7月7日にリスクモンスター株式会社が公表した「平成から令和の社会経済変化に関する意識調査」によると、過去9年間で最も大きな変化と感じるものとして「急激な物価上昇」を挙げた人が43.5%にのぼり、最多となりました。
物価高の影響で将来のお金に対する意識が高まる中、老後の生活の柱となる公的年金について、「一体いくら支給されるのか」「その金額だけで暮らしていけるのか」と、不安を抱いている方は多いでしょう。
かつて私がメガバンクの窓口でお客さまの資産形成やライフプランをサポートしてきた経験からも、まずはご自身の将来の目安を客観的なデータで知ることが、漠然とした不安を解消する第一歩だと実感しています。
年金の支給額は一律ではなく、現役時代の収入や加入している年金制度の区分によって大きな差が生まれます。
特に、自営業などの国民年金のみの期間と、会社員として厚生年金にも加入していた期間とでは、将来受給できる総額が大きく異なります。
この記事では、日本の公的年金制度の仕組みをおさらいしながら、「平均年収400万円・38年間勤務」という条件をベースに、将来受け取れる年金額の目安をシミュレーションします。あわせて、実際の受給者の金額分布や、支給額から天引きされる税金・社会保険料の影響など、知っておくべき老後資金の現実について詳しく見ていきましょう。
老後に支給される公的年金の構造とそれぞれの特徴
生涯の平均年収が400万円だとしても、38年という就業期間の中で厚生年金に加入していたかどうかによって、老後に手にする年金総額には大きな違いが生じます。
まずは、私たちが加入している公的年金制度の基本的な仕組みを整理しておきましょう。
日本の公的年金は、いわゆる「2階建て」の枠組みで構築されています。
1階部分にあたるのが日本国民全員に共通する「国民年金(基礎年金)」で、その上に重なる2階部分として会社員などが加入する「厚生年金」が組み込まれています。
日本の公的年金制度
- 第1号被保険者:自営業者、フリーランス、学生、無職の人など
- 第2号被保険者:民間企業の会社員、公務員
- 第3号被保険者:第2号被保険者に扶養されている配偶者
国民年金は、日本国内に住所がある20歳以上60歳未満のすべての人が加入する制度です。
保険料は収入に関わらず一律で定められているため、将来受け取る基礎年金の額面にも個人間で大きな差は出にくい構造になっています。
これに対して厚生年金は、国民年金に上乗せして支給されるシステムで、主に会社員や公務員が加入します。
毎月の保険料が現役時代の給与や賞与の額に応じて決定されるため、将来の受給額には個人の就業状況による格差が生じやすいのが特徴です。
次の章では、これら2つの年金を両方とも受け取れるケースを想定し、「平均年収400万円」「勤続38年」という条件で、老後に毎月得られる年金額がいくらになるのかを具体的に試算していきます。
【試算】年収400万円で38年間会社員を続けた場合の年金受給額
本章では、現役時代の生涯平均年収を400万円とし、会社員として38年(456ヶ月)にわたり勤務したケースを想定して、将来の年金支給額をシミュレーションします。
試算にあたっては、以下の前提条件を設定しています。
- 2003年4月以降、厚生年金に38年(456ヶ月)加入している
- 国民年金は20歳から60歳までの40年間のうち、学生納付特例(追納なし)などにより実質納付期間が38年と仮定する
厚生年金部分から支給される金額の算出
厚生年金の受給額は、国の定める一定の計算式を基に算出されます。
年金額=報酬比例部分+経過的加算+加給年金額
なお、「経過的加算」とは基礎年金との差額を補填する仕組みであり、「加給年金」は所定の条件を満たす配偶者や子どもがいる場合に上乗せされる家族手当のようなものです。
今回のシミュレーションでは、厚生年金の核心となる「報酬比例部分」の金額を明確にするため、経過的加算や加給年金などの上乗せ要素は含めずに計算を行っています。
報酬比例部分は、以下の規定の計算式を用いて算出されます。
報酬比例部分の計算式
報酬比例部分=A+B
- A(2003年3月までの加入期間):平均標準報酬月額×7.125/1000×2003年3月までの加入期間の月数
- B(2003年4月以降の加入期間):平均標準報酬額×5.481/1000×2003年4月以降の加入期間の月数
上記の計算式における「平均標準報酬月額」とは、平成15年3月以前の加入期間を対象として、毎月の標準報酬月額の平均値を算出したものです。
これに対して「平均標準報酬額」は、平成15年4月以降の加入期間を対象に、毎月の給与(標準報酬月額)とボーナス(標準賞与額)の合計を加入月数で割って割り出します。
例えば、すべての期間が2003年4月以降であり、38年(456ヶ月)にわたり厚生年金に加入し、生涯の平均年収が400万円だったと仮定します。賞与を含んだ総年収をベースに12分割すると、毎月の平均標準報酬額の目安は約33万3000円とみなすことができます。
この条件に則って簡易的に試算を行うと、老後に受け取れる厚生年金の金額は月額で約69,000円となります。
土台となる国民年金の受給目安
会社員などとして厚生年金に加入している人は、年金制度上の「第2号被保険者」となるため、将来的に国民年金と厚生年金の2つの年金を受給できる仕組みになっています。
続いて、老後の生活を支える1階部分にあたる国民年金の受給額についてチェックしていきましょう。
国民年金(老齢基礎年金)の支給額は、以下の計算式に基づいて導き出されます。
国民年金の受給額の計算式
昭和31年4月2日以降に生まれた方を対象として、満額基準である84万7300円に対し、「実際の保険料納付月数 ÷ 加入可能年数(12か月換算)」の割合を掛けて算出する仕組みです。
今回の条件通り、学生時代の免除期間などがあり、20歳から60歳までの間で実際に保険料を納めた実績が38年(456ヶ月)である場合、国民年金として支給される金額は月額で約67,000円となります。
これら2つの試算結果を合算すると、現役時代に「平均年収400万円」で「38年(456ヶ月)」会社員として働いた場合、老後に受け取れる国民年金と厚生年金の合計月額(額面)は、約137,000円(約13.7万円)となる計算です。
統計データから見る実際のシニア世代の年金受給額
前の章では、「平均年収400万円・勤続38年」という具体的な設定から、老後に支給される年金月額の目安を算出しました。
それでは、現在実際に公的年金を受け取って暮らしているシニア世代は、毎月どれくらいの金額を手にしているのでしょうか。
厚生労働省年金局がまとめた「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、基礎年金と厚生年金の双方を受給している人の受給額ごとの分布は以下のように示されています。
国民年金を含む厚生年金の受給者数
- 10万円未満の割合:19.0%
- 10万円以上の割合:81.0%
- 15万円以上の割合:49.8%
- 20万円以上の割合:18.8%
- 20万円未満の割合:81.2%
- 30万円以上の割合:0.12%
国民年金と厚生年金の2つを受給している人のうち、毎月15万円以上の支給を受けている層は全体の約49.8%と、およそ半分に達していることが分かります。
その一方で、今回の試算結果である合計月額(額面)の約137,000円(約13.7万円)に近いラインである、月額13万円未満の受給者は、全体の約38.7%を占めているのが現状です。
ただし、ここで示されている統計上の数字はすべて税金などが引かれる前の「額面」であり、実際に個人の口座に振り込まれる手取り額は、ここから各種の固定費が差し引かれる点に注意しなければなりません。
見落とし厳禁!年金支給額から差し引かれる天引き負担の現実
前章では「平均年収400万円の状態で38年間勤務した場合」をベースに将来の年金目安を提示しましたが、この受給額はあくまで額面であり、全額をそのまま生活費として自由に使えるわけではありません。
老齢年金も現役時代の給料と同じ扱いを受け、受給時には税金や社会保険料が差し引かれるシステムになっているため、手元に残る実際の手取り額は表示された金額よりも目減りします。
年金から自動的に天引き(特別徴収)される主な項目には、次のようなものがあります。
- 所得税
- 住民税
- 健康保険料(国民健康保険料・後期高齢者医療保険料)
- 介護保険料
実際の高齢者世帯がどのような収支状況にあるのか、総務省の「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」のデータを参考に、65歳以上の単身無職世帯における平均的なやりくりを確認してみましょう。
65歳以上の単身無職世帯における収支状況
- 実収入(額面の金額):13万1456円
- 可処分所得(手取り収入):11万8465円
- 消費支出:14万8445円
- 非消費支出(税金・社会保険料):1万2990円
公的な統計によると、年金などによる額面上の実収入が13万1456円あるケースでは、税金や社会保険料などの非消費支出として1万2990円が差し引かれるため、最終的に手元に残る手取り(可処分所得)は11万8465円まで減少します。
控除される具体的な金額や割合は、お住まいの自治体や個人の収入状況、世帯構成によってばらつきがありますが、目安としては総支給額のおおむね10%〜15%程度が差し引かれるケースが標準的です。
筆者コメント:受け取る年金は額面通りにすべて使えるわけではない点をおさえておこう
この記事では、日本の公的年金制度の基本的な構造を整理した上で、「平均年収400万円・38年間勤務」という一般的な会社員のライフプランを想定し、将来の年金受給額の目安を算出しました。
今回のシミュレーション結果では、この勤務条件において厚生年金が月額で約69,000円、国民年金(38年納付)が月額で約67,000円となり、両者を合わせた合計月額(額面)は、約137,000円(約13.7万円)という結果になりました。
実際のシニア世代の受給状況データを眺めると、毎月15万円以上というまとまった給付を得ている人が約半数を占める一方で、今回の試算に近い水準である月額13万円未満の受給者も全体の約38.7%存在しており、現役時代の働き方が老後の格差に影響していることがうかがえます。
さらに、受け取る年金は額面通りにすべて使えるわけではなく、各種税金や社会保険料の天引きが発生するため、実際の手取り額は10%〜15%程度少なくなってしまう現実にもしっかりと目を向ける必要があります。
老後の生活設計を確かなものにするためには、単に額面の数字だけを一喜一憂するのではなく、年金制度の仕組みや天引き後のリアルな手取り額までを含めて正しく把握し、不足分を補うための計画的な資産形成を進めていくことが極めて重要です。
参考資料
三菱UFJ銀行出身。資産運用コンサルティングに従事し、全国表彰を多数受賞。現在は「LIMO」編集部で金融ライターとして年金・資産運用など金融分野の記事を精力的に企画・執筆・監修している。
