この記事はここがポイント
- 国による2026年5月下旬からの介護保険利用者預貯金把握検討。
- 介護保険料は2000年月2911円から現在月6225円へ約2倍に増加。
- 所得に応じ最高3割負担、資産も勘案した公平な負担の追求。
「将来、自分や親の介護にいくらかかるのか不安で…」。元生命保険会社の職員であり、現在はFP(ファイナンシャルプランナー)として活動する私の元には、こうした切実なご相談が寄せられることもありました。現場で多くのお客様の家計を見てきた経験から言えるのは、「介護費用の見積もりの甘さが、老後のマネープランを大きく狂わせる原因になり得る」ということです。
そんな中、私たちの将来の負担に直結する重要な話し合いが国でスタートしました。2026年5月下旬、厚生労働省が開始した「介護保険の利用者の預貯金などを正確に把握するための検討」です。「自分の預金残高まで見られるの?」と驚かれた方も多いのではないでしょうか。
今回は、第1回検討会の内容をもとに、介護保険の基本的な仕組みから、今後の私たちの負担がどう変わる可能性があるのかについて、FPの視点を交えて分かりやすく解説します。
【65歳以上の介護保険料】2000年「月2911円」→現在「月6225円」約2倍に
介護保険にかかる費用は、半分を税金(公費)、もう半分をみんなから集める「保険料」で賄う仕組みになっています。この保険料の決まり方や支払い方法は、年齢によって異なります。
65歳以上(第1号被保険者)の保険料は市区町村ごとに設定され原則「年金天引き」
まず、65歳以上の人の保険料は、お住まいの市区町村ごとに基準額が設定され、個人の所得段階に応じて決まります。支払いは原則として年金からの天引きです。高齢化の影響で利用者が増えているため保険料は年々上昇しており、制度開始時は全国平均で月額2911円でしたが、現在(令和6〜8年度)は6225円になっています。
40歳〜64歳(第2号被保険者)の保険料は「医療保険」とセットで徴収
一方、40歳から64歳までの人は、自分が加入している医療保険(職場の健康保険や国民健康保険など)の保険料とひとまとめにして徴収されます。例えば、多くの中小企業が加入する「協会けんぽ」の場合、毎月のお給料(標準報酬月額)に一定の「介護保険料率」をかけて計算されます。
【自己負担は最高3割】年金年収340万円(単身)以上の負担はどうなる?
介護保険は、「高齢者の介護を社会全体で支え合う」ことを目的として、2000年にスタートした制度です。昔は家族が介護を担うのが一般的でしたが、高齢化や核家族化が進み、家族だけで支えることが限界になった背景から生まれました。
《対象者》65歳以上(第1号被保険者)と40~64歳(第2号被保険者)
介護保険制度の被保険者(加入者)
制度の大きな理念は、単なる身の回りの世話にとどまらず、「高齢者の自立を支援する」ことです。対象となるのは、65歳以上の人(第1号被保険者)と、40歳から64歳までの医療保険加入者(第2号被保険者)です。ただし、サービスを受けられる要件は年齢で異なり、65歳以上は原因を問わないのに対し、40歳〜64歳の人は末期がんや関節リウマチなど、加齢に起因する「特定疾病」による場合に限定されます。
《自己負担割合》原則「費用の1割」一定以上の所得「1〜3割」
介護保険制度における利用者負担
介護が必要と認定されると、原則としてかかった費用の1割を自己負担するだけでサービスを受けられますが、一定以上の所得がある人は2割または3割負担となります。
なお、この所得に応じた2割・3割負担のルールは65歳以上の「第1号被保険者」が対象で、40歳〜64歳の「第2号被保険者」は所得に関わらず一律1割負担となります。
具体的には、第1号被保険者の本人の合計所得金額が160万円以上で単身世帯の年金収入などが280万円以上の場合は2割負担です。さらに所得が高く、本人の合計所得金額が220万円以上かつ、単身世帯の年金収入などが340万円以上になる場合は最高3割負担が適用される仕組みになっています。
また、特別養護老人ホームなどの施設サービスを利用する際は、これらの介護費用とは別に、居住費や食費などの日常生活費も原則として自己負担(※今回の検討会で把握が議論されている部分)となります。
【預貯金把握の背景】2026年始動!なぜ国は利用者の資産状況を確認するのか?
介護保険制度において利用者の預貯金など資産状況の把握が進められている背景には、全世代型社会保障の構築に向け、所得だけでなく資産も総合的に勘案した「能力に応じた公平な負担」を求める国の方針があります。現在、介護保険の施設サービスで所得が一定基準以下の方の食費・居住費を補助する「補足給付」において、先行して利用者の預貯金額等を確認する実務が行われています。
補足給付について
さらに国(社会保障審議会・介護保険部会)では、サービスを「2割負担」とする対象者の拡大を検討中であり、その際の負担緩和措置として「所得が基準を超えていても預貯金が一定額未満であれば1割負担に据え置く」という新しい仕組みの導入も併せて議論されています。しかし、こうした所得と資産の双方を見る公平なルールを広く浸透させるには、自治体が金融機関へ1件ずつ書面等で照会している現行のアナログな手続きが、双方の大きな事務負担になっているという大きな課題がありました。
そこで政府は、マイナンバーの活用検討やデジタル庁を中心とした預貯金照会のオンライン化を進め、正確性を担保しながら手続きを大幅に効率化・省力化する環境づくりに乗り出しています。2026年5月27日に開催された厚生労働省の検討会は、まさにこの事務負担軽減に向けた、実務レベルの具体的なデジタルインフラ作りを話し合い始めた場と言えます。
まとめにかえて
今回は、厚生労働省の新たな検討会の内容をもとに、介護保険の預貯金把握の動きや制度の基本について解説しました。
「預貯金の把握」と聞くと少し身構えてしまいますが、これは制度を長持ちさせ、本当に困っている人へ支援を届けるための大切な話し合いです。生保業界やFPとしての実務経験から皆様にお伝えしたいのは、「制度の変更を嘆くのではなく、ルールを正しく知って対策を打つことが最大の防御になる」ということです。保険料の上昇や負担割合の増加は、家計にダイレクトに響きます。
高齢化が進む日本において、介護保険の負担や給付のバランスが見直されるのは避けられない流れです。だからこそ、私たちは「ひとごと」ではなく、自分や家族の将来に関わる「自分事」として捉える必要があります。
- 現役世代のうちから、最新の制度変更のニュースにアンテナを張る
- 公的介護保険の仕組みを正しく理解してマネープランを立てる
- 家族で老後の暮らしや介護費用について話し合ってみる
これからの安心な暮らしを守るために、今後の国の議論の行方に引き続き注目しつつ、できる備えから始めていきましょう。
参考資料
ほけんの窓口グループ出身。FP2級、生命・損害保険募集人資格。多数のライフプランニングや保険EC事業立ち上げを経験。現在は最適な保険の選び方を伝えるべく、コンテンツ制作や専門記事の執筆業務を行う。
日本生命保険相互会社出身。元マネースクール講師、現役FP(CFP®・1級FP技能士)でJ-FLEC認定アドバイザー。保険から年金、資産運用まで幅広い知見を持ち、「お金の先生」としてLIMO&ファイナンス編集部にてわかりやすく信頼できる記事をお届けします。

介護保険における資産要件の厳格化は、持続可能な社会保障制度を維持するために今後さらに議論が加速していく分野です。記事にある通り、制度の変更を「自分事」として捉え、公的保険でカバーしきれない部分をどのように備えるか早めに計画を立てることが重要になります。
まずはご自身の資産状況と今後の年金収入を把握し、必要に応じて専門家に相談しながらライフプランを見直してみましょう。