この記事はここがポイント
- 企業分析だけでなく、経済全体を俯瞰する「マクロ視点」が市場の温度感を測る鍵となる
- 第1の物差し「バフェット指標」は2.18倍に達し、ドットコム期を超える上位数%の水準にある
- 第2の物差し「稼ぐ力(利益率)」は7.32%と高く、企業の高い収益力が株価を正当化する側面もある
- 第3の物差し「CAPE型PER」は37.7倍で、過去のピークには及ばないものの決して安くはない
- 3つの指標が異なる方向を示す「まだら模様」の相場こそ、投資家にとって最大の機会となり得ると泉田氏は語る
JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOが2026年7月、ポッドキャスト番組のインタビューで「現在の価格ではS&P500も長期国債も買わない」と語り、市場が地政学リスクや財政赤字を過小評価していると警告した一方で、「まだまだ市場は伸びる余地がある」という強気な見方も根強く存在しています。現在の米国株式市場は、一体どちらの主張が実態に近いのでしょうか。歴史的な高値圏にあるとされる株価ですが、その現在地を正確に把握するためには、個別の企業業績だけでなく、経済全体を俯瞰する視点が欠かせません。一体なぜ、これほどまでに市場の評価が真っ二つに分かれているのでしょうか。この点について、元機関投資家の泉田良輔氏が、3つの重要なマクロ指標を用いて現在の米国株の「割高度」を徹底的に解説します。
株式市場を「マクロ」で俯瞰する意味とは
株式投資を始めると、多くの人は特定の企業の業績やビジネスモデルに注目します。「この会社の提供するサービスは素晴らしい」「最近の決算発表で利益が大きく伸びていた」といった個別の要因から、その企業の株が「買い」か「売り」かを判断しようとするのが一般的です。
しかし、どれほど優れた企業であっても、その国全体の経済状況や世界の市場環境といった大きな波から完全に逃れることはできません。好景気で市場全体にお金が溢れているときと、不景気で投資家がリスクを避けているときとでは、同じ利益を出している企業でも株価の評価(バリュエーション)は大きく変わってしまいます。
このように、個別の企業から入るのではなく、大きな経済の枠組みから市場全体を見渡すアプローチを「トップダウン視点」や「マクロ分析」と呼びます。
泉田氏はこのマクロ視点の重要性について、次のように指摘しています。
「企業ってやっぱり大きな経済の中の一部に過ぎないので、やっぱり時折マクロで俯瞰して、その企業が置かれている環境とか、そもそも株式市場の温度感っていうのも見る必要がある」
つまり、個別の木(企業)を見るだけでなく、森全体(マクロ経済)が現在どのような季節にあるのかを知ることが、投資判断において極めて重要だということです。特に現在のように、市場の先行きに対して極端な悲観論と楽観論が入り乱れている状況では、客観的なデータに基づいた「市場の温度計」を確認する作業が欠かせません。
次章からは、泉田氏が提示する3つの具体的な「物差し」を使って、米国株式市場の現在の温度感を測っていきましょう。
第1の物差し「バフェット指標」が示す熱狂度
市場全体の割高度を測る上で、最も有名でよく使われる指標の一つが「バフェット指標」です。著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏が市場の過熱感を測るために重視しているとされることから、この名が付けられました。
指標の定義と「時間的ギャップ」という限界
バフェット指標は、国の経済規模を示す「名目GDP(国内総生産)」に対して、株式市場の「時価総額」がどの程度の割合に達しているかを示すものです。
名目GDPとは、その国で1年間に生み出されたモノやサービスの付加価値の合計額であり、経済の「実体」を表します。一方、株式の時価総額は、企業の株価に発行済株式数を掛け合わせたものの合計であり、投資家からの「評価」を表します。実体経済のサイズに対して、株式市場の評価が大きくなりすぎていれば「割高」、小さければ「割安」と判断するシンプルな仕組みです。
なお、今回泉田氏が用いるバフェット指標は、分子に米国の非金融法人が発行する株式の時価総額を使用しています。これは上場企業の株式だけでなく非上場株式の評価額も含み、その一方で金融業は除いたものです(一般に紹介されることの多い「上場株式の時価総額÷GDP」とは集計範囲が異なります)。金融業を除外する理由は、金利の変動によって金融機関の生み出す価値が大きくブレてしまうため、その影響を排除してより正確に実体経済と企業の価値を比較するためです。
非常に分かりやすい指標ですが、泉田氏はこの指標を使う上で知っておくべき「限界」があると注意を促します。
「短期的にはそもそもGDPって四半期ごとにしか発表されないし、なんだったら過去のものしか数字がないんで、僕よく言うんだけど『バックミラーを見ている状態』」
GDPのデータは数ヶ月遅れで発表されるため、私たちが目にするのは常に「過去の経済状態」です。これに対して、株式市場の性質は大きく異なります。
「一方、株式市場って将来の期待とか利益の成長余地とかを織り込むんで、かなり先を見ている『フォワードルッキング』のものなので、それと過去のものを比べること自体、ちょっと時間的なギャップがそもそもある」
つまり、バフェット指標は「過去の実績(GDP)」と「未来への期待(株価)」を割り算しているため、日々の短期的な株価の動きを予測するのには向いていません。しかし、数年単位の長期的な視点で市場が現在どの位置にあるのか、歴史的な過熱感がないかを俯瞰するためには、依然として非常に有効なツールとなります。
ドットコム・バブルを超える「2.18倍」の意味
では、現在の米国市場において、このバフェット指標はどのような数値を示しているのでしょうか。以下の図をご覧ください。
米国 非金融企業の株式時価総額 ÷ 名目GDP(1965-2026Q1)
このグラフは、1965年から現在に至るまでのバフェット指標の推移を示しています。一目見て分かるのは、2010年頃を起点として、右肩上がりのトレンドが長期にわたって続いていることです。
泉田氏はこの上昇トレンドの起点について、2009年の0.69倍という水準が「リーマンショック」による底であったと解説します。当時、投資家は株式に対して極度の不安を抱き、実体経済(GDP)に対して株価が極めて安く放置されていました。
そこから上昇を続け、現在のバフェット指標は「2.18倍」に達しています。この水準が歴史的に見てどれほど高いのかを理解するために、過去のバブル期と比較してみましょう。
1990年代後半から2000年にかけて起きた「ドットコム・バブル(ITバブル)」の絶頂期において、バフェット指標は1.63倍でした。
「ドットコムバブルの時が1.63で今が2.18で、そういう意味ではその時よりも高い状態が今」
泉田氏が語る通り、現在の2.18倍という数値は、ドットコム期を大きく上回っています。統計的に見ても、1965年以降の全期間において98.4パーセンタイル(上位約1.6%)に位置しており、長期中央値(過去の数値を小さい順に並べたときのちょうど真ん中の値。平均値とは異なります)である0.79倍の約2.8倍という極めて高い水準にあります。直近のピークである2025年10-12月期の2.29倍からはわずかに低下したものの、依然として歴史的な高値圏です。
一般的に、バフェット指標は1倍がひとつの目安とされ、1.5倍を超えると市場の警戒感が強まり、2倍を超えると明確に「割高」とみなされることが多いと泉田氏は指摘します。ただし、新型コロナウイルス禍で中央銀行が市場に大量の資金を供給(流動性の過剰供給)した局面では、2021年10-12月期に2.19倍というコロナ相場の天井を記録しました。
このように、第1の物差しであるバフェット指標だけを見れば、現在の米国株式市場は極めて加熱しており、「割高である」という結論に傾きやすくなります。
第2の物差し「稼ぐ力」からの反証
バフェット指標が歴史的な高水準にあると聞くと、多くの投資家は「今すぐ株を売るべきではないか」と不安を覚えるかもしれません。しかし、マクロ分析においては一つの指標だけで結論を急ぐのは危険です。
ここで泉田氏が提示するのが、第2の物差しである企業の「稼ぐ力」です。
企業の実力は「割高」を正当化できるか
株価が実体経済に対して大きく膨らんでいるとしても、もし企業がそれに見合うだけの「利益」を実際に稼ぎ出しているのであれば、その高い株価は必ずしもバブル(実体のない熱狂)とは言えません。
そこで泉田氏は、金融業を除く企業の「税引後利益(最終利益)」を名目GDPで割った指標に注目します。これは、経済全体の規模に対して、企業がどれだけの利益を生み出しているか、つまり「企業の収益力」を示す指標です。
米国 非金融企業の税引後利益 ÷ 名目GDP(1965-2026Q1)
このグラフを見ると、1980年代以降、企業の利益率が一貫して上昇トレンドを描いていることが分かります。特に注目すべきは現在の数値です。
現在の税引後利益÷GDPは「7.32%」となっています(利益は在庫評価調整・資本減耗調整を行った後の値を使用しています)。これは長期中央値である4.49%の約1.63倍にあたり、過去の歴史の中で97.1パーセンタイルという非常に高い水準です。特に2020年には、第1四半期の5.15%から第3四半期の7.34%へと、わずかな期間で利益率が一段階切り上がる(+2.19ポイント)という劇的な変化も起きています。
利益率7.32%が示す過去との決定的な違い
この「7.32%」という高い収益力は、過去のバブル期と現在を比較する上で決定的な意味を持ちます。
先ほど、バフェット指標の比較で登場した2000年1-3月期のドットコム・バブル絶頂期を振り返ってみましょう。当時、株価は熱狂的に上昇していましたが、実はこのときの税引後利益÷GDPは「3.37%」に過ぎませんでした。この3.37%という数値は、長期中央値を下回る下位16パーセンタイルの水準です。
つまり、ドットコム期は「企業がたいして利益を稼げていないのに、期待だけで株価が跳ね上がっていた」という、まさに実体の伴わないバブルだったと言えます。現在の利益率7.32%は、ドットコム期の約2.2倍に相当します。当時の収益力の位置づけとは正反対の状況にあるのです。
この事実について、泉田氏は次のように分析します。
「一概にバフェット指標の水準だけで議論するのではなくて、企業が本当に稼いでいたら別に株式市場はさらに期待してもいい」
もし企業が経済規模に対してこれほど高い利益を継続して叩き出せるのであれば、バフェット指標が示す高い株価も、ある程度は「実力を反映した正当な評価」として説明がつくことになります。「割高だから売り」という単純なロジックに対して、この第2の物差しは強力な反証となっているのです。
第3の物差し「CAPE型PER」で測る期待値
ここまでの2つの物差しで、「株価は経済規模に対して極めて高い(バフェット指標)」が、「企業は過去にないほど利益を稼いでいる(稼ぐ力)」という相反する事実が見えてきました。
では、投資家はその「利益」に対して、現在どれくらいの「期待」を込めてお金を払っているのでしょうか。それを測るのが第3の物差し、「CAPE(ケイプ)型の株価収益率(PER)」です。
ドットコム期には及ばないが「安くはない」現在地
PER(株価収益率)とは、企業の株価が「1株あたりの利益」の何倍まで買われているかを示す指標です。一般的に、PERが高いほど投資家の将来への期待値(成長への期待)が高く、割高に買われていることを意味します。
今回泉田氏が用いる「CAPE型の株価収益率」は、公的統計から作成された独自の指標です。一般的なPERは直近1年間の利益を使いますが、CAPE型は景気の波(好況・不況)による利益のブレを平準化するため、インフレ調整(物価上昇による見かけ上の金額の膨らみを取り除き、昔の利益と今の利益を同じ物差しで比べられるようにする処理)を行った上で、過去10年分の平均的な利益を用いて計算されます(※一般に公表されるS&P500ベースのシラーPERとは分子・分母の定義が異なり、数値は一致しません)。
米国株の景気循環調整後の株価収益率(CAPE型・1965-2026Q1)
現在のCAPE型PERは「37.7倍」です。この水準をどう評価すべきでしょうか。
再びドットコム・バブルの絶頂期(2000年1-3月期)と比較してみます。当時のCAPE型PERは「49.4倍」という異常な高値をつけていました。泉田氏が前述した通り、当時は「利益を出していないのに株価が熱狂していた」ため、利益に対する株価の倍率が極端に跳ね上がっていたのです。
それに比べれば、現在の37.7倍はドットコム期の49.4倍には及んでいません。企業の稼ぐ力が伴っている分、利益に対する割高度合いは当時ほど異常ではないと言えます。
しかし、だからといって「今は割安だ」と安心できるわけではありません。
「過去と比べるとピークではないけども安いとは決して言えない。なんなら中央値よりも全然高い」
泉田氏がこう警告するように、CAPE型PERの長期中央値は「22.1倍」です。現在の37.7倍は中央値の約1.7倍にあたり、過去の約92%の時期よりも高い水準にあります。ドットコム期という歴史的な異常値には達していないものの、決して安い水準ではなく、投資家の期待が相当に膨らんでいる状態であることは間違いありません。
なお、米国市場のPERを見ると、日本市場のPERよりも一貫して高い水準にあることに気づくかもしれません。しかし、米国企業と日本企業では、将来の事業成長に対する期待値や、経済そのものの成長規模が異なるため、両者のPER水準を単純に比較して「米国株は高すぎる」と結論づけることは適切ではない点には注意が必要です。
3つの物差しが示す「まだら模様」の現在地
ここまで、米国株式市場をマクロ視点で俯瞰するための3つの物差しを見てきました。
- バフェット指標:2.18倍と歴史的な高水準にあり、ドットコム期を超え「割高」を示唆している。
- 稼ぐ力(利益率):7.32%と極めて高く、ドットコム期とは異なり「高い株価を正当化しうる実力」を示している。
- CAPE型PER:37.7倍と、過去のピークには及ばないものの、長期中央値を大きく上回り「安くはない」状態にある。
これら3つの指標が指し示す方向は、見事にバラバラです。ある側面から見れば危険なバブルに見え、別の側面から見れば実力を伴った正当な上昇に見えます。市場の専門家たちの意見が「もう買うべきではない」と「まだ伸びる」の真っ二つに分かれている理由は、まさにこの指標の「まだら模様」にあります。
このような方向感が定まらない相場環境において、投資家はどのように立ち回るべきなのでしょうか。泉田氏は、自身の機関投資家としての経験から、非常に興味深い経験則を語っています。
「今日、いろいろな指標でどの位置にあるかを説明してきたんだけど、どっちつかずのときが一番株儲かるんですよ」
一見すると矛盾しているように聞こえるかもしれません。しかし、市場参加者全員が「まだまだいける」と熱狂しきった時こそが相場の天井であり、逆に全員が「もうダメだ」と総悲観に陥った時が相場の大底となるのが株式市場の常です。
現在のように、強気と弱気のシグナルが混在し、投資家たちが疑心暗鬼になりながらも市場に参加している「どっちつかず」の状況こそが、実はまだ相場が上昇する余地を残しているタイミングであると泉田氏は指摘します。
ただし、高い株価が正当化されている背景には、企業が歴史的な高収益を維持しているという絶対条件があります。もし、今後の決算で企業の稼ぐ力に陰りが見え始めた場合、この微妙なバランスは崩れ、バリュエーションの修正(株価の下落)が起きるリスクを常に孕んでいます。
現在の米国株は、高い実力と高い期待が拮抗する薄氷の上に成り立っています。では、その高い株価を支えているのは、一体誰の、どのようなお金なのでしょうか。家計の資産構成や証券口座の信用取引の状況など「お金の出し手」の構造に目を向けると、また違った市場の危うさが見えてきます。
参考資料
- 米国 非金融企業の株式時価総額・名目GDP(FRED / BEA統計)
- 米国 非金融企業の税引後利益(BEA統計)
- 米国株の景気循環調整後PER(公的統計をもとに独自算出)
- The Master Investor Podcast(2026年7月・JPモルガン ジェイミー・ダイモンCEOのインタビュー)および同発言に関する各種報道
- YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
※本記事は、元機関投資家・泉田良輔氏の分析に基づく解説記事です。投資に関する最終的な判断は、読者ご自身の自己責任において行われますようお願いいたします。
免責事項
- 本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、特定の株式の購入や売却について助言や推奨するものではありません。
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「イズミダイズム」はモニクルグループが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命出身の元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点から経済ニュースの裏側や資産形成のトピックを論理的に解説します。
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。東京科学大学大学院非常勤講師。
