「人生100年時代」と言われる昨今、50歳代・60歳代はご自身のセカンドライフに向けた資金準備だけでなく、「親の介護」や「相続」といった避けられない現実的な課題と向き合う時期です。
「実家の財産状況を全く知らない」「そろそろ相続について真剣に考えないと不安だ」と悩みを抱える方も少なくないでしょう。
実は筆者自身、親の介護から看取り、そしてそれに伴う煩雑な相続手続きを一通り終えた経験があります。
その過程で痛感したのは、親の財産の整理や各種手続き、さらには実家のお墓の管理などに、思いのほかエネルギー、そして一定の費用もかかるという現実でした。
ご自身がそうした苦労を実感する世代だからこそ、「自分の子どもたちには同じような負担をかけたくない」と考える方が増えているのも深く頷けます。
本記事では、リタイアを視野に入れた50〜60歳代(二人以上世帯)のリアルな貯蓄事情を最新データで確認するとともに、子ども世代に負担を残さないための「相続の現実」と「実家のお墓問題」に関する最新事情を紐解きます。
50歳代・60歳代の貯蓄額、実際の「平均と中央値」は?
はじめに、セカンドライフを控えた50歳代・60歳代の貯蓄の現状について、J-FLEC(金融経済教育推進機構)の「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」のデータをもとに確認しましょう。
今回は二人以上世帯のデータをご紹介しますが、老後資金や終活は単身世帯にとっても共通する重要なテーマです。
※本記事における「金融資産」には、日常の生活費の支払いに充てる普通預金などは含まれていません。
50歳代(二人以上世帯)「貯蓄の平均・中央値・分布の実態」
【円グラフ】50歳代・ふたり以上世帯の貯蓄額分布
- 平均: 1908万円
- 中央値: 700万円
老後が少しずつ現実味を帯びてくる50歳代では、平均貯蓄額が約1900万円に達しており、セカンドライフに向けた資産形成のペースを上げている層が存在することが分かります。
一方で、「貯蓄がゼロ(金融資産非保有)」の世帯が18.2%を占め、およそ5世帯に1世帯が貯蓄を持っていないという点には留意が必要です。
60歳代(二人以上世帯)「貯蓄の平均・中央値・分布の実態」
【円グラフ】60歳代・ふたり以上世帯の貯蓄額分布
- 平均: 2683万円
- 中央値: 1400万円
退職金の支給などの影響もあり、50歳代から貯蓄額は大幅に増加しています。
ただし、平均額(2683万円)は一部の高額な金融資産を保有する世帯によって引き上げられる傾向があるため、より一般的な実態に近い「中央値(1400万円)」を指標として参考にすると良いでしょう。
また、定年退職を迎える年代であるにもかかわらず、約1割強(12.8%)の世帯が「貯蓄ゼロ」のままセカンドライフへ突入している厳しい現実もあります。
相続問題は「お金持ち」だけのものではない。10人に1人が課税対象に
ご自身の老後資金のやりくりと同時に直面することが多い「親の相続」は、精神的・経済的な負担も伴うライフイベントです。
「うちは財産も少ないから揉める心配はないし、相続税も関係ない」と思っている方もいるでしょう。でも、それは誤解かもしれません。
あなたの実家、相続税がかかると思いますか?
2026年6月30日にPR media株式会社が公表した「相続税に関する調査」の結果によれば、「自分の家には相続税はかからない・わからない」と回答した人が全体の69.7%にのぼりました。
しかし、税制改正により現在ではおよそ「10人に1人」が相続税の課税対象となっています。
もはや一部の資産家だけの特別な問題ではなくなっているのです。
また、最高裁判所の司法統計によれば、全国の家庭裁判所で成立した遺産分割事件のうち、遺産総額が「5000万円以下」のケースが全体の約78%を占めています。
多額の資産を持つお金持ちよりも、「実家の家と土地、それに少しの預貯金」といった一般的な家庭のほうが、財産を均等に分けにくくトラブルに発展しやすいのが現実です。
「ひとりっ子同士の結婚」が2代続けば、夫婦で「4つのお墓」を守る時代へ
相続とあわせて、「実家のお墓問題」も、多くの世帯の悩みどころの一つかもしれません。
実は筆者自身も、実家のお墓を継ぐ「墓守娘」の一人です。少子高齢化が加速する今の日本で、ふとこんなことを考えました。
もし「ひとりっ子同士の結婚」が2世代続いたとしたら、将来の夫婦は一体いくつの家のお墓を守ることになるのでしょうか。
自分たちの親世代(両家)で2つ、さらにその親たちも一人っ子同士だった場合、単純計算で最大4つの家のお墓を1組の夫婦で管理・継承していくことになります。
お盆やお彼岸のお参り、日々の管理や年間管理費の支払いだけでも、時間的・経済的に目が回りそうな負担です。
ご自身が親の看取りや実家の片付け、お墓の管理で苦労している世代だからこそ、「自分の子どもたちには同じような負担をかけたくない。今のうちに整理しておこう」と考えるのはごく自然なことと言えるでしょう。
墓じまいのハードル 7割が「お寺に相談しにくい」と感じている
AOMA行政書士事務所が全国の50歳以上を対象に実施した「実家のお墓」に関するアンケート調査によると、約3人に2人にあたる65.1%が「子どもへお墓の負担を残したくない」と回答しています。
先祖代々のお墓を大切に守りたいという思いと、子どもの負担をできるだけ減らしたいという現実的な配慮との間で、多くの方が葛藤を抱えているのです。
お墓の整理やいわゆる「墓じまい」について、最も多かった悩みの声は「何から始めればよいか分からない」というものでした。
「お寺へ墓じまいの相談をしにくい」約7割が回答
さらに、「お寺へ相談しにくい」と感じている人は72.9%にのぼり、必要な費用への不安やお寺との関係性が、行動を阻む心理的なハードルになっていることが分かります。
また、配偶者がいる人のうち72.5%が、実家のお墓の今後について「夫婦間で十分に話し合えていない」実態も浮き彫りになりました。
まとめにかえて:自分のため、そして家族のための「生前整理」
50歳代・60歳代は、ご自身の老後資金の準備に追われると同時に、親の介護や看取り、相続の問題に実際に向き合わなければならない、まさに「はざまの世代」です。
豊かなセカンドライフのために老後資金を準備することと同じくらい、実家の財産をどう分けるか、あるいは「管理が負担となるお墓」をどうするかなど、子ども世代に負担を残さないための事前準備が極めて重要になっています。
しかし、相続に向けた生前対策や墓じまいを実行するにしても、専門家への報酬や各種手続きの費用など、一定の時間と「お金」が必要になります。
だからこそ、現在の家計収支や貯蓄額を正確に把握する「お金の整理」と、お墓や財産をどのように残すか(あるいは手放すか)を考える「終活」は、切り離して考えることはできないでしょう。
心身ともに元気なうちから、この「お金」と「終活」の両輪をセットで計画しておくこと。
それが、ご自身の将来への不安を払拭し、結果として大切な子どもたちへ余計な負担を残さない「安心のセカンドライフ」へと繋がるのではないでしょうか。
参考資料
早大卒。証券外務員二種・相続診断士。15年の書籍校閲で培ったファクトチェック力を武器に、一次資料に基づく「お金と暮らし」の分析記事を担当する編集記者。認知症介護経験をいかし、読者目線に立った情報発信も。
