6月5日に総務省が公表した「家計調査報告(二人以上の世帯)2026年(令和8年)4月分」によると、二人以上の世帯の消費支出は1世帯当たり328,969円となり、物価変動の影響を除いた実質で前年同月比0.5%の減少となりました。
物価高等の影響で家計のやりくりに苦心する様子がうかがえますが、特に60歳代を過ぎ、セカンドライフが現実味を帯びてくると、「同世代はどれくらい貯蓄しているのだろう」「年金だけで生活できるのか」といったお金に関する不安がよぎることもあるでしょう。
私がかつてメガバンクの窓口でお客さまの資産形成や各種ローンのお手続きに携わってきた経験からも、まずは客観的なデータでご自身の現在地を知ることが、ゆとりある老後への第一歩だと感じています。
この記事では、70歳代の二人以上世帯に焦点を当て、平均的な貯蓄額や年金の受給実態、日々の生活費について、公的な統計データを基に詳しく解説していきます。まずは客観的なデータから平均像を把握し、ご自身の家計状況と照らし合わせながら、これからの生活設計を考える一助としていただければ幸いです。
70歳代・二人以上世帯の貯蓄額、平均と中央値から見る実態とは
J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」の「70歳代・二人以上世帯の金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯を含む)」をグラフを交えて確認していきます。
※金融資産保有額には、預貯金以外に株式や投資信託、生命保険なども含まれます。また、日常的な出し入れ・引落しに備えている普通預金残高は含まれません。
70歳代の貯蓄額(二人以上世帯)
「70歳代・二人以上世帯」の平均貯蓄額は2416万円ですが、この数字は一部の富裕層によって押し上げられており、実際の生活水準とは乖離している可能性があります。
より実態に近いとされる中央値は1178万円であり、多くの世帯の貯蓄額がこの水準に集中していることがうかがえます。
世帯ごとの貯蓄額分布は以下のとおりです。
- 金融資産非保有:10.9%
- 100万円未満:4.5%
- 100~200万円未満:5.1%
- 200~300万円未満:3.7%
- 300~400万円未満:3.9%
- 400~500万円未満:2.9%
- 500~700万円未満:6.4%
- 700~1000万円未満:6.7%
- 1000~1500万円未満:11.1%
- 1500~2000万円未満:6.7%
- 2000~3000万円未満:12.3%
- 3000万円以上:25.2%
- 無回答:0.6%
70歳代・二人以上世帯の中で、金融資産を保有していない「貯蓄0円」の世帯は全体の10.9%を占めています。一方で、3000万円以上の貯蓄を持つ世帯も25.2%存在しており、世帯間の資産状況には大きな差があることがわかります。
その他の分布を見ると、100万円未満が4.5%、100~200万円未満が5.1%、200~300万円未満が3.7%と、貯蓄が少ない世帯も一定数存在します。一方で、1000~1500万円未満が11.1%、1500~2000万円未満が6.7%、2000~3000万円未満が12.3%と、まとまった資産を保有する世帯も見られます。
老後の資産額は、現役時代の収入や働き方、退職金の有無、健康状態など、さまざまな要因に影響されます。年金の受給額も、加入制度や期間によって一人ひとり異なります。
もし貯蓄が心もとない場合、年金収入だけで生活を維持するのは容易ではないかもしれません。安心して老後を過ごすためには、各世帯の状況に応じた資金計画が不可欠です。元気なうちは働き続ける、資産運用を検討するなど、早めに行動を起こすことが将来の安心につながるでしょう。
厚生年金の平均受給額は月いくら?男女差や受給者数の分布を解説
厚生労働省の「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」から、厚生年金・国民年金の平均年金月額を確認しましょう。
厚生年金の被保険者は第1号~第4号に区分されていますが、ここでは民間企業などに勤めていた人が受け取る「厚生年金保険(第1号)」(以下、記事内では「厚生年金」と表記)の年金月額を紹介します。
※記事内で紹介する厚生年金保険(第1号)の年金月額には国民年金の月額部分も含まれています。
厚生年金《平均年金月額》
- 〈全体〉平均年金月額:15万289円
- 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
- 〈女性〉平均年金月額:11万1413円
厚生年金《月額階級別受給権者》
- ~1万円:4万3399人
- 1万円以上~2万円未満:1万4137人
- 2万円以上~3万円未満:3万5397人
- 3万円以上~4万円未満:6万8210人
- 4万円以上~5万円未満:7万6692人
- 5万円以上~6万円未満:10万8447人
- 6万円以上~7万円未満:31万5106人
- 7万円以上~8万円未満:57万8950人
- 8万円以上~9万円未満:80万2179人
- 9万円以上~10万円未満:101万1457人
- 10万円以上~11万円未満:111万2828人
- 11万円以上~12万円未満:107万1485人
- 12万円以上~13万円未満:97万9155人
- 13万円以上~14万円未満:92万3506人
- 14万円以上~15万円未満:92万9264人
- 15万円以上~16万円未満:96万5035人
- 16万円以上~17万円未満:100万1322人
- 17万円以上~18万円未満:103万1951人
- 18万円以上~19万円未満:102万6888人
- 19万円以上~20万円未満:96万2615人
- 20万円以上~21万円未満:85万3591人
- 21万円以上~22万円未満:70万4633人
- 22万円以上~23万円未満:52万3958人
- 23万円以上~24万円未満:35万4人
- 24万円以上~25万円未満:23万211人
- 25万円以上~26万円未満:15万796人
- 26万円以上~27万円未満:9万4667人
- 27万円以上~28万円未満:5万5083人
- 28万円以上~29万円未満:3万289人
- 29万円以上~30万円未満:1万5158人
- 30万円以上~:1万9283人
国民年金(老齢基礎年金)の平均受給額と個人差の実情
厚生年金の加入期間がなかった人が受け取る、国民年金(老齢基礎年金)の月額についても見ていきます。
国民年金《平均年金月額》
- 〈全体〉平均年金月額:5万9310円
- 〈男性〉平均年金月額:6万1595円
- 〈女性〉平均年金月額:5万7582円
国民年金《月額階級別受給権者》
- 1万円未満:5万1828人
- 1万円以上~2万円未満:21万3583人
- 2万円以上~3万円未満:68万4559人
- 3万円以上~4万円未満:206万1539人
- 4万円以上~5万円未満:388万83人
- 5万円以上~6万円未満:641万228人
- 6万円以上~7万円未満:1715万5059人
- 7万円以上~:299万7738人
例えば、夫が厚生年金の男性平均、妻が国民年金の女性平均を受け取るモデルケースでは、世帯の合計年金額は月額22万7549円となります。
では、実際の高齢者世帯の生活には、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。総務省統計局の「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」から、「65歳以上の夫婦のみの無職世帯」の家計収支を参考に見てみましょう。
「65歳以上の夫婦のみの無職世帯」の家計収支
毎月の収入内訳:年金が占める割合
- 収入合計:25万4395円
- うち社会保障給付(主に年金):22万8614円
毎月の支出内訳:生活費と税金・社会保険料
- 消費支出:26万3979円
- 非消費支出:3万2850円
支出合計29万6829円
このモデル世帯の月間収入は25万4395円で、そのうち約9割にあたる22万8614円が公的年金などの社会保障給付です。
一方、支出の合計は29万6829円でした。内訳を見ると、税金や社会保険料などの「非消費支出」が3万2850円、食費や光熱費といった「消費支出(生活費)」が26万3979円となっています。
このケースでは、毎月の収支が約4万2000円の赤字となり、この不足分を貯蓄の取り崩しなどで補う必要があります。
年金だけで生活する高齢者世帯の割合は?国民生活基礎調査から分析
収入を公的年金だけに頼っている高齢者世帯は、どのくらいの割合で存在するのでしょうか。厚生労働省の「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」で、高齢者世帯の収入実態を確認します。
まず、高齢者世帯(※)全体の平均的な所得構成を見ると、収入の63.5%を「公的年金・恩給」が占めています。次いで、仕事による収入である「稼働所得」が25.3%、「財産所得」が4.6%と続きます。
しかし、これはあくまで全体の平均値に過ぎません。
「公的年金・恩給を受給している世帯」に限定して見ると、総所得のすべてが「公的年金・恩給」である世帯は43.4%にものぼることが明らかになっています。
※高齢者世帯:65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の者が加わった世帯
所得に占める公的年金の割合と世帯数
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が100%の世帯:43.4%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が80~100%未満の世帯:16.4%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が60~80%未満の世帯:15.2%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が40~60%未満の世帯:12.9%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が20~40%未満の世帯:8.2%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が20%未満の世帯:4.0%
このように、高齢者世帯全体で見ると稼働所得なども一定の割合を占めますが、年金受給世帯に絞ると、その半数近くが公的年金収入のみで生活しているという実態が浮き彫りになります。
高齢者の半数以上が「生活苦しい」と回答している実態
同じく厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」から、高齢者世帯(※)の生活意識を見てみましょう。
※高齢者世帯:65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の者が加わった世帯
高齢者世帯の生活意識
- 大変苦しい:25.2%
- やや苦しい:30.6%
- 普通:40.1%
- ややゆとりがある:3.6%
- 大変ゆとりがある:0.6%
調査結果を見ると、「大変苦しい」「やや苦しい」と回答した世帯は合わせて55.8%と半数を超えており、多くの高齢者世帯が生活に負担を感じていることが分かります。
一方で、「ややゆとりがある」「大変ゆとりがある」と回答した世帯は合計4.2%にとどまり、経済的なゆとりを実感している世帯は少数派です。
今回の調査結果からは、高齢者世帯の暮らしには大きな個人差があり、年金だけでは生活に十分なゆとりを確保できないケースも少なくないことがうかがえます。だからこそ、現役時代から老後の家計を意識し、計画的に備えていくことが重要になりそうです。
【元銀行員からのアドバイス】老後の安心感は、資産額だけで決まるものではない
今回は、70歳代の貯蓄額や年金受給額の平均、そして老後の生活費について、複数の公的データをもとに見てきました。平均値からは、貯蓄額や年金収入には大きな個人差があり、年金だけでは家計を賄うのが難しい世帯もあることが分かります。
私がメガバンクで退職金の運用や資産相談を担当していた際にも、「平均より多い・少ない」よりも、「自分の生活ならこのお金で暮らしていけるだろうか」という点を気にされる方が多くいらっしゃいました。老後の安心感は、資産額だけで決まるものではなく、毎月の収支や生活スタイルによっても大きく変わります。
平均額はあくまで一つの目安です。ねんきん定期便などで自分の年金見込み額を確認するとともに、現在の支出や貯蓄も踏まえながら、自分に合った老後の資金計画を考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
参考資料
三菱UFJ銀行出身。資産運用コンサルティングに従事し、全国表彰を多数受賞。現在は「LIMO」編集部で金融ライターとして年金・資産運用など金融分野の記事を精力的に企画・執筆・監修している。
