この記事はここがポイント
- 2026年3月期は事業利益過去最高、減損114億円で最終利益23億円。
- 海外事業は売上3割超、減収も採算改善する一方、減損の主因。
- 株価は5月3,700円台から4,300円台へ回復、決算を織り込んだ推移。
うどん一杯の値段は誰にでも分かる。だが、その一杯を出す会社の利益がどこで決まっているかは、案外分かりにくい。丸亀製麺を軸に国内外で2,100店を超える店舗網を持つトリドールホールディングス<3397>は、国内の外食チェーンというイメージが先に立つ会社だ。ただ、直近の決算を並べていくと、その見え方は少しずれてくるかもしれない。
※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
3,700円台まで下押しした株価が、夏場に取り戻したもの
昨秋からの株価を追うと、下押しと戻りがはっきり分かれている。2025年10月末の終値は4,400円台で、11月末には4,500円近くまで切り上がった。ここが昨秋以降の月末終値では最も高い水準だ。
そこから年末年始にかけては4,100円台から4,200円台へと緩やかに沈んだ。2026年2月末に4,200円台、3月末には4,300円台まで水準を戻している。
流れが変わったのは春だ。4月末は4,000円台、5月末は3,700円台まで下押しした。5月は通期決算を開示した時期にあたる。売上収益が過去最高で着地した一方、最終利益が会社計画を大きく下回ったことが意識された可能性はある。
もっとも、そこからの戻りは速い。6月末は3,800円台、7月末には4,300円台まで水準を回復した。8月末も4,300円台で、2026年9月時点の直近終値も同じ4,300円台にある。
起点の2025年10月末と2026年8月末を並べれば、ほぼ横ばい圏だ。この間の騰落だけを見れば動きの乏しい銘柄に見える。しかし内側では、最も高い月末終値と最も低い月末終値の間に2割弱の開きがあった。
ボラティリティ(株価の日々の値動きの激しさ)はそれなりに高い。株価は決算の着地そのものよりも、そのあとに見えてきた中身に反応したのではないだろうか。
事業利益は過去最高、それでも当期利益が23億円に留まった構造
2026年3月期の売上収益は2,787億円で前期比3.9%増、過去最高となった。丸亀製麺セグメントと国内その他セグメントでも過去最高を更新している。会社によれば、新店の寄与と各種施策が奏功した結果だという。
利益の並びが独特だ。この会社は売上収益から売上原価と販管費を引いた段階を「事業利益」として置いており、その事業利益は214億円で前期比17.9%増、これも過去最高で着地した。
ところが営業利益は105億円、当期利益は23億円にとどまる。営業利益は事業利益から減損損失を差し引き、その他の営業収益を足してその他の営業費用を引いた段階として定義されている。
段差を作ったのは減損だ。減損損失は114億円で、営業利益の水準そのものを上回る規模になった。主に海外事業セグメントの不採算店舗とのれんの減損である。あわせて、海外子会社の店舗休業補償にかかる保険金や閉店に伴うリース解約益などでその他の営業収益が29億円、株式売却損などでその他の営業費用が24億円計上された。
会社計画との照らし合わせが、この期の性格をよく表している。事業利益は計画196億円に対して9.5%の上振れ、営業利益は計画146億円に対して27.5%の下振れ、当期利益は計画55億円に対して58.0%の下振れとなった。
本業の稼ぐ力は計画を超え、資産の評価が最終利益を削った。それが2026年3月期の姿だ。前期の減損損失は80億円だったから、規模は一段上がっている。
なお3Q累計時点の営業利益は162億円だった。通期が105億円で着地している以上、期末に費用が集中したと読み取れる。株価が5月に下押しした理由を単一の材料で断定はできないが、この着地の形と時期は重なっている。
海外923店という事実、丸亀製麺の会社という見え方のずれ
セグメントを開くと、この会社の重心が見えてくる。2026年3月期の売上収益は丸亀製麺が1,371億円で前期比7.1%増、国内その他が396億円で同11.9%増、海外事業が1,018億円で同2.7%減だった。海外事業だけで連結売上収益の36.6%を占める。
店舗数はさらに直感からずれる。2026年3月末の連結店舗数は2,102店で、うち丸亀製麺が887店、国内その他が292店、海外事業が923店だ。フランチャイズなどを含めた総数では、海外が国内の丸亀製麺を上回っている。直営に限れば海外は436店なので、店の重みは事業ごとに違う。
外食チェーンの海外展開は「成長の伸びしろ」として語られやすい。しかし直近のこの会社の海外は、伸ばす局面から採算を取りに行く局面へ移っているように見える。
事業利益で見ると、海外事業は52億円で前期比109.4%増。減収でありながら2倍を超える増益だ。会社の説明では、香港を中心とするスパイシーヌードル業態が前期の不採算店舗の戦略的閉店を経てコストコントロールを効かせ、海外で展開する丸亀うどんの業態は台湾をはじめとしたアジアが好調で英国事業も黒字化したという。減収の理由も明快で、前期に実施した英国事業のフランチャイズ化と一部不採算店舗の閉店影響だ。
一方、英国を拠点にナポリピザとギリシャ料理を展開する事業については、外食産業を取り巻く経済環境が想定以上に厳しく収益性の回復が遅れており、減収減益だったとしている。事業の収益性と持続可能性を高めるための事業再構築にも着手した。減損の主因が海外だったことと、この記述は素直につながる。
国内も一様ではない。丸亀製麺セグメントの事業利益は219億円で前期比5.1%増だが、国内その他は41億円で同6.6%減だ。原材料費や人件費の増加を増収で吸収しきれたかどうかが、両者の差になっている。各セグメントに配分していない全社費用などの調整額は▲99億円だった。
減価償却費の並びも興味深い。海外事業が149億円で、丸亀製麺の115億円を上回る。売上は丸亀製麺より小さいのに、抱える資産はいちばん重い。海外の減損が繰り返し登場する背景は、この重さと無縁ではないだろう。
営業利益率は業種中央値並み、ROE2.6%が示す段差
業種の物差しを当ててみよう。2026年3月期の営業利益率は3.8%で、小売業の中央値3.7%とほぼ同水準だ。事業利益率なら7.7%になる。段階の取り方ひとつで印象が変わる。
ただし小売業という区分には、スーパーから専門店まで事業モデルの違う会社が同居する。中央値をそのまま物差しにしすぎるのは危ういので、方向感の確認に留めるのがよい。
その前提で見ても、最終段階の差は大きい。売上収益に対する当期利益の比率は0.8%で、中央値2.4%を下回る。ROE(自己資本利益率)は2.6%、中央値は7.4%だ。
自己資本比率は29.9%で、中央値48.3%の6割ほどにとどまる。レバレッジだけ取り出せばROEを押し上げる構えなのに、実際のROEは中央値を下回っている。稼いだ利益が営業段階より下で削られている姿と言える。
キャッシュの動きは、利益とはだいぶ違う顔をしている。営業キャッシュフローは492億円で前期比30.7%増。会社はその主因として減価償却費308億円と減損損失114億円を挙げている。いずれも現金が出ていかない費用だ。
投資キャッシュフローは▲156億円で、有形固定資産の取得による支出が138億円あった。財務キャッシュフローは▲481億円と大きい。長期借入れによる収入130億円がある一方、リース負債の返済に223億円、長期借入金の返済に216億円を充てている。
店舗を借りて出す業態は、IFRS(国際財務報告基準)のもとで賃借がリース負債として計上される。有利子負債はリース負債を含めて1,737億円、現金及び現金同等物は698億円で、純有利子負債は1,038億円だ。会社が示すネットレバレッジ・レシオは1.98で、前期の2.11から低下した。稼いだ現金を負債の圧縮に回した期だったことになる。
配当は年11円で3期連続の増配、配当性向は50.8%と小売業の中央値32.9%を上回る。もっとも、利益が薄い期の配当性向は受動的に上がる。この数値だけで還元姿勢の強さを判断しないよう注意したい。
2027年3月期は営業利益170億円の予想、1Qは減益スタート
会社は2027年3月期に売上収益2,870億円で前期比3.0%増、営業利益170億円で同60.7%増、当期利益70億円で同202.9%増を見込む。配当は12円への増配予想だ。減損が繰り返されなければこうなる、という形の予想と受け止められる。
その1Qは、増収と減益が同居した。売上収益は723億円で前年同期の698億円から伸びた一方、営業利益は前年同期の80億円から52億円へ、当期利益は43億円から30億円へと3割前後の減益となった。EPS(1株当たり当期利益)は33.25円だ。
見出しだけ拾えば減益スタートである。ただ、通期予想に対する進捗率で見ると営業利益は31.1%、売上収益は25.2%になる。1Qの線形ペースは25%なので、利益は先行している。前年同期が減損の前で利益水準の高い四半期だったことも、比較の見え方を厳しくしている。
株価が8月以降も4,300円台を保っているのは、この二面性が織り込まれているためではないだろうか。減益という見出しと、通期予想に対する進捗という実務的な読み方が、同時に成立している局面だ。
次は上期の決算発表を控える。減損を出したあとの海外事業がどこまで採算を維持できているか。そこを軸に見ていくのが有効だろう。
見逃せないのは、この会社が「減損を出せる会社」になっている点ではないだろうか。
減損は損失として計上される。だが同時に、閉じると決めた店やのれんの記録でもある。多店舗展開の会社では、撤退の判断が遅れるほど利益は静かに削られ続ける。
直近2期で減損の規模が一段上がったことは、拡大局面で積み上げた分を一度に処理しにかかっている姿とも読める。海外で減収と増益が同時に起きているのも、同じ意思決定の裏表だ。
だからこそ、この銘柄を眺めるときの視点はうどんの味ではない。どの国のどの業態が、いくらの資産を抱えて、いくら稼いでいるか。そこに尽きる。
外食は消費者としての実感が働きやすい業種だ。その実感は強みだが、店頭で見えるのは国内の一店舗だけである。決算を開いて、店舗網の重さがどこに寄っているかを確かめる癖をつけてほしい。
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
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オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
