判断能力が低下する前に「家族で準備できる3つの対策」
事例のケースにおける最大の反省点は、「認知症の兆候が見え始め、状況が悪化してから慌てて対応した」という点にあります。
本人の意思能力がはっきりしなくなってからでは、前述したような手間やコストのかかる選択肢(特例引き出しの交渉や成年後見制度の申し立て)しか残されていないことがほとんどです。
しかし、親の意思能力がまだ明確なうち(元気なうち)であれば、より柔軟で家族の負担が少ない制度を活用できます。
対策1:家族信託(民事信託)
親が元気なうちに、財産の管理や処分に関する権限を、信頼できる家族(子など)に託す契約を結んでおく方法です。
この契約により、認知症発症後も、あらかじめ定めた目的に沿って、託された家族が自身の権限でスムーズに預金の引き出しや不動産の売却などを行えるようになります。
対策2:任意後見制度
任意後見制度とは?
将来、自分が認知症などで判断能力が低下した時に備え、あらかじめ自分自身の意思で「誰に」「どのような財産管理を」任せるかを公正証書によって定めておく制度です。
法定後見制度とは異なり、信頼できる家族などを後見人として指定しやすいという特徴があります。
任意後見制度の最新動向
これまで任意後見制度をスタートさせるには、家庭裁判所が選任する「任意後見監督人」を必ずつける必要がありました。
しかし、2026年6月24日に公布された民法等の改正により、裁判所が「監督人は不要」と認めたケースでは監督人なしで制度を利用できるようになるほか、利用をスタートするための申立てができる人の範囲が広がるなど、ご家族にとってより柔軟で使いやすい制度へと見直しが行われています(改正法は公布日から2年6カ月以内に施行予定)。
対策3:金融機関の代理人指名制度
近年、多くの金融機関が導入を進めているサービスです。
事前に窓口で家族を「代理人」として登録しておくことで、本人が認知症になった後でも、登録された家族が正式な手続きとして窓口で預金の引き出しなどを行えるようになります。
まとめ:グレーな常識を捨て、正しい知識で親の財産を守る
超高齢化社会を迎えた日本において、認知症が原因で高齢者の資産が引き出せなくなる「口座凍結」は、もはやどの家庭にも起こりうる身近なリスクといえます。
「家族なのだから、親のキャッシュカードを使ってATMで引き出せばいい」という考えは、世間一般に広まっているかもしれませんが、これは規定違反です。
最悪の場合、口座が完全にロックされてしまう危険な行為であることを認識しなくてはなりません。
いくら親の口座に十分な貯蓄があったとしても、引き出すことができなければ意味がありません。
介護が始まる段階で資金繰りに窮し、家族が共倒れになる悲劇を避けるためにも、親が元気なうちから財産管理について話し合いができると良いですね。
参考資料
早大卒。証券外務員二種・相続診断士。15年の書籍校閲で培ったファクトチェック力を武器に、一次資料に基づく「お金と暮らし」の分析記事を担当する編集記者。認知症介護経験をいかし、読者目線に立った情報発信も。
