40歳代・50歳代のキャリアを振り返ると、同期のあいだでも年収に大きな差が生まれてきているのを感じる方もいるかもしれません。
管理職への昇進、転職、独立、育休や介護によるブランクなど、働き方は年齢を重ねるほど分岐していきます。
日々メディアの編集部で年金制度や経済の動向を見つめる筆者の立場からも、やはり「今のキャリアが自身の老後につながる」様子を実感しており、そのためにも今のシニアの年金受給実態を把握しておくことは、非常に有益だと感じています。
老後に受け取れる年金額は、当然ながらひとりずつ違ってきます。
今回は、厚生労働省の公式計算式をもとに、年収別に厚生年金と国民年金の合算額がどれくらいになるか、40年勤続を前提にざっくり試算していきます。
年金の基本、国民年金と厚生年金は「2階建て構造」
公的年金は、基礎部分となる「国民年金」と、上乗せ部分にあたる「厚生年金」から成り立つ2階建て構造です。
厚生年金と国民年金の仕組み
1階の国民年金は、加入期間で受給額が決まる仕組みです。40年(480月)フルに保険料を納めれば年金は「満額」となり、現役時代の年収の高い・低いは関係ありません。
一方、2階の厚生年金(老齢厚生年金の報酬比例部分)は、次の計算式で決まります。
老齢厚生年金(報酬比例部分)年額 = 平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 加入月数
※2003年4月以降の加入分。平均標準報酬額は「賞与含む月額換算」。引用:日本年金機構「老齢年金ガイド」
加入期間と平均標準報酬額(≒現役時代の年収を12で割った額)の2つで決まる仕組みのため、同じ40年勤続でも、年収300万円の人と年収700万円の人では、老齢厚生年金の額は大きく変わります。
2026年度モデル世帯の年金額を確認
公的年金の支給日は「偶数月の15日(※)」で、2026年度の改定額が反映されたのは6月15日支給分(4月・5月分)からでした。次回の支給日は8月14日(金)です。
※15日が土日祝日の場合、直前の平日に前倒しされます。
令和8年度の年金額の例
- 国民年金(老齢基礎年金):7万608円(1人分※1)
- 厚生年金:23万7279円(夫婦2人分※2)
※1 昭和31年4月1日以前生まれの方の老齢基礎年金(満額1人分)は、月額7万408円
※2 平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)45万5000円)で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準
この夫婦モデル世帯は「夫の平均標準報酬45.5万円(賞与含む月額換算=年収約546万円相当)で40年勤続」という具体的な条件です。
ここから年収を上下させた場合に、厚生年金部分がどう変わるかを見ていきます。
【シミュレーション】年収別・老齢厚生年金の月額をざっくり試算
ここからは、40年間(480月)ずっと同じ年収水準で厚生年金に加入し続けたと仮定し、年収別に老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額を試算します。計算式は前述の「平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 加入月数」です。
【前提】平均標準報酬額 ≒ 年収÷12(賞与込みで月額換算)
実際の標準報酬月額は等級表による切り上げ・切り下げがあり、賞与額も反映されるため、以下は「あくまで概算」です。
標準報酬月額の上限は月65万円(=年収約780万円相当)で、それ以上の年収は同じ水準まで縮まります。
年収別・老齢厚生年金の月額(40年勤続の場合)
【表1】年収別・老齢厚生年金の月額(40年勤続の場合)
- 年収300万円:平均標準報酬 約25万円 → 老齢厚生年金月約5万4800円
- 年収400万円:平均標準報酬 約33万3000円 → 月約7万3000円
- 年収500万円:平均標準報酬 約41万7000円 → 月約9万1300円
- 年収600万円:平均標準報酬 約50万円 → 月約10万9600円
- 年収700万円:平均標準報酬 約58万3000円 → 月約12万7900円
- 年収780万円以上:平均標準報酬 65万円(上限)→ 月約14万2500円
年収300万円と年収780万円以上を比べると、老齢厚生年金は月約8万8000円の差です。年収が2.6倍になれば老齢厚生年金もきっちり2.6倍になる計算で、比例して増える構造がよくわかります。
老齢基礎年金と合算した「公的年金合計」(40年勤続の場合)
【表2】老齢基礎年金と合算した「公的年金合計」(40年勤続の場合)
老齢基礎年金(満額)月7万608円を上に足すと、公的年金の総額は次のようになります。
- 年収300万円:月約12万5000円
- 年収400万円:月約14万4000円
- 年収500万円:月約16万2000円
- 年収600万円:月約18万円
- 年収700万円:月約19万9000円
- 年収780万円以上:月約21万3000円
年収300万円と年収780万円以上では、月に約8万8000円、年間では約105万円の差になります。老後を20年間過ごすと仮定すれば、合計で約2100万円の年金格差が生じる計算です。
年収780万円を超えても老齢厚生年金は増えない
ポイントは、厚生年金の標準報酬月額に月65万円という上限があることです。年収780万円を超えても、この上限に張り付くため厚生年金保険料の増加は止まり、老後の年金額も比例して増えなくなります。
また、賞与にも「1回あたり150万円」という上限があります。高額の賞与を受け取っている方の場合、年収は増えても厚生年金への反映は頭打ちになる仕組みです。
【筆者からのアドバイス】年収差と老後年金の付き合い方の3つの視点
年収が高いほど厚生年金も増える仕組みですが、無限には増えないというのが今回の試算からも見えてきます。
かつて自治体の相談窓口でも、「年収を追いかけるより、加入期間や"3階部分"の使い方を考えたほうが老後の総額は変わる」という気づきの声を多く聞きました。相談窓口で感じたポイントを、3つお伝えします。
視点①:年収780万円超の方は「加入期間」で差を出す
標準報酬月額の上限は月65万円(年収約780万円相当)で頭打ちになります。それ以上に年収が上がっても、厚生年金への反映は増えません。
年収が高止まりしている40歳代・50歳代の方は、「これ以上年収を伸ばす」よりも「厚生年金の加入期間を伸ばす」ことに視点を切り替えると、老後の総受給額を効率よく積み上げられます。
60歳以降も厚生年金に加入して70歳まで働けば、それだけで報酬比例部分が10年分積み上がる計算です。
視点②:転職・独立時の「加入ブランク」を最小化する
厚生年金は、加入していない月はそのまま老後の年金額に反映されません。転職時に退職後の翌月から次の会社に入社できれば加入は途切れませんが、間が空くと国民年金への切り替え手続きが必要になります。
窓口業務でも、この切り替えの漏れが比較的多くありました。知らずに未納になっても、意図して払わなかったとしても、老後への影響は同じです。フリーランスや起業を選ぶ場合も、国民年金保険料を必ず納付し続けましょう。「たった1〜2年のブランク」が老後の受給額を数十万円押し下げる可能性があります。
もし保険料の支払いが困難という場合は、そのまま放置せず「免除」の対象にならないか相談してみましょう。
視点③:年金以外の"3階部分"を意識的に積む
年収の高い層ほど、厚生年金の頭打ちを見越して「年金以外の老後資金づくり」を早めに始めるメリットが大きくなります。
iDeCoや企業型DCは掛け金が全額所得控除になるため、高所得の方ほど現役時代の節税効果が大きい仕組みです。さらにNISAとあわせて活用すれば、運用益が非課税になる恩恵も最大限に受けられます。
特にiDeCoの拠出限度額は、2026年12月の制度改正(2027年1月拠出分より適用)で大幅に引き上げられます。企業年金なしの会社員なら月2万3000円から月6万2000円へ、自営業者なら月6万8000円から月7万5000円へ枠が拡大するため、これまで以上にコツコツ積む効果が高まり、老後の総額は数百万〜1000万円単位で大きく変わってきます。
現役時代の年収差は、そのまま老後の年金差になるわけではありません。仕組みを理解して、「加入期間」「加入形態のブランク回避」「3階部分の積み立て」の3方向から手を打つことで、実際の受給額はもっと大きくなる可能性があります。
まとめにかえて
現役時代の年収差は、老齢厚生年金を通じて老後の年金額に反映されます。
年収300万円と780万円で比べると、40年勤続前提で月8万8000円、老後20年で約2100万円の差になります。ただし年収約780万円を超えると頭打ちになるため、それ以上の高年収は老後の年金増額には結びつかない点も知っておきましょう。
今回の試算はあくまで「40年間、同じ水準の年収で厚生年金に加入し続けた」という前提の概算です。
実際の受給額は、加入期間のブランク・転職・非正規期間・育休などによってさらに変動します。まずは「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で、自分の見込み額をチェックすることから始めましょう。
参考資料
地方公務員・保険代理店出身。証券外務員二種保有。自治体で国民健康保険の賦課や高額療養費、退職に伴う年金切り替え等の実務に従事。複雑な社会保障制度に精通し、現在はLIMO編集部で年金・貯蓄・退職金等の金融情報を発信。
