日本製鉄「V字回復」の正体。元機関投資家が指摘する、株価を動かす変数の交代
出所:イズミダイズム
監修者泉田良輔LIMO&ファイナンス編集部 編集長
07:52
日本製鉄「V字回復」の正体。元機関投資家が指摘する、株価を動かす変数の交代
出所:イズミダイズム

この記事はここがポイント

  • 日本製鉄の第1四半期は大幅な増収増益ですが、主因は前年の巨額損失の反動と買収効果です
  • 利益の源泉は「国内」から「米国」へ完全にシフトしており、見るべき変数が変化しています
  • 今後の株価は、米国の鋼材市況と「黄金株」を通じた政治的リスクに左右されると考えられます

日本のものづくりを支える鉄鋼最大手、日本製鉄。株式市場では長らくTOPIX(東証株価指数)を下回る厳しい値動きが続いていましたが、7月に入ってから株価は反発しています。8月4日に発表された第1四半期決算は大幅な増収増益と「V字回復」を印象づける内容でしたが、実は利益の中身を紐解くと、これまでとは全く異なる構造に変化していることが分かります。一体なぜ、業績の牽引役が入れ替わっているのでしょうか。この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏が日本製鉄の決算と会社からのメッセージを読み解き、プロの投資家ならではの視点で迫ります。

長期低迷からの反発と「V字回復」の正体

日本製鉄の株価は、過去1年間を通じてTOPIXをアンダーパフォーム(基準となる指数を下回る成績)する期間が長く続いていました。しかし、7月に入ってからは力強い反発を見せています。

日本製鉄(TSE:5401)TOPIX比較 2025年9月上旬〜2026年8月下旬(過去1年)

日本製鉄(TSE:5401)TOPIX比較 2025年9月上旬〜2026年8月下旬(過去1年)
出所:TradingView(日本製鉄 5401 日足チャート)

この反発をインタビュワーが「復活の狼煙か」と受け止めたのに対し、泉田氏は、アンダーパフォームが続いたあとのリバウンドには見えるとしつつ、チャート上には上値の壁となるテクニカルな節目も存在していると指摘します。ファンダメンタルズ(企業業績)とテクニカル(チャート分析)の両面を見ることの重要性について、次のように語ります。

「株価のチャートって心理的に実際にその売買をした行動の記録なので、投資家がそこでこれは高いとかこれは安いって思った歴史じゃないですか。その歴史に基づいてみんな次の未来を予測しようとするので、いろいろ言いますけど、テクニカルはテクニカルで短期的には重要かなと思ってます」

では、投資家の期待の裏付けとなる業績はどうだったのでしょうか。2027年3月期(2026年度)第1四半期の決算は、売上収益が2兆8,211億円(前年同期比+40.4%)、本業の儲けを示す事業利益が1,455億円(同+58.1%)と、大幅な増収増益でした。前年同期は営業赤字1,395億円、親会社の所有者に帰属する四半期損失1,958億円と厳しい状況だったため、数字上は鮮やかな黒字転換を果たしています。

通期の業績見通しについても、売上収益11兆2,000億円(前年比+11.3%)、事業利益6,300億円(同+22.5%)、当期利益2,900億円と、しっかりと成長を見込んでいます。

しかし、この「V字回復」をそのまま本業の急成長と受け取るのは早計だと考えられます。前年同期の赤字の主因は、AM/NS Calvert(アルセロール・ミッタルとの合弁事業)の持分譲渡に伴う事業撤退損失2,315億円という一時的な費用が計上されていたためです。泉田氏は、この巨額の事業再編損の背景について、U. S. Steel(以下、USスチール)を買収するにあたり、独占禁止法に抵触しないよう米国内の既存事業を整理したことによるものだと説明します。ただし決算資料に記載されているのは持分譲渡による損失という事実までで、譲渡に至った理由は書かれていません。

つまり、前年の大幅な赤字は買収に向けて血を流しながら事業を整理した結果であり、当期の急回復は、その一時的な損失がなくなったことと、新たにUSスチールが連結対象に加わったことによる影響が大きいと見ることができます。

利益の源泉は「国内」から「米国」へ完全シフト

今回の決算で投資家が最も注目すべきは、見かけの増益率ではなく、利益を生み出している「中身の変化」です。

会社が重視する「実力ベース連結事業利益」(会計上の変動要因を除いて本来の稼ぐ力を示すために、会社が独自に開示している指標)の通期見通しを見ると、全体では7,000億円以上を計画しており、前年度実績の6,504億円から約496億円の増益となる見込みです。しかし、その内訳は劇的に入れ替わっています。

国内事業の見通しは3,800億円と、前年度実績の5,276億円から約1,476億円の大幅な減益です。一方で、海外事業の見通しは3,200億円となり、前年度の1,228億円から約1,972億円の増益を見込んでいます。この海外事業の増益分のほとんどは、前年度にマイナス56億円だったUSスチールが、今年度は1,800億円以上の利益を稼ぎ出すこと(対前年度+1,856億円)で説明がつきます。ただしこの増益幅には、前年度がUSスチールを9ヶ月しか連結していないのに対し、今年度は12ヶ月分が連結されるという期間の差も含まれている点には留意が必要です。

実力ベース連結事業利益の内訳(2026年度1Q決算 説明会資料 p.4)

実力ベース連結事業利益の内訳(2026年度1Q決算 説明会資料 p.4)
出所:日本製鉄株式会社「2026年度1Q決算 説明会」(2026年8月4日)p.4

泉田氏はこの業績構造の変化について、「国内は減ったけどUSスチールがあるんで利益の水準を保てて」と述べ、全体では約500億円の増益に収まっているのが出来上がりの姿だと解説します。

では、なぜUSスチールの利益見通しはこれほど引き上げられたのでしょうか。その最大の要因は、米国の強固な鋼材市況です。

USスチールの実力利益見通しは、当初の1,000億円以上から今回1,800億円以上へと上方修正されました。この800億円の上振れのうち、600億円は米国鋼材市況の上昇(コストアップを含む)によるもので、残りの200億円がシナジー進展などの収益改善努力によるものです。

U. S. Steel 2026年度実力利益見通し 前回公表時からの変動(2026年度1Q決算 説明会資料 p.7)

U. S. Steel 2026年度実力利益見通し 前回公表時からの変動(2026年度1Q決算 説明会資料 p.7)
出所:日本製鉄株式会社「2026年度1Q決算 説明会」(2026年8月4日)p.7

米国のホットコイル(熱延鋼板)市況は上昇基調が続いています。会社は2026年度の見通しに置く市況の前提を、買収を検討していた当時の水準から、前回見通し、今回見通しと2段階で切り上げています。なお会社は、この前提とした価格そのものは公表していません。

この価格上昇を支えているのが、米国の旺盛な鉄鋼需要です。米国の粗鋼生産量(年換算ベース)は底堅く推移しており、製鋼稼働率もおよそ8割の水準まで上昇しています。泉田氏は、この日米のマクロ環境の違いをこう表現します。

「アメリカ国内の経済が堅調であるということ。経済堅調だと基本的には鉄必要になるんで、建物建ちます、工場建ちます、自動車作ります、その他製造業が鉄必要としますみたいな話なんで、基本的には経済活動と連動するじゃないですか」

国内の鉄鋼需要が長期的な減少傾向にある中、日本製鉄の経営陣は大きな決断を下しました。

「今行かないでいつ行くんだっていう話と、成長している国どこかっていうとやっぱり先進国で言うとアメリカなんだよね」

買収前はUSスチールの経営状況を危ぶむ声もありましたが、蓋を開けてみれば、米国の好調な市況が日本製鉄の連結業績を力強く牽引する結果となっています。

米国シフトがもたらす新たな「2つの投資リスク」

利益の源泉が米国に移ったことで、日本製鉄の業績は好調を維持しています。しかし、これは同時に、投資家が意識すべきリスクの種類が変わったことも意味しています。泉田氏は、今後の懸念材料として大きく2つのポイントを挙げます。

リスク1:市況の循環と「黄金株」の存在

1つ目のリスクは、景気の波と政治的制約です。現在は米国の稼働率も高く、鋼材価格も上昇局面にあるため良い決算が出ていますが、景気には必ず循環があります。

「基本的には景気は循環するからさ、良い時も悪い時もあるんで、その悪くなった時に日本製鉄としてどういう手が打てるのか。その時にアメリカの大統領は誰なのか」

USスチールの買収にあたっては、安全保障上の理由から米政府の意向が強く働く「黄金株」の存在が議論を呼びました。好景気の今はリストラ等の必要がないため問題は表面化していませんが、仮に米国経済が後退局面に入り、経営陣が不採算事業の整理や人員削減に踏み切ろうとした際、この黄金株がブレーキとなる可能性があります。経営の自由度が制限されたまま赤字を垂れ流す事態になれば、日本製鉄の業績全体に大きな重荷となると考えられます。

リスク2:買収に伴う巨額の金利負担

2つ目のリスクは、買収資金の調達に伴う財務的な負担です。

第1四半期の決算短信を見ると、金融費用(借入の利息など、資金の調達に伴って発生する費用)は約400億円(△39,645百万円)計上されています。前年同期の金融費用は約120億円(△11,952百万円)だったため、四半期ベースで約280億円も負担が増加している計算になります。これは、USスチールの買収資金を借入などの負債で調達したことによる金利負担の増加が主な要因です。

泉田氏はこの点について、次のように警戒を促します。

「そこは業績悪くなっても返さないといけないので、固定費的にはなっちゃう」

四半期で約400億円という金融費用は、同じ四半期の事業利益1,455億円と並べると小さくない規模です。市況が悪化して本業の利益が細ったとしても、この負担は残り続けるため、収益を圧迫する要因として認識しておく必要があると考えられます。

まとめ:今後の株価を占う「観測点」

日本製鉄の第1四半期決算は、見かけ上は鮮やかな「V字回復」でした。しかしその実態は、国内事業の収益力低下を、買収したUSスチールが米国の好景気と市況高を追い風にしてカバーしている状態だと考えられます。

投資家が今後、日本製鉄の株価の行方を占う上で見るべき指標は、明確に入れ替わりました。もはや国内の鉄鋼需要だけを見ていても、業績の方向性は掴めません。次に見るべき観測点は、米国のホットコイル(熱延鋼板)市況の推移と、米国の粗鋼生産量・稼働率です。これらが堅調に推移している間は、日本製鉄の業績も底堅さを保つと見られます。

一方で、今回の分析では深く触れていませんが、円安が国内製鉄事業にとってはマイナスに働くという為替の構造や、国内の土木建築・自動車向け需要が長期的に減少を続けているというマクロ的な課題は依然として残っています。

利益の源泉が米国に完全シフトした今、日本製鉄の株価は、米国経済の体温と政治の動向にこれまで以上に敏感に反応する展開が続くと考えられます。

※本記事は決算資料と動画の内容にもとづく情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

参考資料

  • 日本製鉄株式会社「2027年3月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年8月4日)
  • 日本製鉄株式会社「2026年度1Q決算 説明会(改訂版)」(2026年8月4日)
  • 日本製鉄株式会社「2026年度1Q決算 別冊(参考資料・データ集)(改訂版)」(2026年8月4日)
  • YouTubeチャンネル「イズミダイズム

各資料の入手先: 日本製鉄株式会社 IRライブラリ

※リンクは記事作成時点のものです。

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  • 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
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泉田良輔LIMO&ファイナンス編集部 編集長

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