内閣府の最新データ「令和8年版高齢社会白書」によると、シニア世代の就業率は上昇を続けており、65〜69歳では54.5%(2人に1人以上)が働いています(70〜74歳:36.2%、75歳以上:12.6%)。
筆者が銀行員だった頃、年金をもらいながら働く多くのお客様とお話ししてきました。
働く理由は「生活にゆとりを持たせたい」という現実的なものから、「仕事が楽しい」「新たな挑戦をしたい」という前向きなものまでさまざまです。
さて、働きながら年金をもらうなら、絶対に知っておくべきなのが「在職老齢年金制度」です。
仕組みを知らないと、せっかく働いたのに年金をカットされて損をしてしまうことも。
この、年金が減額され始める基準額が、2026年4月の法改正により、これまでの51万円から「65万円」へと大幅に引き上げられました。
「自分はいくらまでなら損せず働ける?」今回は月15万円の年金を受け取る方を例に、年金が減り始める月収と、全額停止になるボーダーラインを具体的な数字でわかりやすく解説します
在職老齢年金とは、働きながら年金をもらうと「調整」が入る仕組み
在職老齢年金制度とは、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受け取っている60歳以上の方が対象の制度です。
毎月の賃金(標準報酬月額)と賞与(1年分を12分割した額)を合算した「総報酬月額相当額」と、受け取っている老齢厚生年金の「基本月額」の合計が一定の基準額を超えると、年金の一部または全部が支給停止されます。
注意したいのは、調整の対象になるのは「老齢厚生年金(報酬比例部分)」のみという点です。
国民年金(老齢基礎年金)は調整の対象外で、収入がいくら高くても全額受け取れます。
- 基本月額:加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額
- 総報酬月額相当額:月の標準報酬月額+(その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷12
2026年4月の改正:基準額が51万円から65万円に引き上げ
令和7年年金制度改正法に基づき、2026年4月から在職老齢年金の基準額が変わりました。
在職老齢年金制度(2026年4月から改定)
- 改正前(2026年3月まで):基本月額+総報酬月額相当額の合計が51万円を超えると調整が入る
- 改正後(2026年4月から):基本月額+総報酬月額相当額の合計が65万円を超えると調整が入る
14万円分の「枠」が広がったことで、これまで年金が減らされていた方の中に、2026年4月以降は全額受け取れるようになった方もいます。
この改正は「働き続けることを希望する高齢者の活躍を後押しする」ことを趣旨としています。
なお、基準額の65万円は令和8年度の水準で、毎年度、賃金の変動に応じて改定されます。
2026年4月以降の計算式
- 基本月額+総報酬月額相当額の合計が65万円以下の場合 → 全額支給
- 基本月額+総報酬月額相当額の合計が65万円を超える場合 → 基本月額 -(基本月額+総報酬月額相当額 - 65万円)÷ 2
年金月額15万円の場合:月収いくらで支給停止になる?
厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金(基礎年金を含む)の平均年金月額は15万289円です。
そこで、月15万円の年金を受け取っている方を例に、在職老齢年金制度により月収いくらで年金が支給停止になるのかを試算していきます。
月15万円の年金のうち、老齢基礎年金(2026年度満額)が月7万608円とすると、調整の対象になる老齢厚生年金(基本月額)は残りの約7万9392円(約8万円)です。
年金が減り始める月収のライン
基本月額8万円の場合、全額受け取れる条件は以下の通りです。
8万円(基本月額)+ 総報酬月額相当額 ≦ 65万円
つまり、総報酬月額相当額が57万円以下であれば、年金は全額受け取れます。ボーナスがない場合は月給57万円以下が目安です。
月収ごとの年金支給額シミュレーション(ボーナスなし・基本月額8万円の場合)
- 月収57万円以下:老齢厚生年金は全額支給(8万円)
- 月収60万円:8万 -(8万+60万 - 65万)÷2 = 6万5000円(1万5000円が支給停止)
- 月収65万円:8万 -(8万+65万 - 65万)÷2 = 4万円(4万円が支給停止)
- 月収70万円:8万 -(8万+70万 - 65万)÷2 = 1万5000円(6万5000円が支給停止)
- 月収73万円以上:老齢厚生年金は全額支給停止(0円)
月収が57万円を超えると年金の減額が始まり、月収73万円以上になると老齢厚生年金は全額停止となります。ただし、老齢基礎年金(月約7万円)はどの収入水準でも全額受け取れます。
また、ボーナスがある場合は「直近1年間のボーナス合計を12で割った額」が月収に加算されるため、月給が同じでも総報酬月額相当額が変わります。賞与が多い方は、年間を通じた総報酬月額相当額で判断することが大切です。
【参考】在職老齢年金 支給停止額早見表
在職老齢年金 支給停止額早見表
知っておきたい「在職定時改定」と「退職改定」
在職老齢年金には、関連する仕組みが2つあります。
在職定時改定
在職定時改定
65歳以上70歳未満で厚生年金に加入しながら年金を受け取っている方は、毎年9月1日時点での加入実績をもとに10月分の年金額が見直されます。働きながら保険料を納め続けることで、年金額が少しずつ増えていく仕組みです
退職改定
厚生年金に加入しながら年金を受け取っている70歳未満の方が退職して1カ月を経過した場合、退職翌月分から年金額が見直されます。
退職後は支給停止がなくなり、退職までの加入期間が年金額に反映されます
働き続けることが「今もらえる年金が減る」だけでなく、「将来の年金額を増やす機会」にもなるという点は、見落としがちなポイントではないでしょうか。
まとめ
2026年4月からの改正で、在職老齢年金の基準額は51万円から65万円に引き上げられました。
年金月額15万円(老齢厚生年金部分が約8万円)の方の場合、月収が57万円以下であれば年金は全額受け取れ、73万円以上になると老齢厚生年金は全額停止となります。
ただし、これはボーナスがない場合の目安です。実際にはボーナスの有無や額によって総報酬月額相当額が変わるため、自分の状況に応じた確認が必要です。
日本年金機構のウェブサイトでは、早見表や計算ツールも提供されています。
「自分はいくらまで働けるのか」を具体的な数字で把握してから、働き方を考えてみてはいかがでしょうか。
参考資料
三菱UFJ銀行・三井住友信託銀行で15年以上のキャリアを築き、自身も20年以上の投資経験を持つ。現在は株式会社モニクルリサーチが運営する『LIMO』でお金に関する記事を企画・執筆・監修中。
