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2024.08.20
2024.08.20

【大手住宅メーカー勤務経験者に聞く】賃貸と持ち家、結局お得なのはどっち?それぞれのメリット・デメリットを徹底解説(前編)

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執筆者:
高柳 一成
住宅不動産コンサルタント

東京エリアのマンション価格の平均が、ついに1億円を超えたことをご存知でしょうか。不動産に限らず、あらゆるモノの物価の上昇が続いていますね。賃貸物件の家賃についても、契約更新のタイミングなどで値上げが見込まれています。

「このまま高い家賃を払い続けるのなら、家を買った方が得なのでは?」「とはいえ、持ち家は維持費や税金がかかって大変そう」など、持ち家に憧れを持ちつつも費用面のことを考えると決断しきれないという方も多いのではないでしょうか。

賃貸と持ち家、どちらが得なのか?これは住まいをめぐる永遠の課題です。そこで、今回はそれぞれのメリット・デメリットをわかりやすくお伝えします。

「賃貸派vs.持ち家派」に決着はつくのか

不動産営業マンの定番セールストークに、「賃貸より買ったほうが絶対に得ですよ」というものがあります。誰でも一度は聞いたことがあるでしょう。

賃貸として毎月払う家賃は後に残ることがないお金、それに対して住宅ローンは返済が完了すれば家が自分のものになるのだから毎月貯金するのと同じ、というわかりやすいロジックです。しかし、本当にそうでしょうか。

まずは、賃貸と持ち家それぞれの特徴を確認してみましょう。

賃貸のメリット

家を購入せず賃貸に住み続けるという選択をすると、どんなメリットがあるのでしょうか。

ライフスタイルの変化に対応しやすい

賃貸暮らしの大きなメリットとして、自身や家族の状況に対応しやすいことが挙げられます。基本的にはいつでも転居ができるので、転勤や子どもの独立、定年退職といったライフスタイルの変化に対応できます。

転職、離婚など予期せぬライフイベントがあった際にも、賃貸であれば転居先を見つけるだけで身軽に移動できますね。持ち家の場合は、そう簡単に家を手放すことは難しいので、単身赴任や家を貸すといった選択肢を取ることになるでしょう。

所有リスクを負わず、住む場所が自由で住み替えが容易

仮に、隣人とトラブルになったり、地震で地盤が液状化したりといった問題があった場合も、賃貸であれば退去して住み替えれば済みます。

逆に不動産を所有している場合は、地価暴落などの事態も含め、こうしたリスクに対しすべての責任を負うことになります。

メンテナンス費用など所有コストはオーナーが負担

賃貸物件の場合、所有コストがかからないことも大きなメリットです。

自分の不注意で建物を傷つけてしまった、といった場合の修繕費用は当然自己負担ですが、部屋の修繕や設備の交換といった維持管理費用はすべて管理者が負担してくれます。万が一災害などで建物に被害が出ても、修繕費用はオーナー負担となります。

さらに賃料以外の住居費用や税負担もないので、突発的な支出に備える必要がなく、将来の収支計画も立てやすいでしょう。

居住権が保証されている

賃貸入居中は、一定期間以上の家賃滞納など契約書への違反がない限り、居住者の意図に反して退去させられることはありません。

現行の借地借家法(一般的な普通借家権)は借り手サイドにとても有利にできており、入居する権利が手厚く保護されています。

諸外国ではオーナー有利の法整備が多く、日本ほど賃貸入居者が守られている国はありません。ちなみに、アメリカではほとんどの州で、家賃を滞納すると遅延損害金5%の支払いと即刻の退去を迫られます。

賃貸のデメリット

一方で、家を購入しない選択をするとどんなデメリットが考えられるでしょうか。

家賃の支払いがずっと続く

多くの方が持ち家を検討するのは、「このまま一生家賃を払い続けるのは嫌だな」という気持ちがあるからでしょう。賃貸物件は、住んでいる限りずっと家賃を払い続けなくてはなりません。

また当然ながら、どれだけ長く払い続けても自分の資産になることはありません。さらに、物件によっては定期的に更新料や共益費なども発生します。

内装や設備は標準的

賃貸物件は、立地条件や広さで賃料が決まります。グレードの高い内装や、質の高い設備機器を設置しても家賃は変わりませんので、ほとんどの賃貸物件の設備はスタンダード仕様となっています。

また「介護のためにリフォームをしたい」「部屋の壁に穴をあけてエアコンを設置したい」といった要望があっても、オーナーの許可がなければできません。

高齢者は賃貸契約が難しいケースも

孤独死や認知症による近隣トラブルの懸念などから、65歳以上の高齢者の入居審査を厳しくしているオーナーが多いと言われています。

また、退職すると勤労収入がなくなるため、保証会社以外の身元保証人を求められるケースが増え、審査条件が厳しくなっています。

なお参考までに、シニア専用物件として「高齢者向け地域優良賃貸住宅」の制度や、高齢者世帯などが賃貸住宅を借りる際に保証人の役割を担う「一般財団法人高齢者住宅財団」の支援を利用できるケースもあります。

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図表 賃貸のメリットとデメリット

持ち家のメリット

次に、持ち家のメリットを整理して賃貸と比較していきましょう。

設備や内装を自由に決められる

自分の好みに合わせた家を建てられるということは、持ち家の一番の魅力でしょう。特に注文住宅であれば、間取りや設備、内装を自由に決められます。また、ライフスタイルの変化に応じていつでも間取り変更などのリフォームも可能です。

賃貸物件に比べると選べる間取りや設備の種類が多く、グレードが高いのもメリットです。例えば、「予算は多くないけれど、ラグジュアリーな質感のキッチンカウンターだけは採用したい」といった細かいオーダーに対応できます。

住宅ローンに関連するメリットを享受できる

ローンで住宅を購入した場合、住宅ローン減税が使えるので減税効果が得られます。

また、団体信用生命保険(団信)という好条件の生保が使えるのも住宅ローンならではのメリットです。一般の生命保険と比較して保険料が割安なだけでなく、万一の場合は保険で残りのローン残高をゼロにして家族に持ち家を残すことができます。これほど有利な保険は、住宅ローンを組む時にしか利用できません。

住宅ローン完済後は資産として活用でき、老後の安心に

住宅を購入してその住宅ローンが完済されていれば、退職して年金生活に入っても、賃料などの住居費負担がなく老後資金に余裕が持てます。万が一の場合、資産として売却し現金化できることも安心につながりますね。

また、持ち家であれば「リバースモーゲージ」という自宅を担保にして年金代わりのお金を毎月受け取る仕組みも選択できます。これはアメリカやオーストラリアでは広く一般的に浸透しており、日本でも制度的に改良が進んでいますので、今後の選択肢として知っておいて損はありません。

持ち家のデメリット

最後に、自分の家を持つことによるデメリットも確認しておきましょう。

所有リスクを常に負うことになる

株などは株式市場でいつでも売買できますが、不動産は流動性が低いと言われています。

まとまったお金が必要となり住宅の売却をしようとする場合、仲介業者の選定や物件の査定、媒介契約をしてからようやく不動産市場に出回ります。買い手と交渉し契約、登記手続きなどがすべて完了するのに、通常は数か月以上の時間がかかってしまいます。

また、持ち家価格の変動リスクがすべて自己責任となることにも注意が必要です。

税金・住居費の負担がある

固定資産税や都市計画税など、不動産の所有に対する税金が毎年課税されます。また、マンションであれば管理費、修繕積立金や駐車場代などの住居費が負担となります。

賃貸暮らしであれば把握もしていないようなさまざまな費用を自分で支払うことになるため、検討の際はこういった経費についても考慮しておきましょう。

メンテナンス費用がかかる

税金・住居費に加え、住居が古くなったり破損してしまったりした際の修繕費も当然自己負担です。

一般住宅は、一般的に約20年のサイクルで外壁塗装、屋根防水やシーリングなどの大きな修繕が必要です。火災保険などで一部回避することはできますが、台風などの自然災害リスクも考えられます。

住宅ローンの金利変動リスクがある

住宅ローンの金利変動により、大きな影響を受けてしまうこともデメリットのひとつです。

例えば、金利が1%上昇した場合は年間返済額30万円以上、総返済額にすると1000万円以上の増額となってしまいます(借入5000万円・元利均等30年返済の場合)。

途中で繰上げ返済をしようとしても、毎月払っていたのは金利分で元金は最初から減っていなかった、というケースも。インフレの影響により今後も金利上昇傾向が続くと予想されており、こういったリスクを想定して支払いを工夫したり貯蓄をしたりしておく必要があります。

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図表 持ち家のメリットとデメリット

「自分はどのように生きたいのか」を考えてみよう

賃貸と持ち家の「どちらがお得」なのかは、自分が重視したいことが何なのかで決まります。すべての人に通じる結論はないので、まずはそれぞれのメリット・デメリットをよく理解した上で、「自分がどのように生きたいのか」を考えることから始まると思っています。

後編では、賃貸と持ち家それぞれに必要な費用についてシミュレーションをし、具体的な比較検討をしてみます。その上で、賃貸と持ち家はそれぞれどんな人に向いているのかを具体的に分析していきます。

さらに、所有リスクと賃貸リスクの双方を回避できる唯一の方法、賃貸と所有をハイブリッドする第三の選択肢も紹介します。

執筆者/住宅不動産コンサルタント
高柳 一成

宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP2級)、住宅ローンアドバイザーを保有。早稲田大学を卒業後、大手住宅メーカーへ入社し38年間勤務後に勇退。個人住宅の営業職として新築住宅引渡し実績は350棟以上。都内で支店長を4年間経験後、2011年に海外部門へ。若手時代より担当したドイツなど欧州ルートの駐在員住宅の経験を活かし、同社オーストラリア建設法人CEO(本社シドニー)社長6年間、同社アメリカ建設法人COO(本社ソルトレイクシティ)社長3年間を歴任。2019年に帰国後は、同社東京エリア不動産の経営企画部門責任者を担当。現在は、日本と諸外国との住宅比較文化の研究を続けており、杉並区立小学校英語補助教員JTEも兼務。永遠のビートルズファンで、趣味はピアノ。最近は街角ピアノ荒らしにはまる。

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