この記事はここがポイント
- 国民年金保険料の未納は、将来の無年金化や保障喪失の大きなリスク。
- 月1万7920円の保険料が困難な場合、5つの免除・猶予制度の利用が可能。
- 免除・猶予期間の保険料は、10年以内の追納で年金額増額の道。
物価の高騰や急な収入の減少などにより、毎月の国民年金保険料の支払いが重くのしかかっている方も多いのではないでしょうか。
令和8(2026)年度の国民年金保険料は月額1万7920円となっており、決して小さな負担ではありません。
「今は苦しいから…」と、つい支払いを後回しにして「未納」のまま放置してしまうと、将来の年金が受け取れなくなるばかりか、万が一の際の保障まで失ってしまうリスクがあります。
日々、金融メディアで暮らしに密着したマネー情報を発信している筆者の周りでも、「家計が苦しくて年金まで手が回らない」といったリアルな声をよく耳にします。
年金というと「老後のためのもの」と思われがちですが、現役世代にとっても、公的年金は不測の事態に対する重要な備えとなります。保険料の納付が難しい方のために、公的年金には「免除」や「猶予」の制度がしっかりと用意されています。
本記事では、公的年金の基本構造や平均受給額のデータをおさらいしつつ、保険料が払えないときに知っておきたい「5つの免除・猶予制度」について解説します。
記事の後半には、ひと目でわかる「影響マトリックス(早見表)」もまとめていますので、ご自身の生活設計と照らし合わせながら一緒に見ていきましょう。
生活費のやりくりで精一杯なとき、年金保険料の支払い、つい後回しにしたくなるかもしれません。
でも、支払いが苦しい時に免除や猶予の制度を利用することは、正当な権利です。
公的年金のしくみは複雑でわかりにくいものが多いですが、現役世代にとってもまさかの時の「セーフティーネット」となる制度。
年金保険料の支払いが難しい場合、どんな救済措置があるのかをしっかり確認しておきましょう。
国民年金「月1万7920円」の重圧。シニア世代のリアルな平均受給額はいくら?
日本の公的年金制度は、「2階建て構造」に例えられます。
公的年金制度は2階建て
1階部分(国民年金・基礎年金)
原則として、日本国内に住む20歳から60歳未満のすべての人が加入する制度です。
全員一律の保険料を納め、将来定額の基礎年金を受け取ります。
2階部分(厚生年金)
会社員や公務員などが、国民年金に上乗せして加入する制度です。現役時代の給与(報酬)に応じて保険料が変わり、将来受け取る年金額も変動する「報酬比例」となっています。
自営業者やフリーランス、無職の方などは「第1号被保険者」として、この1階部分(国民年金)のみに加入することになります。
実際のシニア世代は月々いくらの年金を受け取っているのでしょうか。最新のデータから「平均受給額」を見てみましょう。
国民年金の平均受給月額
【円グラフ】男女別:国民年金月額分布
国民年金(老齢基礎年金)の男女全体の平均月額は5万9310円です。
男女別に見ると、男性の平均が6万1595円、女性の平均が5万7582円となっています。
ちなみに、40年間すべて保険料を納付した場合の「満額」は、月額7万608円(令和8年度)です。
厚生年金の平均受給月額
【円グラフ】男女別:厚生年金月額分布
全体の平均は月額15万289円です。
ただし男女差が大きく、男性の平均が16万9967円であるのに対し、女性の平均は11万1413円にとどまっています。
特に国民年金のみに加入している方にとって、将来の年金額を満額に近づけることは老後の生活資金を確保する上で大切なポイントとなります。
払えないからと「未納」で放置する人が負う”2つの大きなリスク”
年金保険料の支払いが厳しいとき、何の手続きもせずに「未納」のまま放置することは避けたいところ。
未納には、主に以下の2つのリスクが潜んでいます。
①将来、老齢年金がまったく受け取れなくなるリスク
老齢基礎年金を受け取るためには、保険料を納付した期間や免除された期間などを合算して「10年以上(受給資格期間)」あることが条件となります。
未納期間はこの10年にカウントされないため、期間が足りずに将来「無年金」になってしまう恐れがあります。
②障害年金・遺族年金が受け取れなくなるリスク
公的年金は老後のためだけの制度ではありません。
病気やケガで障害が残ったときの「障害基礎年金」や、一家の働き手が亡くなったときの「遺族基礎年金」という保障機能を持っています。
しかし、未納のまま放置していると、いざという時にこれらの年金を受け取るための「保険料納付要件」を満たせず、給付が受けられない事態に陥ってしまいます。
年金は老後にもらうだけじゃない、現役時代の「万が一」の際のセーフティーネットでもある点をぜひ心に留めておきましょう。
病気やケガで働けなくなったとき、「障害年金」や「遺族年金」はあなたと家族の生活を支える大切な基盤になります。
民間の保険を検討する前に、まずは公的な保障を確保しておくことが家計管理の基本です。
こうした事態を防ぐために用意されているのが、次に紹介する「免除・猶予制度」です。
【知っておこう】年金保険料が払えないときに使える「5つの救済制度」
経済的な理由などで保険料の納付が困難な場合、申請手続きを行うことで支払いの免除や猶予を受けることができます。
ご自身の状況に合わせて活用を検討しましょう。
① 全額〜4分の1まで!所得に応じた「保険料免除制度(申請免除)」
本人・世帯主・配偶者の前年所得が一定額以下の場合、申請により保険料の納付が免除される制度です。
免除される割合に応じて「全額免除」「4分の3免除」「半額免除」「4分の1免除」の4種類があります。
一部免除(4分の3〜4分の1)の承認を受けた場合は、残りの減額された保険料を必ず納付する必要があり、納付しないと未納扱いになる点に注意が必要です。
② 50歳未満なら親と同居でも使いやすい「保険料納付猶予制度」
20歳以上50歳未満の方で、本人および配偶者の前年所得が一定額以下の場合に、申請により保険料の納付が「猶予(先送り)」される制度です。
免除制度とは異なり「世帯主」の所得は問われないため、親と同居している方なども利用しやすい制度設計になっています。
③ 社会人になってから後払いでOK!学生の特権「学生納付特例制度」
20歳以上の学生であって、学生本人の所得が一定額以下の場合に、在学中の保険料の納付が猶予される制度です。
社会人になってから後払いで納めることができるため、多くの学生が利用しています。
④ 生活保護や障害年金(2級以上)受給者向けの「法定免除制度」
生活保護の「生活扶助」を受けている方や、障害基礎年金・被用者年金の障害年金(2級以上)を受けている方などが対象となる制度です。要件に該当した場合、届け出を行うことで保険料が全額免除されます。
⑤ 失業や倒産、産前産後を守る「その他の特例免除」
失業等による特例免除
失業や倒産、事業の廃止などを理由とする場合、特例として免除や納付猶予を受けやすくなる仕組みがあります。
産前産後期間の免除制度
出産予定日または出産日が属する月の前月から4カ月間(多胎妊娠の場合は3カ月前から6カ月間)の国民年金保険料が免除されます。
この期間は「保険料を全額納付したもの」として扱われます。
【早見表】納付・免除・猶予・未納でこんなに違う!将来への「影響マトリックス」
それぞれの制度を利用した場合、将来の年金受給に向けてどのような影響があるのでしょうか。
「①受給資格期間(もらうための10年のカウント)」「②将来の年金額への反映」「③万一の際の遺族・障害年金をもらうための加入要件」の3つの視点からまとめました。
【早見表】納付・免除・猶予・未納による将来への影響
【早見表】納付・免除・猶予・未納でこんなに違う!将来への「影響マトリックス」
納付(全額)/ 産前産後期間の免除
最も手厚い状態です。産前産後期間は、支払っていなくても「全額納付」と同じ扱いになります。
- ①受給資格期間: 算入される
- ②将来の年金額: 満額で反映される
- ③遺族・障害年金: 算入される
全額免除 / 法定免除
保険料を納めなくても、手続きさえしていれば国庫負担(税金)により年金額が一部保障されます。
- ①受給資格期間: 算入される
- ②将来の年金額: 一部反映される(全額納付時の2分の1 ※1)
- ③遺族・障害年金: 算入される
一部免除(4分の3、半額、4分の1免除)※2
減額されたあとの保険料をきちんと納付している状態です。
- ①受給資格期間: 算入される
- ②将来の年金額: 一部反映される(免除の割合に応じて反映 ※3)
- ③遺族・障害年金: 算入される
納付猶予 / 学生納付特例
支払いを「先送り(猶予)」している状態です。
万が一の保障や受給資格にはカウントされますが、そのままでは年金額には反映されません。
- ①受給資格期間: 算入される
- ②将来の年金額: 反映されない(※あとから追納しないと増えません)
- ③遺族・障害年金: 算入される
未納
手続きをせずに放置している、最もリスクの高い状態です。
将来の年金だけでなく、いざという時の保障も受けられなくなります。
- ①受給資格期間: 算入されない
- ②将来の年金額: 反映されない
- ③遺族・障害年金: 算入されない
このまとめからわかる最大のポイントは、免除や猶予の手続きさえきちんとしておけば、「受給資格期間」や「万一の際の障害・遺族年金の受給要件」にはしっかりと算入されます。
未納のまま放置した場合と比較すると、大きな差であることが分かります。
※1:平成21年4月以降の免除期間の場合。国庫負担分(税金)として全額納付時の2分の1の年金額が保障されます。 ※2:一部免除は、減額されたあとの保険料を納付していることが条件です(未納の場合は無効になります)。 ※3: 平成21年4月以降の場合。4分の3免除(1/4納付)は5/8、半額免除(半額納付)は6/8、4分の1免除(3/4納付)は7/8が年金額に反映されます。
「免除=年金が減る」は誤解?あとから「追納」して満額に近づける裏ワザ
免除や猶予の期間は年金額が一部カット、または全く反映されなくなってしまいます。
しかし、免除や猶予を利用したからといって、必ずしも将来の年金額が減ったままになるわけではありません。
免除や納付猶予、学生納付特例の承認を受けた期間の保険料は、10年以内であればあとからさかのぼって納付する「追納(ついのう)」が可能となっているためです。
生活にゆとりができたタイミングで追納を行えば、その期間は「保険料を全額納付した」ことになり、将来の老齢基礎年金を満額に近づけることができます。
ただし、承認された年度の翌々年度を過ぎてから(免除を受けた翌年度から起算して3年度目以降に)追納する場合は、当時の保険料に一定の加算金が上乗せされて高くなってしまうため、なるべく早め(翌々年度まで)に追納することをおすすめします。
まとめ:年金は現役世代を守る「お守り」。払えないときこそ早めの手続きを
公的年金は、老後だけではなく現役世代の「万が一のとき」を支えるセーフティーネットの機能も持っています。
保険料の支払いが難しいと感じたときは、未納のまま放置せず、お住まいの市区役所や年金事務所に相談し、免除や猶予の申請手続きを行いましょう。
制度を正しく理解し、適切に活用することが、将来の生活設計への第一歩となります。
支払いが苦しい時に免除や猶予の制度を利用することは、正当な権利です。
状況に応じて利用できる公的制度は適切に申請していくべきでしょう。将来の不利益を避け、いざという時の「セーフティーネット」を維持するためにも、一人で悩まず確実な手続きを行ってくださいね。
参考資料
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早大卒。証券外務員二種・相続診断士。15年の書籍校閲で培ったファクトチェック力を武器に、一次資料に基づく「お金と暮らし」の分析記事を担当する編集記者。認知症介護経験をいかし、読者目線に立った情報発信も。
PROFILE
【保有資格】 二種外務員資格(証券外務員二種)、相続診断士、認知症介助士、終活ガイド1級
【経歴】 早稲田大学第一文学部卒業。
二種外務員資格(証券外務員二種)を保有し、15年以上にわたる書籍校閲で培った「ファクトチェック力」を武器に、現在は株式会社モニクルリサーチLIMO編集部に所属、くらしとお金の経済メディア『LIMO』にてパーソナルファイナンス系記事の編集・執筆を担当。
厚生年金保険・国民年金、貯蓄、家計管理など暮らしに不可欠なテーマについて、厚生労働省・日本年金機構・総務省などの一次データをもとに読み解く分析記事を得意とする。
プライベートでは認知症の家族介護に直面し、ビジネスケアラーとして仕事と家庭の両立に葛藤した経験を持つ。大手人材派遣会社の採用管理部門での就業経験もあり、仕事と実生活を通じて「就業と将来設計の密接な関係」を痛感している。
長年の紙媒体で培った編集力に、一人の生活者としてのリアルな実体験を掛け合わせ、読者目線に立った信頼性の高い情報を発信。執筆記事はYahoo!ニュース「経済ランキング」で多数の1位を獲得している。
