「BRICS(ブリックス)」という言葉を覚えていますか?
銀行員時代、新興国の経済成長に乗っかって資産を増やそうという「BRICSファンド」の相談をお客さまからよく受けていました。ちょうどリーマンショックからの回復期にあたり、冷え込んでいた投資マインドが再び燃え上がり始めた、15年ほど前のことです。
当時は、資源国ブラジルなら高金利の債券ファンド、中国とインドなら高い成長性を狙う株式ファンドが鉄板の人気。
とくにインドは「ポスト中国」として注目度が高く、「インド株に投資したい」という声を多くいただいたものです。
いま、世界のリスク資産は米国株の一強、そして日本株の復活へとトレンドが移り変わりました。
では、あのとき多くの人々が期待した「インド株」は、この15年でどれほど成長したのでしょうか。
S&P500(米国)・日経平均(日本)と比べながら、100万円を投資していたらいくらになっていたかというシミュレーション結果を用いながら、比べてみます。
「BRICS」とは?2026年現在どうなっている?
BRICS
BRICSとは、ブラジル(Brazil)・ロシア(Russia)・インド(India)・中国(China)・南アフリカ(South Africa)の頭文字を並べた言葉です。
もともとは2001年、米ゴールドマン・サックスが「BRICs」という造語を生み出したのが始まりです。その後、南アフリカが加わって「BRICS」となり、2024年1月にはアラブ首長国連邦(UAE)・イラン・エジプト・エチオピアの4カ国が、2025年1月にはインドネシアが加わって加盟国は10カ国にまで拡大しています。
ただし、2026年現在のBRICSは当時の輝きをそのまま保っているわけではありません。
- ロシア:2022年のウクライナ侵攻以降、経済制裁により国際的な資金の流れが遮断。ロシア関連ファンドの多くが運用停止・売却不能に陥りました
- 中国:不動産バブルの崩壊や内需の停滞から成長鈍化が続き、「中国離れ」を進める企業が相次いでいます
- インド:この逆風の中、BRICSの中で唯一、安定した高成長を続けている存在として世界から注目を集めています
インド株 vs 米国株 vs 日本株「15年前→現在」どれくらい成長した?
インドの代表的な株価指数「センセックス(SENSEX)」をもとに、米国の「S&P500」、日本の「日経平均株価」と約15年間の成長率を比較してみましょう。
※比較にはインドの「センセックス」、米国の「S&P500」、日本の「日経平均株価」を使用しています。現地通貨ベースの数値です。
主要株価指数の上昇率比較(現地通貨ベース)
インド・米国・日本の成長率比較(15年間)
15年間の上昇率
- インド(センセックス):1万8845 → 7万8285 約315%上昇(約4.2倍)
- 米国(S&P500):1300 → 7537 約480%上昇(約5.8倍)
- 日本(日経平均):9351 → 6万9740 約646%上昇(約7.5倍)
インド株のリターンは米国・日本を下回る結果となりました。
「ハイリスクな新興国に投資した割には…」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、インド株は約315%も上昇しています。
インドの成長が劣ったのではなく、米国株と日本株がこれを上回る急成長を見せたということです。
参考:米国株・日本株が急成長する直近約3年間、インド株はどう?
直近、約3年ほどは「株高」「史上最高値更新」というワードを連日のように見聞きしています。
参考までに、インド・米国・日本の直近約3年間の上昇率も比較してみました。
- インド:3年前 6万4710 → 現在 7万8285《約21%上昇》
- 米国:3年前 4298 → 現在 7537《約75%上昇》
- 日本:3年前 3万2265 → 現在 6万9740《約116%上昇》
直近約3年で絞ってみても、米国株と日本株がインド株の上昇率を上回っています。
【シミュレーション】100万円を投資していたら今いくらになった?
上記の上昇率をもとに、100万円を投資していた場合のシミュレーションをしてみました。
15年前に100万円投資していたら(現地通貨ベース)
- センセックス(インド):約415万円
- S&P500(米国):約580万円
- 日経平均(日本):約746万円
15年前の投資では、インド株でも約415万円と4倍超のリターン。決して悪い数字ではありませんが、同期間に米国株は約580万円、日本株は約746万円になっており、先進国株の強さが際立ちます。
先進国株の急伸がインド株の「新興国プレミアム」を大きく上回った形です。
「円建て」で見ると…
ここまでは現地通貨ベースの比較です。しかし、私たちがNISAなどで実際に投じた資金が手元に戻るとき、リターンは「為替(円安・円高)」の影響を大きく受けます。
S&P500(米国):歴史的な円安が「11倍超え」を後押し
15年前(2011年ごろ)の為替レートは「1ドル=70円台」という歴史的な円高水準でした。
そこから現在にかけて大きく円安が進んだことで、現地通貨ベースのリターンに「為替ブースト」が加わっています。
円建てで試算すると、100万円の投資は1100万円以上(11倍以上)に大化けする計算です。
センセックス(インド):緩やかな円安効果で約4〜5倍
インドルピーも対円で緩やかな円安効果はありますが、米ドルほどの爆発力はありません。
円建てで試算すると、100万円の投資は約430〜460万円(約4〜5倍)程度にとどまります。
為替を加えると、米国株の「1強」がより鮮明に
日本人が実際に「円」で手にする運用結果で比較すると、米国株のリターンがインド株をさらに大きく引き離します。
一方で、これは裏返すと今後「円高」に振れた局面では同じ仕組みでマイナスの影響を受けるリスクがあることも意味します。
為替は誰にも正確には読めません。だからこそ、通貨分散の観点からも複数の国・地域への分散投資は引き続き重要です。
運用のプロはどう見る?インドの「現在地」と「期待値」
この15年のパフォーマンス比較では、米国株や日本株に一歩譲ったインド株。
さらに足元では、イラン情勢の緊迫化に伴う原油高リスク(原油純輸入国であるインドには逆風)や、モディ首相による国民への燃料節約要請、さらには「AIの汎用化によるITサービス産業の変革期」など、短期的な懸念材料もいくつか浮上しています。
しかし、運用のプロは依然として「中長期で強気」を崩していないようです。
ここからは、いくつかのインド株投信の月次レポートを参考に、各運用会社のファンドマネージャーたちが考える、インドの「現在地」と「期待値」を確認していきます。
1. 人口ボーナスによる内需拡大
インドは中国を抜いて世界一の人口(約14億人)を誇りますが、注目すべきはその「中身」です。
これから結婚し、家を買い、子を育てる生産年齢人口が2040年代後半まで増え続けると見込まれており、「人口ボーナス期」の真っ只中にあります。
スクリーンショット 2026-06-19 164559.jpg
注目すべきは、単に「モノが売れる」というマクロな消費から、「所得水準の上昇」と「都市化の進展」という質的な変化へシフトしている点です。
こうした背景により、以下のセクターの投資比率を高めるというファンドも。
- 不動産セクター: 地方から都市へ人が集まることで、空前の「住宅ブーム」が到来
- 金融(銀行)セクター:家を買うためのローンや、資産を預ける「銀行口座」の需要が増加
「ただ人が増える」だけでなく、「家を買い、ローンを組む人たちが急増する」。このドッシリとした国内需要の強さは、すでに成熟した先進国にはない強みです。
2. 「ITサービス」から「製造業」への転換と、底堅い経済指標
これまでインド経済を引っ張ってきたのはITサービスでしたが、足元では「AIの台頭」という未知のライバルに直面しています。
そこで今、大急ぎで進められているのが「製造業」と「インフラ整備」へのシフトです。
世界の大企業が「中国だけに依存するのはリスクだ(チャイナ+1)」と次の工場を探す中、インドはその巨大な受け皿として機能し始めています。
短期的には原油高などの逆風を受けつつも、発表されるマクロ指標は堅調です。
- 製造業PMI(景気の良さを示す指数): 好不況の境目である「50」を大きく上回る54台をしっかりキープ
- 2026年度の経済成長率予測: 変わらぬ内需の強さで、6%〜7%程度の着実な成長を見込む
かつての「道路がガタガタで、しょっちゅう停電する」といったインドのイメージはもう過去のもの。インフラの底上げが、モノづくりの生産性をさらに高める良いサイクルに入っています。
3. プレミアムの剥落。過去5年平均まで調整した「適正なバリュエーション」
「インド株は成長期待が大きい分、いつでも株価が割高(プレミアムが乗っている)」
これが、これまでの投資中級者の共通認識でした。
「いいのは分かっているけど、今買うのは高すぎるなぁ」と二の足を踏んでいた方も多いはずです。
しかし、足元の地政学リスクや一時的な市場のバタバタによって、その過剰な「お高くとまっていた割高感」がようやくリセットされつつあります。
- 予想PER(株価の割安度): 2026年5月末時点で約21倍まで落ち着き、過去5年の平均並みという「買いやすい適正水準」に。
- EPS(1株当たりの利益)成長率: 企業の稼ぐ力は、市場予想で前年比+12.5%と、しっかり二桁成長をキープ。
※数値は各運用のプロがグローバルな比較で多用する「MSCIインド・インデックス」等の月次レポートをもとに集計しています(全体のトレンドは前半のSENSEXとも概ね連動しています)。
つまり、「インド企業そのものは元気に稼いで成長しているのに、外部環境のニュースのせいで株価が適正レベルまで下がってきている」という状態です。
ファンドマネージャーたちがレポートで「長期投資家にとっては、足元はむしろ絶好の拾い場(投資機会)になるかもしれない」と前向きに語っているのは、こうした数字の裏付けがあるからなのです。
ポートフォリオの「サテライト」としてのインド株
この15年の比較において、インド株のリターンは現地通貨ベース・円建てともに米国・日本を下回る結果でした。
ただ、人口構成の若さ、製造業の台頭、インフラ整備の加速という構造的な成長要因は、まだその多くが「これから本番」の段階にあると考えられます。
とはいえ、どれほど大きな伸びしろが期待できる魅力的な投資先だとしても、インドはあくまでも「新興国」。
政治や法制度の不透明さ、通貨の不安定さといったカントリーリスクは、米国や日本などの先進国に比べてどうしても高くなります。手放しで資金を集中させるような対象ではありません。
もしインド株への投資を検討するなら、ポートフォリオ全体のバランスを意識したアプローチを心がけましょう。
たとえば、全世界株式(オルカン)やS&P500インデックスファンドを資産の中核(コア)にドッシリと据えつつ、インド株ファンドを5〜10%程度のスパイス(サテライト)としてカジってみる。この「コア・サテライト戦略」であれば、先進国株の安定感をベースにキープしながら、インドの成長を期待できる…という一つの選択肢になり得ます。
なお、実際に投資信託を通じて投資する場合、組み入れ銘柄や業種の構成によってパフォーマンスは指数と異なります。
また、ルピー・円レートの変動(為替リスク)も実質的なリターンに影響するため、長期投資を検討する際は新興国ならではのリスクをしっかり頭に入れた上で、慎重に検討しましょう。
【免責事項】
- 本記事は、公開されている公的資料および一般的な情報に基づき作成されたものであり、特定の制度・金融商品・投資行動を推奨するものではありません。
- 掲載している数値・シミュレーション結果は一定の前提条件のもとでの試算であり、実際の運用成果を保証するものではありません。
- 投資には元本割れを含むリスクが伴います。最終的な投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。
参考資料
三菱UFJ銀行・三井住友信託銀行で15年以上のキャリアを築き、自身も20年以上の投資経験を持つ。現在は株式会社モニクルリサーチが運営する『LIMO』でお金に関する記事を企画・執筆・監修中。
