この記事はここがポイント
- 減益予想でも株価は大きく上昇、業績と評価の時間軸に乖離。
- 2026年3月期は大幅減益、翌2027年3月期も減益予想。
- 過去5期で当期利益は乱高下、TSRはTOPIXを上回る結果。
減益期の株価が、必ずしも減益率と同じ方向に動くとは限りません。市況変動を織り込んで既に評価されている銘柄では、業績が縮む局面でも株価がむしろ堅調に推移することもあります。商船三井<9104>の直近1年は、そのプロセスの縮図として受け止められる動きを見せました。
※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
それでは早速見ていきましょう。
2026年3月期通期は営業利益-15.8%、当期利益-49.9%と大幅減益で着地
2026年3月期通期の決算内容は、増収の裏で利益が大きく縮む姿となりました。
売上高は1兆8,251億円で前期比+2.8%と微増収を維持した一方、営業利益は1,270億円で-15.8%、経常利益は1,758億円で-58.1%、当期純利益は2,133億円で-49.9%と、二桁の減益で着地しています。特に経常利益が半分以下に縮んだ姿が印象的です。
同時に開示された翌2027年3月期の会社予想は、売上高2兆400億円で+11.8%と増収基調を戻す一方、営業利益1,050億円で-17.3%、経常利益1,450億円で-17.5%、当期純利益1,700億円で-20.3%と、さらなる利益後退を織り込んだ数値です。
過去5期の当期利益はピーク7,961億円から2,133億円へ、ROEも大きく低下
背景にあるのは、過去5期の利益推移が極めて大きな振幅を描いてきた点ではないでしょうか。
当期純利益は2022年3月期の7,088億円から、2023年3月期には7,961億円まで積み上がりました。海運市況の追い風が反映された過去最高水準です。
しかしそこから、2024年3月期は2,617億円、2025年3月期は4,255億円、2026年3月期は2,133億円と、ピーク比で4分の1程度の水準まで縮んでいます。年ごとの振れ幅も大きく、シクリカルな業績特性がはっきり出ている姿として読み取れます。
ROEも2022年3月期の76.5%(当期に一過性要因が絡んだ極端値)から、直近の2026年3月期には7.67%まで低下しました。
業種内での相対水準を見ますと、海運業11社(2026年3月期)のROE中央値は7.6%、営業利益率中央値は7.0%です。同社のROE 7.67%、営業利益率7.0%(1,270億円÷1兆8,251億円)は、いずれも中央値と近似の水準に落ち着きました。市況ピーク時の突出した水準は消え、業種平均並みに戻ってきた位相です。
配当は減益局面で振れる、DOEは中央値並みに
見るべきは、こうした利益振幅の中で配当政策もダイナミックに動いてきた点ではないでしょうか。
分割調整後の1株配当は2022年3月期の399円から、2023年3月期560円まで積み上がったのち、2024年3月期220円、2025年3月期360円、2026年3月期200円と、増減を繰り返しています。翌2027年3月期は205円が予想されています。市況連動性の高い還元スタイルとして読み取れます。
純資産配当率(DOE)は2.39%と、海運業中央値の2.36%とほぼ同水準です。絶対的な還元厚みは業種内で平均並みの位置にあります。
株価は1年で大きく上昇、2026年3月末には6,000円台のピークへ
株価の直近1年(月末終値ベース、参照期間は2025年8月末〜2026年7月執筆時点)の推移は、業績局面と対応した動きではなく、むしろ逆行の姿となりました。
2025年8月末は4,700円台で推移していた後、緩やかな上下を経て、2026年1月末から急伸に転じ、2026年3月末には直近1年の中で最も高い水準である6,000円台後半まで一気に切り上がりました。
その後は下押しに転じ、2026年5月末〜6月末にかけて5,000円台前半まで戻す場面がありましたが、2026年7月には再び5,900円台まで戻しています。起点の2025年8月末と直近を比べますと、1年トータルでは大きな上昇となりました。
過去5年で見た株主総利回り(TSR)は6.14倍と、同期間のTOPIX 2.02倍を引き離しています。業績が縮んだ期でも、株価はむしろ市況次期の回復期待や割安感の見直しを織り込んで動いた姿と考えられます。
筆者コメント
一般に「海運業は市況次第で業績が乱高下する典型的なシクリカル業種」というイメージが先に立ちます。同社の過去5期の当期利益推移や配当のジグザグ動きは、まさにその通念どおりの姿を示しています。
しかし、業績が縮んだ期でも株価がむしろ大きく上昇したという点は、通念だけでは捉えにくい局面と読み取れます。市況の底打ちや次サイクルの立ち上がりを織り込む動きとも解釈できますし、割安感の見直しが進んだ結果とも受け止められます。翌期予想が減益織り込みでも株価が堅調というギャップは、業績実績と株価評価の時間軸が異なる姿とも言えるでしょう。
シクリカル銘柄を眺めるときは、単一期の業績数値だけでなく、市況サイクルの位相と株価が織り込んでいる時間軸を同時に見ていく着眼点が有効ではないでしょうか。
免責事項
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オリックスなどの国内金融機関出身。日本株アナリストおよび財務アドバイザーとして決算分析や資金調達を主導。「日経CNBC」出演などメディアを通じた相場解説の実績も豊富。企業財務に精通し、現在はモニクルリサーチで金融ニュースの深掘り記事を発信。
