この記事はここがポイント
- 株価4割上昇の主因は、2027年3月期1Q営業利益+76.3%の医薬品
- 2026年3月期は減損で最終減益も、翌期純利益+78.2%回復予想
- 最終減益の2026年3月期に優待拡充、優待品と利益源の乖離
チョコレートやヨーグルトの会社が、昨秋から株価を大きく切り上げた。
明治ホールディングス<2269>の月末終値は、昨秋の2,900円台から足元では4,100円台にある。
同社は株主優待を拡充した会社でもあるが、株価を押し上げた主役は別のところにあるように見える。
食品と医薬品という2つの顔のうち、どちらが今の株価を支えているのか。決算から確かめてみたい。
※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
2,900円台から4,000円台へ、2段階で切り上がった株価
2025年10月末の終値は2,963円だった。そこから11月末3,369円、12月末3,485円、2026年1月末3,623円と月を追って切り上がり、2月末には4,027円と4,000円台に乗せた。
その後はいったん上げ幅を吐き出す。3月末3,859円、4月末3,709円と下げ、5月末から7月末までは3,700円台で横ばい圏が続いた。
2段目の上昇は8月だ。8月末の終値は4,491円と、昨秋以降の月末終値で最も高い水準をつけた。9月末は4,156円とやや押し戻され、2026年10月時点の終値は4,166円である。
2025年10月末から9月末までで、上昇率は4割に達する。食料品株はディフェンシブで値動きが穏やかだと見られがちだが、この1年に限ればその印象とはかなり違う動きだ。
注目したいのは、5月から7月の横ばいと、8月の上昇の対比である。この間に出た2つの決算が、市場の受け止め方を分けた可能性がある。
2026年3月期は営業増益なのに最終減益、その理由
2026年3月期通期の売上高は1兆1,736億円で前期比+1.7%、営業利益は933億円で同+10.2%、経常利益は965億円で同+17.7%だった。本業の利益は2桁で伸びている。
ところが親会社株主に帰属する当期純利益は350億円と、同▲31.0%の減益に終わった。
差を生んだのは特別損失である。特別損失は426億円にのぼった。減損損失は244億円で、食品セグメントだけで225億円を計上している。
会社の説明によると、中国事業で減損損失を計上しつつ、構造改革に着手した。食品では価格改定や付加価値提案の強化、新商品の拡大、海外展開を進めたという。
営業利益が伸びる一方で、最終利益は一時的な損失で押し下げられた。5月の決算発表後に株価が3,700円台で足踏みしたのは、見た目の最終減益と、中身の営業増益のどちらを重く見るかで、市場の評価が割れていたためかもしれない。
2027年3月期は当期純利益+78.2%の回復予想
会社は2027年3月期通期について、売上高1兆2,120億円(前期比+3.3%)、営業利益1,000億円(同+7.2%)、当期純利益625億円(同+78.2%)を見込む。
最終利益の大幅な回復は、前期の減損の反動による部分が大きいとみられる。営業利益の伸びは+7.2%と穏やかで、本業の巡航速度はこちらの数字が近い。
会社は、原材料価格の高騰や中国経済の減速、ワクチン接種環境の変化を織り込み、中期経営計画の当初目標を見直したとしている。保守的に計画を組み直したうえで、回復を狙う局面だ。
年間配当は2026年3月期の105円に対し、2027年3月期は110円を予想する。最終減益の年も配当を引き上げ、今期もさらに積み増す計画である。
財務の土台は厚い。2026年3月期の自己資本比率は61.2%で、食料品業の中央値60.5%とほぼ同じ水準にある。減損を出しても配当を維持できるのは、この財務の厚みがあるからだろう。もっとも、負債をあまり使わない財務が資本効率の面で最適かどうかは、また別の論点だ。
2027年3月期1Qの稼ぎ頭は医薬品だった
8月に開示された2027年3月期1Qは、売上高2,894億円(前年同期比+5.8%)、営業利益226億円(同+27.7%)、経常利益247億円(同+37.8%)、四半期純利益152億円(同+51.3%)だった。通期予想に対する営業利益の進捗率は22.7%である。
セグメント別に分けると、伸びの重心がはっきりする。食品の営業利益は151億円で前年同期比+10.9%だったのに対し、医薬品は84億円で同+76.3%と大きく伸びた。
医薬品の売上高は556億円で同+13.6%、営業利益率は15.2%に達する。食品の営業利益率6.5%と比べると、2倍以上の水準だ。
会社によれば、医薬品では製造販売を一元化した血漿分画製剤の売上拡大に注力し、新規発売品の選択的ROCK2阻害剤「レズロック錠」や、大正製薬と共同販売する不眠症治療薬「ボルズィ」の普及にも取り組んだ。食品では国内で既存品の付加価値提案や新商品の拡大を進めつつ、コスト削減や生産効率化で原材料コストの上昇分の吸収に取り組んだという。
8月の株価の上昇は、この1Qの発表と時期が重なる。医薬品が利益を押し上げる形が数字で確認できたことが、見直しの材料になった可能性がある。
売上の2割の医薬品が、営業利益の3割を稼ぐ構造
社名から連想するのは、牛乳やチョコレートだろう。実際、売上の8割は食品だ。2026年3月期の食品の売上高は9,414億円で、医薬品は2,322億円にとどまる。
ところが利益で見ると、比重は変わる。2026年3月期の営業利益は食品687億円、医薬品304億円で、医薬品が2つのセグメントの合計の3割強を稼いだ。営業利益率は食品7.3%に対し、医薬品13.1%だ。
さらに2027年3月期1Qでは、医薬品の利益シェアが3割台半ばまで高まった。売上の2割の事業が、利益の伸びをけん引する構図である。
連結の営業利益率は2026年3月期で7.9%と、食料品業の中央値4.0%の倍近い。ただし、その厚みの一部は医薬品が支えている。食品会社として見ると見誤る部分がある、ということだ。
一方、ROE(自己資本利益率)は2026年3月期で4.6%と、業種中央値の6.8%を下回った。減損による最終減益が響いた形で、過去5期では2022年3月期の13.5%から段階的に低下してきた。株価の上昇は、この資本効率の底打ちを先取りしている面もあるのではないだろうか。
足元は投資の負担も重い。2026年3月期の営業キャッシュフローは565億円だったのに対し、投資キャッシュフローは▲1,103億円と流出が上回った。設備投資は946億円と、前期の536億円から大きく増えている。
建設仮勘定も913億円に積み上がった。会社は医薬品で国内生産体制の構築を進めたとしており、この投資が利益に変わるまでの時間差が、当面のROEを抑える要因になりうる。
減益の年に株主優待を拡充した意味
同社は株主優待として、明治グループ製品詰合せの贈呈を行っている。2025年12月には、長期保有の株主を対象に加える形で優待制度の変更(拡充)を発表した。
時期に注目すると、2026年3月期は減損で最終減益となった年だ。業績の向きと優待の向きが逆になっている。
会社は拡充の狙いを、株主に事業や製品への理解を深めてもらい、末永く支援してもらうためとしている。最終利益が落ち込む局面でも、個人株主との関係を長く保つ方針を優先した意思表示と読める。
優待の中身が自社製品である点にも意味がある。製品詰合せは株主にとって還元であると同時に、同社の食品を実際に手に取ってもらう機会にもなる。売上の大半を食品が占める会社にとって、株主優待は食品事業の顔を株主に直接届ける窓口と読める。
ただし、利益の伸びをけん引しているのは医薬品だ。株主優待で届くのは食品の顔だが、足元の株価を動かしているのは医薬品の顔である。優待から受ける会社の印象と、利益を生む事業の顔ぶれのズレは、同社を見るうえで押さえておきたい点だろう。
もっとも、還元の土台となる稼ぐ力は、ここまで見てきた医薬品の伸びと食品の構造改革にかかっている。2026年3月期の配当性向は81.1%まで上昇しており、2027年3月期の利益回復が予想どおり進むかが、還元を続ける余力を左右するだろう。
2027年3月期上期決算の発表を前に、見るべきは医薬品の伸びが続くかどうかだ。
筆者コメント
印象的なのは、株価を動かしたのが「何を作っている会社か」ではなく、「どこで稼いでいる会社か」の確認だった点だ。
減損の年は、最終利益の数字だけ見れば後退に映る。だが中身を分けると、本業は伸び、利益の重心は医薬品へ寄りつつあった。株価の2段階の上昇は、その中身が少しずつ市場に伝わっていった過程と重なる。
私はこの会社を、食品会社に医薬品が付いている姿ではなく、2つの異なる景気感応度を束ねた組み合わせとして見ている。食品が原材料高に耐える間、医薬品が利益を補う。その分散がうまく働いた1年だった。
株主優待の拡充は、その組み合わせの成果を個人株主と分け合う姿勢にも見える。製品詰合せという身近な優待の裏側で、利益を生む事業の顔ぶれが変わりつつあることに目を向けてほしい。
参考資料
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
- 本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。
- 投資判断は最新の決算資料や市場動向などをご自身でご確認の上、自己責任で行ってください。
- 株主優待の内容や条件などは変更される可能性があるため、必ず公式サイトでご確認ください。
オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
