ではないだろう。
総合商社はトレーディングの会社だというイメージが先に立つ。だがセグメント開示を利益の順に並べ替えると、丸紅の稼ぎの少なくない部分は、モノを動かすことではなく資産を保有することから生まれていると読める。
2026年3月期は当期利益5,438億円で過去最高、営業利益は▲5.7%
この構造は連結の数字にも表れている。
2026年3月期の収益は8兆2,658億円で+6.1%、売上総利益は1兆1,826億円だった。一方で営業利益は2,566億円、▲5.7%と減っている。
それにもかかわらず当期利益は5,438億円、+8.1%で過去最高を更新した。営業利益が減って最終利益が最高益になるという組み合わせは、営業利益の外側で稼ぐ会社の姿をそのまま映している。
営業利益が減った理由について、会社は2026年3月期3Q累計の時点で説明を残している。エネルギー・化学品は石油化学品取引で128億円の減益、金属は商品価格の下落に伴う豪州原料炭事業で112億円の減益。一方、次世代事業開発は医薬品販売事業と電子部品関連事業の取得により139億円の増益となった。売上総利益の減益に販売費及び一般管理費の増加が重なり、営業利益は▲14.3%になったという。
直近の2027年3月期1Qは、収益2兆6,092億円、営業利益1,321億円、当社株主に帰属する四半期純利益1,864億円で着地した。通期予想の当期利益5,800億円(+6.6%)に対する進捗率は約32%である。
先行きについて会社は、中東情勢の緊迫化に伴う燃料や関連製品の価格上昇と供給途絶、インフレ抑制のための金融引締めを背景に、世界全体では成長鈍化を見込むとしている。一次産品価格は化石燃料価格の上昇が波及する形で幅広い品目に及ぶという見方だ。
燃料高は発電のコストに直結する。もっとも、その分をどこまで売電価格に乗せられるかで結果は変わる。電力・インフラサービスが利益の4番目を保てるかどうかは、ここにかかっているとみている。
株価は3割上げてから、そこで止まらなかった
市場はこの構造をどう受け止めてきたのか。直近1年の月末終値を追ってみる。
2025年9月末の終値は3,600円台だった。そこから2025年12月末に4,300円台、2026年1月末に5,100円台と切り上がり、2026年2月末には6,000円台に乗せている。
高い水準は春まで続いた。2026年4月末の6,000円台は、2025年9月末以降の月末終値では最も高い水準にあたる。
しかし初夏に入ると重くなった。2026年5月末は5,100円台、2026年6月末は4,600円台まで下押しし、4月末からは2割近く水準を落としている。その後は2026年7月末に5,200円台へ戻したものの、2026年8月末は4,900円台だった。
それでも2025年9月末との比較では3割を超える上昇である。1年の成績としては強い部類だが、途中の振れ幅も大きい。資源市況や為替、相場全体の地合いが絡んでおり、単一の材料に還元して説明できる動きではないだろう。
ここで資本効率に目を向けると、別の緊張関係が見えてくる。2026年3月期のROE(自己資本利益率)は13.6%で、卸売業の中央値7.9%を大きく上回る。ところが5期をさかのぼると、2022年3月期の23.0%から22.4%、15.2%、14.2%、13.6%と一貫して切り下がってきた。株価は上がり、資本効率は下がる。この二つが同時に起きているのが、いまの丸紅である。
なぜ電力のような事業は、この会社の顔になりきらないのだろうか。
理由の一つは、私たちが会社を売上の大きさで記憶するからだと考えられる。決算資料でも報道でも、事業は収益の大きい順に並ぶ。その並びで見るかぎり、電力は下のほうに置かれ続ける。
だが投資家が本当に知りたいのは、どこにお金が入ってくるかではなく、どこにお金が残るかのはずだ。並べ替えるだけで、会社の輪郭は変わる。
もう一つ、この事業が語られにくい理由がある。稼ぐまでの時間が長いことだ。設備は建てて動かして初めて利益になる。四半期ごとの話題には乗りにくく、株価が反応する材料にもなりにくい。裏を返せば、市況で説明しやすい事業ほど株価に織り込まれやすく、時間のかかる事業ほど織り込みが遅れる。
商社の決算を見るとき、収益の列を眺めて終わらせないことをおすすめしたい。利益の列で一度並べ替える。それだけで、同じ会社が違って見えてくるはずだ。
免責事項
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オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
