筆者はファイナンシャルプランナーとして、これまで多くのお客様から老後資金やセカンドライフに向けたお金の相談業務をしてきました。その現場で強く感じるのは、「60歳で完全にリタイアする」という選択をする方が年々減っているという事実です。
実際に最新のデータを見ても、多くの方が還暦以降も働き続ける道を選んでいます。本記事では、現代のシニア世代がどのような経済状況にあり、なぜ働き続けるのか、最新の調査データをもとにリアルな実態を紐解いていきます。
「還暦=リタイア」は昔の話?働くシニア「60歳代前半の男性8割超、女性6割超」
内閣府「令和8年版高齢社会白書」では、シニア層が社会で活躍し続ける傾向が明確に表れています。令和7年の労働力人口のうち、65歳以上の割合は13.7%を占めており、長期的にも上昇傾向にあります。
労働力人口の推移
この「長く働く」という社会全体のトレンドは、60歳代前半(60〜64歳)のデータを見るとさらに顕著です。年齢階級別の就業率において、60歳代前半は男性の84.1%、女性の65.8%が就業しており、還暦を過ぎても多くの方が現役として仕事を持っていることが分かります。
これほど多くの方が働き続ける背景には、還暦からのセカンドライフが以前よりずっと長くなったことも挙げられます。簡易生命表によると60歳時点の平均余命は男性約24年、女性約29年。定年や還暦はもはやゴールの標識ではなく、20年以上続くセカンドライフの「新たなスタートライン」と言えるでしょう。
「還暦人の貯蓄は二極化」平均1343万円・中央値300万円、投資ゼロの人は過半数!
還暦を過ぎても多くの方が働き続ける背景には、健康で活動できる期間が延びたことだけでなく、セカンドライフに向けた「経済的な備え」の実態も関係しているようです。
PGF生命(プルデンシャル ジブラルタ ファイナンシャル生命保険株式会社)が今年還暦を迎える1966年生まれの男女2000名を対象に実施した「2026年の還暦人に関する調査」によると、現代シニアのリアルな経済事情が浮き彫りになりました。対象となる1966年生まれは全国で約130万人にのぼります。
これからの働き方や暮らしの基盤となるお金の準備状況には、それぞれの状況によって大きな違い(二極化)が生じていることが分かります。
貯蓄額の実態:進む二極化
現段階での貯蓄金額(配偶者がいる場合は夫婦2人分)を見ると、平均値と中央値に大きな差があり、蓄えの二極化が顕著に表れています。
現段階の貯蓄額
- 貯蓄金額の平均値:1343万円
- 貯蓄金額の中央値:300万円
一部の人が平均額を大きく引き上げている実態は、分布の割合を見るとより鮮明になります。
最も多かった回答は「100万円未満(31.8%)」で、全体の半数以上(54.3%)が「500万円未満」にとどまっています。その一方で、「2000万円以上」の資産を保有する層も全体の約2割(20.1%)存在しています。
「投資をしていない人」が過半数も「投資をする人」は手厚く
株式や投資信託といった資産運用への取り組みについても、スタンスの違いが明確に出ています。
現段階の投資金額
- 投資を行っていない人(0円):53.1%
- 投資を行っている人:46.9%
投資をしていない「投資ゼロ」の人が過半数を占める一方で、投資を行っている層(46.9%)に絞って金額を見ると、平均値は1729万円、中央値は500万円でした。運用をしている人は、セカンドライフを見据えてかなりまとまった資金をアクティブに動かしている様子がうかがえます。
このように、還暦を迎えるタイミングでの経済基盤には明らかな二極化が見られます。定年後も長く働き続けるという選択は、「社会と関わり続けたい」という前向きな思いはもちろんのこと、それぞれの資産状況に合わせて暮らしを支えていくための、現実的な手段としての側面も大きいと言えそうです。
まとめにかえて
現代の60代の実態を見ていくと、働き方だけでなく蓄えの部分でも大きな個人差が生じていることが分かります。貯蓄や投資の状況が「二極化」する中、長く働き続けることは、やりがいだけでなく家計を守るための強力な手段となっています。人生100年時代と言われる今、還暦はまさに新しい人生のスタートラインです。まずはご自身の資産状況を正確に把握し、無理のない範囲で働き方やマネープランを見直してみてはいかがでしょうか。早めの準備と現状把握が、安心できるセカンドライフへの第一歩となります。
参考資料
日本生命保険相互会社出身。元マネースクール講師、現役FP(CFP®・1級FP技能士)でJ-FLEC認定アドバイザー。保険から年金、資産運用まで幅広い知見を持ち、「お金の先生」としてLIMO&ファイナンス編集部にてわかりやすく信頼できる記事をお届けします。
