この記事はここがポイント
- 「増やす」から「使える」への視点転換、確定拠出年金や債券、配当株による毎月収入の確保
- 退職後の税金・確定申告制度を知り、手元資金を守るための知識の習得
- 「増やす」と「使う」を切り離し、分散投資でリスクを抑える運用戦略
60歳代後半の男性「老後資金は準備したけど、毎月使えるお金に変えられない」―退職前のいちばんの悩み
「年金だけでは、生活費が少し心もとない」ー退職が近づくと、そんな思いを抱く方は多いのではないでしょうか。年金と預貯金で暮らしていけるとしても、ゆとりがあるとまではいえない。今回は、退職を控えた方が抱きやすい「ある一つの悩み」を入り口に、その不安とどう向き合えばよいのかを、IFAである筆者が解説していきます。
「年金に少しプラスする毎月の収入がほしい」が…
60歳代後半で退職を控えた方で、「増やしてきた資産を、毎月使えるお金にどう変えればいいのか」と悩まれる方がいらっしゃいました。年金と預貯金で当面は暮らせる見込みでも、それだけではゆとりがない。「年金に少しプラスする毎月の収入がほしい」というわけです。
これまでは、資産を「増やすこと」を中心に考えてきた方が多いものです。ところが、いざ受け取る側に立つと、事情が変わります。資産が複利などで順調に増えていても、実生活で使えるお金として手元に入ってこなければ、暮らしの足しにはなりません。
60歳代に入りいざ年金生活を前にすると、「増やすことばかりを考えてきたがどう受け取るかという視点が抜けていた…」と気づく方は少なくないのです。安全に、けれども少しは増やしながら、毎月使えるお金も確保したいーこのお金を「増やす」と「使える形にする」の間で揺れる気持ちこそが、退職を前にした方が抱えがちな悩みだといえるでしょう。
「お金を増やす」と「老後使えるようにする」を切り分けられているか
IFAの立場からみると、この悩みの根っこにあるのは「お金を増やす」と「老後使えるようにする」を一つに考えている点です。
ここに気づくと、次は「どこにお金を置くか」「振り分けのバランスはどうするか」「受け取る時の税金はどうなるか」なども考えていくことになるでしょう。退職前後はこうした判断が一度に重なりやすく、あせって大きく動いてしまいがちです。しかし、急ぐほど後悔も残りやすいものです。
大切なのは、一度にすべてを解決しようとせず、一つずつ整理していくことだと考えられます。次の章では、この“毎月使えるお金”をつくることを軸に、退職を控えた今からしたいことを、2つに分けてみていきましょう。
年金だけでは物足りないと感じたら「今からしたいこと」を現役IFAが2つアドバイス。受け取り方を考えて
悩みが尽きないときこそ、一つずつ手を打っていくことが助けになります。退職を控えた今からしたいことを解説します。
まず一つ目は、「受け取り方」を整えることです。ここが、今回の悩みの核心にあたります。
複利などで資産を増やす方法は魅力的ですが、増えても実生活で受け取りたいという希望はあるでしょう。その場合には、現役世代のうちから確定拠出年金や個人年金保険などの私的年金で備えたり、また定期的に利子を受け取れる債券や配当金を受け取れる株式などのように「定期的にお金が入ってくる」仕組みを一部に取り入れることが選択肢になるでしょう。
そのうえで、自身の資産のうち、いつ、何を、どの順番で受け取るのか、利益の確定はどれから行うのかなどを考えることになります。すべてを一括で動かす必要はありません。制度ごとの仕組みを確認しながら、部分的に受け取る、移すタイミングを見るなど、納得できる順番で一つずつ進めることが大切です。
「増やす」から「使えるかたちにする」へ、視点を切り替えるイメージです。
二つ目としては退職後の税金や確定申告を、自分事として知っておくことです。現役時代とは制度の勝手が変わり、税金などで手元に残る金額が変わることもあります。制度を知っておくことは、そのまま「お金を守る」ことにつながります。日々の値動きに一喜一憂せず、長い目で資産と向き合う姿勢も、あわせて持っておきたいものです。
退職前後の資産運用で知っておきたい、この記事に出てきた言葉
最後に本文で触れた言葉を、簡単に整理しておきます。特に「分散」の意識が重要でね。
- 分散:値動きの異なる資産に資金を分けて持つことで、一つの資産が値下がりしたときの影響をやわらげる考え方です。
- 確定拠出年金:掛金を自分で運用し、その成果を老後に受け取る年金制度です。個人型(iDeCo)や企業型があり、税制上の優遇が設けられています。
- 株式:企業が資金を集めるために発行するもので、購入するとその企業の株主になります。値上がりによる利益や配当が期待できる一方、価格は日々変動し、元本が保証されているわけではありません。
- 債券:国や企業にお金を貸し、定期的に利子を受け取れる商品です。満期には額面が戻るのが基本ですが、発行体の信用状況などによって価値が変わることもあります。
- 複利:運用で得た利益を再び運用にまわし、利益がさらに利益を生む形で増えていくしくみです。時間を味方につけるほど、効果は大きくなります。
元証券会社社員の監修者からアドバイス
ファイナンシャルアドバイザー。一種外務員資格及びAFP。SMBC日興証券出身。証券会社でのリテール営業の経験を活かし、現在はIFAとして老後資金の準備や相続相談などを得意とした個人向け資産運用コンサルティング業務を行う。
野村證券株式会社出身。FP2級・証券外務員一種を保有。国内外株式、投資信託、債券、保険商品まで幅広い資産運用に精通し、現在は経済メディア『LIMO』編集長として記事も執筆。

退職を控えて年金だけでは物足りないと感じたとき、大きな決断を一度に下す必要はありません。むしろ、あせって一気に動くことのほうが、後悔につながりやすいものです。
筆者が証券会社で勤務していた時代に感じたのは、老後のお金の不安は「受け取る・増やす・守る」を一つずつ整理していくことで軽くなるということです。
増やしてきた資産をどう受け取るか、どこに置いて増やすか、そして税や制度をどう知って守るか。焦点を分けて考えれば、いま何から手をつければよいかが見えてきます。
すべてを完璧にそろえる必要はありません。まずは、いちばん気がかりなことから一つ、整理を始めてみてはいかがでしょうか。小さな一歩の積み重ねが、退職後の暮らしの安心につながっていくはずです。