この記事はここがポイント
- 厚生年金で月額30万円以上受給する割合は0.12%であること。
- 要介護者の最多年齢層は男性85~89歳、女性90歳以上と異なること。
- 公的年金制度はマクロ経済スライドで持続可能であり、破綻する心配がないこと。
日本の高齢社会において、「老後の健康(介護)」と「お金(年金)」は誰もが直面する2大課題です。
厚生労働省が公表した「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」によると、要介護者等になる年齢は男性で「85〜89歳」が最多となっており、長寿社会における介護への備えは不可欠となっています。
次回の公的年金の支給日は8月14日(金)ですが、この日を心待ちにしている方も多いのではないでしょうか。
年金生活を送るうえで、「他の人はどれくらい年金をもらっているのか」と気になることもあるかもしれません。
特に高額な年金を受け取っている人の割合は、関心の高いテーマのひとつです。
しかし、実際には月額30万円といった水準の年金を受給している人は、ごく少数に限られます。
本記事では、厚生労働省の公的データをもとに、要介護者等の年齢層と、月額30万円以上の年金を受け取っている人の「割合」をみていきます。
あわせて、年金制度に関して「よくある3つの誤解」を整理しわかりやすく解説しますので、老後の生活設計にお役立てください。
私はかつて日本郵便に勤務し、地域のお客様のお金のお悩みに寄り添いながらライフプランのサポートをしてまいりました。
日々ご相談をお受けする中で、老後の年金や介護に対する漠然としたご不安の声を伺うことは少なくありませんでした。
要介護者等の年齢構成:男女別でもっとも多い年齢層は?
厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、要介護者等の年齢階級別割合において、男女でもっとも多い年齢層に以下のような違いが見られます。
「要介護者等」の男女別・年齢階級別構成割合
性別:もっとも割合が高い年齢層構成比(割合)
- 男性: 「85〜89歳」が 22.4% で最多
- 女性: 「90歳以上」が 31.5% で最多
男性のピークが80代後半であるのに対し、女性は90歳以上の超高齢層が3割以上を占めており、女性の高齢化と介護ニーズの長期化が浮き彫りとなっています。
老後の生活を支える「公的年金」ですが、今のシニア世代は厚生年金と国民年金をどれくらい受給できているのでしょうか。
2026年度の厚生年金、標準的な夫婦世帯では4495円の増額へ
2026年1月に、令和8年度における年金額の改定内容が発表されました。
この改定は物価や賃金の変動を反映したもので、年金額は増額となる見通しです。
令和8年度の年金額の例
令和8年度における年金額の例(月額)
国民年金(満額・1人分):7万608円(前年度比+1300円)
厚生年金(標準的な夫婦世帯):23万7279円(前年度比+4495円)
※上記の厚生年金額は、平均的な収入(平均標準報酬額45.5万円)で40年間就業した夫と、その配偶者である専業主婦の基礎年金を合計したモデルケースに基づいています。
2026年度の年金額は増額改定となりましたが、物価高などの影響により「生活が豊かになった」と実感している方は少ないかもしれません。
年金は増額でも「実質マイナス」?マクロ経済スライドの仕組みを解説
2026年度の年金額改定により、国民年金は1300円、厚生年金は4495円の増額となりました。
しかし、金額面ではプラス改定であるものの、物価の変動を考慮すると、年金の価値が実質的に向上したとはいえないのが現状です。
改定率に注目すると、国民年金は1.9%、厚生年金は2.0%の引き上げです。
それに対して、同時期の物価上昇率は3.2%でした。
年金額の伸びが物価の上昇ペースに及んでいないため、名目上の受給額は増えても、実質的な購買力は「目減り」していると解釈できます。
この状況の背景には、「マクロ経済スライド」という年金額を調整する仕組みが存在します。
マクロ経済スライドは、少子高齢化や平均寿命の伸長といった社会の変化に対応し、年金制度を将来にわたって持続可能なものにするため、給付額の伸びを抑制する役割を担っています。
賃金や物価の変動をベースにしながらも、人口構造の変化を織り込んだ調整が入ることで、結果的に改定率が物価上昇率を下回るケースが生じます。
したがって、2026年度の改定は増額ではあるものの、「実質的な給付水準は下がっている」と考えることができます。
では、このように年金の実質価値が低下傾向にある中で、厚生年金受給者のうち、月額30万円以上を受け取っているのは、どのくらいの割合なのでしょうか。
年金支給日に60万円(月額30万円)以上を受け取る人の割合は?
厚生労働省年金局が公表した「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、老齢基礎年金を含んだ厚生年金の平均受給月額(男女合計)は15万289円です。
厚生年金の受給額別、構成割合の内訳
それでは、実際の受給額の分布はどのようになっているのか見ていきましょう。
厚生年金の受給額
- 10万円未満:19.0%
- 10万円以上:81.0%
- 15万円以上:49.8%
- 20万円以上:18.8%
- 20万円未満:81.2%
- 30万円以上:0.12%
特に注目したいのは「月額30万円以上」を受給している人の割合で、わずか0.12%という結果でした。
この数字は約800人に1人という計算になり、該当者が非常に少ないことがわかります。
平均受給額が15万円台である点を考慮しても、年金支給日に「60万円(2カ月分で月額30万円)」を受け取るのは、極めてまれなケースだといえそうです。
年金制度にまつわる3つの誤解をわかりやすく解説
ここからは、公的年金制度について誤解されがちな点を3つピックアップして解説します。
誤解その1:日本の年金制度は将来破綻する?
日本の公的年金制度には、少子高齢化の進展や平均寿命の伸長といった社会構造の変化に対応するため、「マクロ経済スライド」という仕組みが導入されています。
これは、給付水準を自動的に調整する機能です。
マクロ経済スライドを導入
このように、制度の持続可能性を確保するための調整機能がビルトインされているため、年金の支給が突然ストップするような事態は想定されていません。
したがって、「制度が破綻するか」を心配するよりも、将来的にどの程度の給付水準が維持されるのかという視点で考えることが重要です。
誤解その2:年金保険料は今後も上がり続ける?
厚生年金の保険料率については、第1号厚生年金被保険者の場合、2017年に上限である18.3%に到達し、それ以降は引き上げられていません。
このように、保険料率が際限なく上昇し続ける仕組みにはなっていないのです。
働く人が増えている
さらに、女性や高齢者の就業参加が進んだことで保険料収入が増加した結果、年金積立金は当初の予測を約70兆円上回る見込みです。
積立金残高は約70兆円を上回る
年金制度は、加入者の負担だけが一方的に増え続けるような単純な構造ではないという点も理解しておくべきポイントです。
誤解その3:「年金は元が取れない」は本当か?
公的年金は、個人が積み立てたお金を将来受け取るだけの貯蓄とは本質的に異なり、複数の保障機能を備えた社会保険制度です。
- 老齢年金:長生きすることによる経済的リスクに備える
- 障害年金:病気やけがで働けなくなった場合の生活を支える
- 遺族年金:加入者が亡くなった場合に残された家族の生活を守る
世代と世代の支えあい
加えて、所得を再分配する機能も組み込まれているため、現役時代の収入格差がそのまま年金受給額の格差にはならないよう設計されています。
公的年金の所得再分配機能
「支払った保険料の元が取れるか」という損得勘定だけで、この制度が持つ本来の役割や価値を評価することは適切ではないといえます。
厚生年金の現状と制度への誤解を解消し、将来設計に役立てよう
この記事では、厚生年金で月額30万円以上を受け取っている人の割合と、年金制度にまつわる代表的な3つの誤解について解説しました。
厚生年金の受給実態を見ると、平均月額は15万円台であり、月30万円以上を受給する人は全体の0.12%に過ぎません。
このことから、高額な年金を受け取れるのはごく一部の人に限られることがわかります。
一方で、「制度は破綻する」「保険料は上昇し続ける」「元が取れない」といった不安や誤解も少なくありません。
しかし、実際には制度を維持するための調整機能や、社会保険としての多様な役割が備わっています。
これらの事実をふまえ、年金制度の仕組みを正しく理解することが重要です。
そのうえで、ご自身の年金受給見込額を把握し、老後の生活設計を具体的に考えてみてはいかがでしょうか。
公的年金だけでカバーできない部分がどれくらいあるのかを試算し、不足分をどのように補うか計画を立てておくことが、将来に向けての備えにつながります。
