老後の生活設計を考えるうえで、公的年金制度の理解は欠かせません。
日本の年金制度は「国民年金」と「厚生年金」の2階建て構造になっており、働き方によって将来受け取れる金額が大きく異なります。
「自分はいくらもらえるのか」「制度の違いがよくわからない」といった疑問を持つ方も少なくないでしょう。
筆者はかつて証券会社で、主に富裕層や法人に向けた資産運用コンサルティングを行っていました。
富裕層の多くは、「年金の見込額」や「保有している資産の状況」などを確認し、事前に資金計画を立てている傾向にありました。
このような経験から、理想とする老後生活を目指すには今の生活だけでなく、「将来の生活」に目を向けておくことも大切だと考えています。
2026年度の年金額は4年連続で引き上げられましたが、実際の受給額はどのくらいなのでしょうか。
また、2025年に成立した年金制度改正法により、パートタイマーなどの働き方に影響する「年収106万円の壁」も見直されることになりました。
この記事では、公的年金の基本的な仕組みから最新の年金額、制度改正のポイントまで、わかりやすく解説していきます。
ご自身の将来設計の参考にしていただければ幸いです。
日本の公的年金制度の基本、「国民年金」と「厚生年金」の2階建て構造とは
日本の公的年金制度は、基礎となる「国民年金(基礎年金)」と、上乗せ部分である「厚生年金」から成り立っており、その構造から「2階建て」といわれることがあります。
ここでは、それぞれの制度の基本的な仕組みについて見ていきましょう。
1階部分にあたる「国民年金(基礎年金)」の概要
- 加入対象:原則として日本に住む20歳から60歳未満のすべての人
- 保険料:全員が定額ですが、年度ごとに改定されます(※1)
- 受給額:保険料を全期間(480カ月)納付すると、65歳以降に満額の老齢基礎年金(※2)を受け取れます。未納期間がある場合は、その分が満額から差し引かれます
※1 国民年金保険料:2026年度の月額は1万7920円です。
※2 国民年金(老齢基礎年金)の満額:2026年度の月額は7万608円です。
2階部分にあたる「厚生年金」の概要
- 加入対象:会社員や公務員のほか、パートなどで特定適用事業所(※3)に勤務し、一定の要件を満たす人が国民年金に上乗せして加入します
- 保険料:収入に応じて決まります(上限あり)(※4)
- 受給額:加入期間や納付した保険料によって、個人差が生じます
厚生年金は、会社員や公務員などが国民年金に上乗せして加入する制度です。
国民年金と厚生年金では、加入する対象者、保険料の決定方法、将来受け取る年金額の計算方法が異なります。
このため、老後に受け取れる年金額は、これまでの加入履歴や現役時代の収入によって一人ひとり変わってきます。
また、公的年金の支給額は、物価や現役世代の賃金の変動を考慮して、毎年度改定される仕組みになっています。
※3 特定適用事業所:1年のうち6カ月間以上、適用事業所の厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は除く、共済組合員を含む)の総数が51人以上となる見込みの企業などを指します。
※4 厚生年金の保険料額:標準報酬月額(上限65万円)と標準賞与額(上限150万円)に保険料率を乗じて計算されます。
2026年度の年金額改定:6月支給分から国民年金は+1.9%、厚生年金は+2.0%へ
公的年金の支給額は、物価や賃金の動きに合わせて、毎年見直しが行われています。
2026年度においては、老齢基礎年金(満額)が前年度と比べて1.9%引き上げられ、厚生年金のモデル世帯の金額も増額となり、これで4年続けてのプラス改定となりました。
2026年度の年金額
- 国民年金(老齢基礎年金・満額):月額7万608円(1人分 ※1)
- 厚生年金:月額23万7279円(夫婦2人分※2)
※1 昭和31年4月1日以前に生まれた方の老齢基礎年金(満額1人分)は、月額7万408円(対前年度比+1300円)です。
※2 男性の平均的な収入(平均標準報酬月額45万5000円・賞与含む)で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金・満額)の給付水準を指します。
国民年金だけを受給する場合、満額(※3)でも月額は約7万円です。
繰下げ受給(※4)を利用して上限の75歳まで受給開始を遅らせても、月額は13万円には達しません。
※3 国民年金(老齢基礎年金)の満額:国民年金保険料を480カ月納付した場合に、65歳から受け取れる年金額のことです。
※4 繰下げ受給:老齢年金の受給開始年齢を66歳から75歳までの間に遅らせる制度です。「繰下げ月数×0.7%」の増額率が適用され、75歳で受給を開始した場合の増額率は84%になります。
国民年金のみで生活は可能?高齢単身世帯の家計収支から考える
2026年度の国民年金(老齢基礎年金)の満額は月額7万608円ですが、「年金収入だけで老後の生活をまかなえるのか」と心配になる方も多いかもしれません。
ここでは、実際の高齢者世帯の家計収支を参考に、老後生活でどのくらいの支出が必要になるのかを見ていきます。
総務省「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」によると、2025年における65歳以上の単身無職世帯の実収入は月額13万1456円でした。
そのうち、社会保障給付(主に年金)が12万212円で、収入の約9割を占めています。
一方で消費支出は月額14万8445円あり、税金や社会保険料といった非消費支出1万2990円を合わせると、収入だけでは足りず、毎月約2万9980円の赤字となっている状況です。
支出の内訳を詳しく見ると、最も大きな割合を占めるのが「食料費」で28.7%、続いて「その他の消費支出」が21.3%、「教養娯楽費」が10.9%、「光熱・水道」が10.5%となっています。
このことから、生活費には食費や住居費だけでなく、医療費や交際費など、多岐にわたる支出が含まれることがわかります。
国民年金のみを受給している場合、満額でも月額約7万円のため、実際の生活費との間には大きな隔たりが生まれる可能性があります。
それでは、厚生年金を含めた場合、シニア世代は一人あたり実際にどのくらいの年金を受け取っているのでしょうか。
次の章では、厚生年金受給者の平均額や受給額の分布について、詳しく確認していきます。
厚生年金と基礎年金の合計で月15万円以上を受け取る人の割合は?
厚生労働省年金局が公表した「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、厚生年金受給者全体の平均月額は15万289円となっています。
この金額には、国民年金(老齢基礎年金)から支給される分も含まれている点に注意が必要です。
ここからは、厚生年金の受給額ごとに、どのくらいの人数がいるのか分布を見ていきましょう。
厚生年金の受給額別、人数分布をデータで確認
- 1万円未満:4万3399人
- 1万円以上~2万円未満:1万4137人
- 2万円以上~3万円未満:3万5397人
- 3万円以上~4万円未満:6万8210人
- 4万円以上~5万円未満:7万6692人
- 5万円以上~6万円未満:10万8447人
- 6万円以上~7万円未満:31万5106人
- 7万円以上~8万円未満:57万8950人
- 8万円以上~9万円未満:80万2179人
- 9万円以上~10万円未満:101万1457人
- 10万円以上~11万円未満:111万2828人
- 11万円以上~12万円未満:107万1485人
- 12万円以上~13万円未満:97万9155人
- 13万円以上~14万円未満:92万3506人
- 14万円以上~15万円未満:92万9264人
- 15万円以上~16万円未満:96万5035人
- 16万円以上~17万円未満:100万1322人
- 17万円以上~18万円未満:103万1951人
- 18万円以上~19万円未満:102万6888人
- 19万円以上~20万円未満:96万2615人
- 20万円以上~21万円未満:85万3591人
- 21万円以上~22万円未満:70万4633人
- 22万円以上~23万円未満:52万3958人
- 23万円以上~24万円未満:35万4人
- 24万円以上~25万円未満:23万211人
- 25万円以上~26万円未満:15万796人
- 26万円以上~27万円未満:9万4667人
- 27万円以上~28万円未満:5万5083人
- 28万円以上~29万円未満:3万289人
- 29万円以上~30万円未満:1万5158人
- 30万円以上~:1万9283人
月に15万円以上の厚生年金を受け取っている人の割合は49.8%であり、全体の半数にはわずかに届いていないことがわかります。
ちなみに、厚生年金を受給していない人も含めて計算すると、この割合はさらに下がることになります。
2025年成立の年金制度改正法:「年収106万円の壁」はどう変わるのか
2025年6月13日に成立した「年金制度改正法」には、パートやアルバイトとして働く人々の働き方に影響をおよぼす、いわゆる「年収106万円の壁」の見直しが組み込まれました。
パート・アルバイトの働き方に関わる「年収106万円の壁」の基本
「106万円の壁」とは、短時間で働く人が年収106万円を超えた場合に、社会保険(健康保険・厚生年金)の扶養から外れ、自分で保険料を支払う必要が出てくる収入の目安のことです。
保険料を支払うことで手取りが減少するため、年収がこの基準を超えないように勤務時間を調整する、いわゆる「働き控え」の一因とされてきました。
また、社会保険の適用対象となる企業の規模は段階的に拡大されており、2024年10月からは従業員数が51人以上の事業所も対象に含まれています。
今回の法改正では、「賃金要件」の撤廃と、「企業規模要件」の段階的な撤廃が盛り込まれることになりました。
社会保険の加入対象が拡大へ、短時間労働者の加入条件の見直し内容
2025年7月時点において、パートタイマーなどの短時間労働者が社会保険に加入するためには、次の5つの条件をすべて満たす必要があります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 2カ月を超える雇用の見込みがある
- 学生ではない
- 所定内賃金が月額8万8000円以上(賃金要件)
- 従業員数51人以上の企業で働いている(企業規模要件)
今回の改正によって、これらの条件のうち「賃金要件」と「企業規模要件」の2つが廃止されることになります。
いわゆる「106万円の壁」については、全国の最低賃金の動向を考慮しつつ、3年以内に撤廃される予定です。
さらに、社会保険が適用される企業の規模については、10年をかけて段階的に拡大していく見通しとなっています。
【元証券会社社員の筆者から老後に向けたアドバイス】
この記事では、2026年度の最新の年金額や、「年収106万円の壁」の撤廃に向けた法改正について解説しました。
私が証券会社で勤務していた頃、富裕層の方の多くは老後生活に向けて「自分の年金がどれくらいもらえるのか」確認している傾向にありました。
また、老後生活のためにどれくらいの資金を用意しておくとよいのか、事前に計画を立てているケースも多く見受けられました。
株式会社モニクルフィナンシャルが2026年7月2日に公表した、40歳代と50歳代を対象に行った「退職金の使い道に関する調査」の分析結果※によると、「自分の退職金額が分からない」と回答した人の割合は、投資経験者8.3%、投資未経験者14.8%となっています。
※調査対象者:株式会社モニクルフィナンシャルが提供する「3分投資診断」の利用者。40代(40〜49歳)および50代(50~59歳)のユーザーから、各年代3000名ずつ、計6000名のデータを無作為に抽出して分析。
退職金や貯蓄、公的年金などは老後の生活を支える柱となりますので、老後を迎える頃に「手元に残る資金はどれくらいあるのか」確認しておくことも大切です。
なお、2026年度は4年連続で年金額が増額されましたが、国民年金だけでは満額でも月額約7万円であり、厚生年金を合わせても月に15万円以上を受け取っている人は半数に満たないのが現状です。
加えて、2025年に成立した年金制度改正法により「106万円の壁」の見直しが進み、短時間で働く人々の社会保険加入対象が拡大されることになります。
このような制度の変更は、将来受け取れる年金の額にも影響を与える可能性があります。
年金問題を「まだ先のこと」と捉えず、ご自身の働き方や加入状況を確かめながら、早い段階で老後の資金計画を立てておくことが重要といえるでしょう。
参考資料
SMBC日興証券(旧日興コーディアル証券)出身。証券外務員一種保有。富裕層や法人に向けた資産運用コンサルティングに従事。現在は「LIMO」編集部で金融ライターとして記事の企画・執筆・監修をしている。
