「賃貸と持ち家、結局どちらがよいのか?」この問いについて、誰もが一度は考えたことがあるのではないでしょうか。
冒頭から結論を言ってしまうと、全員に共通する正解というものはなく、「自分は何を重視してどのように生きたいのか」によって答えは変わってきます。
ただ、賃貸と持ち家それぞれの特徴をよく理解し、関係するコストを正確に把握することは、自分の住まいを選択するうえで必ず役に立ちます。
そこで本記事では、賃貸と持ち家それぞれの特徴を紹介した前編に続き、実際に必要となるコストをシミュレーションしながら、賃貸と持ち家はそれぞれどんな人に向いているのかを考えていきましょう。
生涯コストのシミュレーションによる比較、どっちがお得?
賃貸と持ち家のどちらがよいかを比較するうえで、「どちらの方がお金がかかるのか」はもっとも気になるところでしょう。
以下の前提条件で、賃貸に住み続けるAさんと、フルローンで家を購入したBさんについて、生涯で必要な費用を比較してみます。
- Aさん(賃貸・35歳)
- 賃料20万/月(共益費込み)
- 45、55歳で引越し費用(引越し代60万円、新居の初期費用80万円、計140万円)を想定
- 更新料は2年ごとに1ヶ月分
- Bさん(持ち家・35歳)
- 7000万円の物件購入
- 住宅ローン7000万円(金利は通期1.5%と仮定、元利均等30年返済、ボーナス返済なし、諸費用は自己資金)
- 10年ごとに100万円のリノベーション修繕費を想定
- 固都税は年10万円と仮定
図表 生涯コストシミュレーション
持ち家については、戸建てを想定して10年ごとの修繕費を計算しました。マンションの場合は、この修繕費の代わりに管理費用と修繕積立金などが必要となりますね。これらの費用は、合計すると賃貸物件の更新料や共益費とほぼ同額となります。
実際には住宅ローンの金利に左右されますが、今回の試算においては、ローンを完済してまもなく賃貸と持ち家の収支優劣は逆転しています。
資金を余分に準備しておき、繰上げ返済などによりこの分岐点を前倒しできればなお理想的です。金利分の出費を抑えられるとともに、その分の資金を運用にまわすことができます。
また、この試算は支出額の単純比較ですが、当然のことながら「持ち家はローン完済後に資産となる」という差があります。
持ち家であれば、それを担保にしてリバースモーゲージという手段を使うこともできます。これは、年金など収入が少ない高齢者世帯などが、持ち家という資産を使って、自宅を手放すことなく収入を確保できる仕組みです。
自分の価値観「どう生きたいか」で考える
賃貸を選ぶか持ち家を選ぶかは、お金の問題だけで決められることではありません。
「住む場所を変えるのが好きだから、賃貸でいろんな土地を経験したい」「子供が多いから、不自由しない大きな家が欲しい」といった自分の価値観や家族の状況をしっかり見つめ直すことが重要です。
賃貸に向いているのはどんな人?
まず、以下のような価値観や状況の人であれば、住宅を購入するよりも賃貸で暮らす方が向いているかもしれません。
- 家で過ごす時間が少ないため、必要最低限の空間や設備仕様でよい
- 転勤が多いため、すぐに転居できるようにしたい
- 勤務先の住宅手当は家賃補助のみで、住宅ローンには適用されない
- 持ち家を資産として考えると、バブル崩壊時のような価格変動が不安
- 自営業で賃料を経費計上するなど、家を節税対策に利用したい
- 住宅ローンの融資審査に通らないなど与信に問題がある
持ち家に向いているのはどんな人?
次に、持ち家に向いている人の価値観や状況を整理してみます。自分はどちらの価値観に近そうか考えてみてください。
- 子供や親など、同居している家族が多い
- 今から10年以上はひとつの場所で子育てをしたい、引越しや転校はしたくない
- 死ぬまで家賃を払い続けることに抵抗がある
- 内装・住宅設備機器のグレードや質感にこだわりたい
- 持ち家は自分が住むためだけのものではなく、将来的に利益を生み出す可能性がある資産と考える
図表 賃貸が向いている人・持ち家が向いている人
賃貸でもあり持ち家でもある!双方のいいところ取りをする方法
賃貸も持ち家もメリット・デメリットがあるため、どうしても決められないという方も多いでしょう。
参考までに、賃貸と持ち家のメリットを併せ持つ方法をご紹介します。それは、「借地権の土地に自分の家を建てる」という方法です。
借地権ってなに?
借地権とは、地代を払って他人から建物を建てるための土地を借りる権利のことをいいます。強い権利なので、自分が所有している土地ではなくとも、借地すれば基本的に不自由なく扱えます。(路線価図の借地権割合による。借地上の建物登記が条件。定期借地権は期限制限あり)
借地権は資産であり、途中で売却することも、子へ相続させることもできます。
借地権の土地であれば、家の購入費用を大きく抑えられる
この方法であれば「土地は賃貸、建物は持ち家」ということになるため、土地の購入費用が大きく減ります。都心部に家を建てたり、土地コストを抑えた分を高級インテリア家具や設備などに費用をかけたりすることもできるでしょう。
もちろん、地主に対し毎月地代を支払う必要はありますが、その代わりに税金がかかりません。土地購入時の不動産取得税や、土地へ毎年課税される固定資産税や都市計画税なども、納税義務があるのは地主です。
また、建築費用のために住宅ローン(建物に抵当権を設定)も使えます。
とはいえ、借地権の取引については、不動産市場での希少性や折衝相手が複数になるなど、簡単にできる方法とは言えません。不動産に詳しく信頼のおける知人などとよく相談し、リスクを理解したうえで取引するようにしましょう。
「持ち家購入」という不動産投資をしたいのか、したくないのか?
不動産営業マンの定番セールストーク、「賃貸より買ったほうが絶対に得ですよ」。これは、「持ち家という名の不動産投資」への巧妙な勧誘であるとも言えます。
個人にとって何千万もの借金ができるのは、持ち家購入時しかありません。これほど大がかりな投資は、当然ながら地価の下落といった暴落リスクで損失も大きくなります。
ここで心に留めておくべきは、「借金のリスクをとる覚悟ができているかどうか」です。賃貸と持ち家の大きな違いは、投資リスクの存在にあるとも言えます。
今後しばらくはインフレが進むと言われていますが、そうなると住宅ローン金利が上がる一方で、持ち家の資産価値も上がります。その状況下で、家を持つという「不動産投資」をしたいのかしたくないのか、さらには「自分はどのように生きるのが幸せなのか」をじっくり考えてみると、賃貸と持ち家どちらを選ぶかの自分なりの正解に近づけるでしょう。