現金が回るまで約4カ月半——CCCが示す資金効率
もう一つ、資金効率を測る指標にCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)があります。これは、仕入れに払ったお金が、製品を売って再び現金として戻ってくるまでの日数を示すもので、短い(あるいはマイナスの)ほど資金効率が良いとされます。
CCC = 売上債権回転日数 + 棚卸資産回転日数 − 仕入債務回転日数
2026年3月期の三菱電機は、売上債権回転が約80日、棚卸資産(在庫)回転が約115日、仕入債務回転が約54日で、CCCは約141日。仕入れに使った資金が現金として戻ってくるまで、およそ4カ月半かかる計算です。5年前(2021年3月期)のCCCは約103日でしたから、この間に約38日も長期化しています。要因を分解すると、在庫の回転日数が約90日から約115日へ伸びたことが主因で、加えて仕入債務の回転日数が約66日から約54日へ短くなった(=仕入先への支払いを早めた)ことも効いています。一方、売上債権の回転日数は約79日から約80日とほぼ横ばいです。回収の期間は変わらないのに、在庫を厚く抱え、支払いは早めている——運転資金の効率という点では、改善の余地がはっきり残っています。仕入れ代金を払う前に現金を回収してしまう、アマゾンのようなCCCマイナスの企業とは対照的です。
イズミダの視点:電機セクターの「優等生」からどう脱却できるのか
私はかつて『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』という本を書き、電機各社の明暗をずっと追いかけてきました。その視点で三菱電機を見ると、この会社は「優等生なのに、なぜか評価が伸び切らない」典型に映ります。業績は堅調、財務は超健全、事業も幅広い。デュポン分解が示すとおり、稼ぐ力(利益率・回転率)は日立に劣りません。足りないのは、ため込んだ資本と、在庫に寝ている資金を、成長と株主還元にどう振り向けるかという「お金の使い方」です。
三菱電機がお金を「ため込む」というのは実は過去に苦い経験をしているからということが背景にあり、保守的な財務戦略になってしまっているということがあります。しかし、先に取り上げた日立が、資本効率経営でROEを二桁に引き上げ、市場の評価を一変させたのは象徴的でした。三菱電機に求められているのも、この「ため込む経営」から「使う経営」への転換です。私が投資の世界で学んだのは、企業価値を決めるのは利益の絶対額だけでなく、その利益をどれだけ効率よく生み、稼いだ現金をどう配分するか、という点でした。三菱電機には十分な原資があります。あとは、レバレッジの引き上げ(株主還元)と在庫の圧縮という2つの「使い方」で、ROE10%の壁とCCCの長期化をどう乗り越えるか。最高益という華やかな数字の先で、この資本効率の改善が数字に表れ始めるか——そこが、これからの三菱電機を見るうえで一番の注目ポイントです。
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株式会社モニクルリサーチ代表取締役。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。元機関投資家。フィデリティ投信や日本生命で日本株式や米国株式の証券アナリストやファンドマネージャーとして勤務。東京科学大学大学院非常勤講師。
