この記事はここがポイント
- 2026年1月からの退職所得控除「10年ルール」改正は、年金が少ない層の退職金手取り減で二重の負担となる点。
- 厚生年金平均月額は15万289円、約2割が月10万円未満で、平均値と実態にズレがある現状。
- 2026年1月1日以降、iDeCo等と退職金の満額控除には、受給間隔を10年以上空ける必要性。
7月に入り本格的な暑さが間近に迫っていますね。例年猛暑が続く中、体調には気をつけたいものです。
夏休みに入ると家族サービスや帰省する方も多いですが、近年のインフレで交通費だけでも大きな出費となる方もいるでしょう。
物価上昇は特に年収が一般的に下がる年金生活者にとっては大きな負担となります。
筆者はファイナンシャル・アドバイザーとして日々お金の相談を受けますが、現役世代の方は年金がどのくらいもらえるのか知らない方が多いです。
知っている方も多いかもしれませんが、2026年1月から、退職金とiDeCo・企業型DCを両方受け取る際の「退職所得控除」のルールが変わりました。
多くの解説記事では「受け取る間隔を10年以上空けましょう」という一般論で終わっていますが、私はこの改正が特に厚生年金の受給額が少ない層に重くのしかかると見ています。今回はその理由を、年金の受給額分布データと照らし合わせながら解説します。
今回は将来のご自身にも直結する年金について詳しく解説していきます。
厚生年金と国民年金の合計で「月15万円以上」もらえる人はどのくらいの割合か
厚生労働省年金局が公表した「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金受給者(男女計)の平均年金月額は15万289円です。
この金額には、1階部分である国民年金(老齢基礎年金)の額も含まれている点に注意が必要です。
先に結論から言うと、月15万円以上もらえている人はおよそ6割にとどまり、平均額だけを見て「みんな15万円前後もらえている」と考えるのは実態とズレがあります。
受給額階級別の人数分布は、以下のようになっています。
厚生年金の受給額別・受給権者数の分布
厚生年金の受給額
- 1万円未満:4万3399人
- 1万円以上~2万円未満:1万4137人
- 2万円以上~3万円未満:3万5397人
- 3万円以上~4万円未満:6万8210人
- 4万円以上~5万円未満:7万6692人
- 5万円以上~6万円未満:10万8447人
- 6万円以上~7万円未満:31万5106人
- 7万円以上~8万円未満:57万8950人
- 8万円以上~9万円未満:80万2179人
- 9万円以上~10万円未満:101万1457人
- 10万円以上~11万円未満:111万2828人
- 11万円以上~12万円未満:107万1485人
- 12万円以上~13万円未満:97万9155人
- 13万円以上~14万円未満:92万3506人
- 14万円以上~15万円未満:92万9264人
- 15万円以上~16万円未満:96万5035人
- 16万円以上~17万円未満:100万1322人
- 17万円以上~18万円未満:103万1951人
- 18万円以上~19万円未満:102万6888人
- 19万円以上~20万円未満:96万2615人
- 20万円以上~21万円未満:85万3591人
- 21万円以上~22万円未満:70万4633人
- 22万円以上~23万円未満:52万3958人
- 23万円以上~24万円未満:35万4人
- 24万円以上~25万円未満:23万211人
- 25万円以上~26万円未満:15万796人
- 26万円以上~27万円未満:9万4667人
- 27万円以上~28万円未満:5万5083人
- 28万円以上~29万円未満:3万289人
- 29万円以上~30万円未満:1万5158人
- 30万円以上~:1万9283人
厚生年金の平均受給月額は約15万円ですが、受給額を分布で見ると、月10万円未満の受給者は全体のおよそ2割を占めます。一方で「月15万円以上」もらえている人は、15万円以上の各階級の人数を合計するとおおむね全体の6割程度にとどまります。
つまり、平均値だけを見て「年金は月15万円もらえる」と考えるのは実態とズレがあり、少なくとも4割前後の人はそれより少ない水準で老後を迎えているということです。
なぜこの分布が「退職金の受け取り方」と関係するのか
一見、年金の受給額分布と退職金の税制改正は別々の話に見えます。しかし私は、この2つには次のような構造的なつながりがあると考えています。
厚生年金の受給額が月10万円台前半にとどまる層は、老後の生活費を年金収入だけで賄いきれず、退職金やiDeCo・企業型DCの一時金を「取り崩して生活費に充てる」性格が強くなります。こうした層ほど、退職所得控除を満額使えるかどうかが手取り額に直結しやすく、控除が目減りした分がそのまま生活水準の低下につながりやすいと考えられます。
一方、年金額が多い層は退職金を必ずしも生活費の補填として使う必要がなく、控除が多少縮小しても資産全体への影響は相対的に小さくて済みます。
つまり、退職所得控除の増税は「一律にお金持ちが損をする話」ではなく、むしろ年金だけでは足りない層が、退職金の手取りを減らされることで二重に苦しくなるという側面を持っていると考えられます。
「10年ルール」の中身をおさらいする
2025年12月31日までは、iDeCoや企業型DCの一時金を先に受け取り、その5年後に会社の退職金を受け取れば、双方で退職所得控除を満額使うことができました。
2026年1月1日以降は、この重複判定の対象期間が「前年以前9年以内(=実質10年未満)」に延長されました。60歳でiDeCoを一時金として受け取り、65歳で退職金を受け取るという、これまで典型的だった受け取り方をすると、間隔が5年しかないため新ルールに引っかかり、退職金側の控除額が減額されてしまいます。
満額の控除を両方で使うには、原則として受け取り間隔を10年以上空ける必要があります(60歳でiDeCo、70歳で退職金など)。
現役FAからまとめにかえて
ここまで年金やiDeCoについて一緒に見てきました。
筆者の相談者の中には、「全く何もわからなくて申し訳ないのですが」と切り出す方は少なくありません。そういった方には、まず現状を「知る」ところから一緒に進めていきます。年金額はどのくらいもらえるのか、老後資金は人それぞれ変わるので、その人にとってはどのくらい必要になってくるのか。
運用を取り入れるのであればどんな運用方法があって何が自分に合っているのか。こういったことをひとつひとつ順番に確認していくことで、老後に向けた資金準備への道が徐々に開けてきます。
今回の記事を参考に、まずはご自身の「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で見込み受給額を確認し、勤務先の退職金制度・iDeCo/企業型DCの受け取り時期を、10年ルールを踏まえてどう組み合わせるのが有利かを一度シミュレーションしてみることをおすすめします。
判断に迷う場合は、税理士やファイナンシャル・アドバイザーなど専門家に相談することも選択肢の一つです。
「平均」で語られる年金・退職金の話を、自分の分布で捉え直す
厚生年金は平均で見れば月15万円ですが、実態は大きな個人差があり、5人に1人は月10万円未満です。
この受給額の差は、単に「老後の余裕度」の違いにとどまらず、退職金・iDeCoをいつ・どう受け取るべきかという判断にも影響するでしょう。
制度の解説を読むときは、「10年空ければ得」という一般論だけでなく、自分自身の年金見込み額と照らし合わせ、「そもそも10年待てる家計状況にあるか」まで含めて考えることが、実質的な手取りを守ることにつながるはずです。
参考資料
- 総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」
- 日本年金機構「令和7年4月分からの年金額等について」
- J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」
- 厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
- 国税庁「退職金を受け取ったとき(退職所得)」
- 国税庁「源泉徴収のための退職所得控除額の表(令和8年分)」
- 国税庁「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」
- 国税庁「No.2735 同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき」
- 厚生労働省「iDeCoの概要」
ファイナンシャルアドバイザー。一種外務員資格、FP2級、TLC保有。ジブラルタ生命及びほけんの窓口グループ出身。約2000世帯の相談実績。投資と保障のバランスを重視するスタイル。現在はIFAとして個人向け資産運用サービス企業にて、資産運用コンサルティング業務を行う。
三菱UFJ銀行出身。資産運用コンサルティングに従事し、全国表彰を多数受賞。現在は「LIMO」編集部で金融ライターとして年金・資産運用など金融分野の記事を精力的に企画・執筆・監修している。

「年金が少ない人ほど、退職金を早く使いたくなる」というジレンマ
年金受給額が少ない人ほど、60代前半の生活費を退職金やiDeCoの取り崩しに頼らざるを得ず、「10年待つ余裕」自体がそもそもないというジレンマもあります。
制度としては「10年空ければ控除を満額使える」と説明されますが、これは裏を返せば「10年待てる資金的余裕がある人だけが、この制度のメリットを最大限享受できる」ということでもあります。
年金が少なく、60代前半の生活費を退職金の取り崩しに頼らざるを得ない人ほど、控除が目減りした状態で受け取らざるを得なくなりやすい。これが今回の改正の、あまり語られていない副作用だと考えています。